第54話 あの時と同じお月様

「ツバキ、大丈夫?」

「無理。追い付けない……」

 一番後ろ、サクラとミツバから大分遅れて追いかけるナツメ達。ユリが話しかけたツバキは疲れたのか、飛ぶ速度が更に遅くなっていく

「でも、ミツバってあんなに早く飛べたっけ?」

「ううん。飛べなかったはずだけど……」

 とユリとナツメが疑問を言っていると、月明かりに写る二人の後ろ姿が小さくなっていく

「二人とも早い……」

「サクラは分かるけど、本当、何でミツバまで……」

「お喋りは後で。暗いから見失っちゃう……」

 精一杯、二人を追いかけていくナツメ達。だが、どんなに追いかけても距離は近づくどころか遠ざかっていく



「ミツバちゃん!」

 ナツメ達よりも早い速度で、ミツバを追いかけているサクラ。手の届きそうな距離でも、なかなか追い付けず、ずっとミツバの名前を呼んでいた

「サクラさんの本……私が……」

 後ろでずっと叫んでいるサクラの声が聞こえていないのか、振り返ることなく独り言を呟くミツバ。どんどん進むスピードが上がりサクラも追い付けず、疲れた顔になっていく



「ナツメ……私も、もう無理……」

 息も絶え絶えで足が止まったユリとツバキ。二人よりも先に進んでいたナツメ。落ちないように手を繋いで耐えている二人に気づいて慌てて戻ってきた

「二人とも、頑張って」

 ユリの手を取り、二人を引っ張って追いかけようとするナツメ。だが、少し二人と話している間にミツバとサクラの姿が見えなくなってしまった

「見失った……」

 慌ててユリとツバキの手を離し、辺りを見渡すナツメ。だが、二人の姿はなく呆然としていると、ユリとツバキも居ないことに気づいて、戸惑い辺りを見渡している

「手分けして探そう。見つけたら連絡して」

「分かった……ツバキ。行くよ」

「う、うん」

 手を繋いで一緒に暗闇の空を飛んでいったユリとツバキ。その後ろ姿を見届けて、ナツメも暗闇の空をまた飛びはじめた





「……ここ。私、知ってる」

 サクラとも離れ一人きりで辿り着いたのは、さっきナツメ達と いた公園から更に離れた森の中。大きな木々を掻き分けて、そーっと地面に降りると暗い森の中を見回していく

「とても大切な……約束した場所」

 と、呟きながら月明かりを頼りに、草むらを掻き分け歩いていく

「でも、誰と約束したっけ……」

 記憶を頼りに、どんどん歩いていくと、とてもひらけた場所に辿り着いた。ふぅ。とため息ついて、ゆっくりとまた歩き出す。広い場所の真ん中に着いた頃、ミツバの後ろから、ゆっくりと歩く足音が聞こえてきた


「ミツバちゃんと、ここにまた来るなんて、もう二度とないって思ってたのにな」


「私だけの願いは叶わないんだ……」

 と言いながらクスッと微笑むサクラ。声に驚き振り向くミツバの所へと、ゆっくりと歩いていく

「サクラさん……」

「サクラって呼んでほしいのに、結局呼んでくれないんだね」

 ミツバのそばまで歩き立ち止まると、ふとサクラが空を見上げた。雲一つない綺麗な空に満月の光が灯っている

「あの時と同じお月様だね……」

 と、呟いたサクラの言葉を聞いて、ミツバも空を見上げて月を見た

「夢と同じ月……」

 と思い出したようにミツバが言った言葉に、サクラが悲しげな目で、ミツバに近づいていく

「夢か。本当、夢だったらよかったのに……」

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