第53話 本の在処を知る人

「……サクラ。よくここにいるってわかったね」

 ミツバの隣に着いたサクラにナツメが不機嫌そうに話しかける

「……本が教えてくれたからね」

 ぎゅっとミツバを抱きしめてナツメに返事をするサクラを見て、ユリとツバキも不安からか、ぎゅっと抱きしめあう


「サクラ、さっきの話……」

 と、ユリが声をかけるとナツメ達の方に、ゆっくりと振り向いたサクラ。すぐにミツバの顔を見て、また強くぎゅっと抱きしめた

「私のせいだから……ミツバちゃんは関係ない。もう本の話をしないで」

「サクラさん……私は……」

「ミツバちゃん、帰ろう。家まで送っていくよ」

「でも……」

 二人で話し合い、急いで帰ろうと、ミツバの手をぎゅっとつかんだサクラ。そんな二人の様子を見ていたナツメが、帰ろうとする二人に慌てて駆け寄っていく


「待って。サクラ」

 ナツメに声をかけられて、ゆっくりと振り向くサクラ。


「サクラにも聞きたいことがあるの。二人とも帰すわけにはいかない」

「……聞きたいこと?」

「そう、ずっと気になっていたこと」

「……なに?」

 ナツメにクスッと微笑むサクラ。その笑顔にナツメが歯を食い縛りながら、サクラの持つ本を見た

「サクラ……本はどうしたの?」

「本?本ならあるよ」

 と、持っている本を差し出すサクラ。初めて見るサクラの持つ本をミツバが興味深げに見ていると、突然ナツメが叫びだした

「違う。サクラの本!」

 公園に響くナツメの声に驚くミツバ。隣にいるサクラをると、微笑んだまま動かない。そんなサクラに、向かってナツメがまた叫んだ

「これは、アルノさんの家に置いてあった本!サクラの本はどこ?どうしたの?」

 と言ったナツメの言葉に驚いてサクラの顔をまた見たミツバ。変わらないサクラの表情に不安になっていく中、ユリとツバキも抱きしめあっていた体を離し、サクラに向かって叫びだした


「無くしたの?新しい本はどうしたの?」

「ミツバの本が来てから、サクラの本はどこにいったの?」

「アルノさんに新しい本を作ってもらわないの?アルノさんもどうして言わないの?」

 ユリとツバキが矢継ぎ早にサクラに問いかけるが、サクラは何にも言わず、ただ二人の様子を見ている。そんな中、サクラの本と聞いて、ミツバが何か首をかしげると、夜になりそうな空を見上げた

「サクラさんの本は確か……」

 と、呟いた言葉に慌ててサクラがミツバを抱きめた。だが、反応することなくボーッと空を見上げ続けるミツバ。急にミツバの様子が変わり心配していると、抱きしめているサクラを振り払い、空を見上げたまま一歩一歩ゆっくりと歩きはじめた。サクラやナツメ達がミツバの様子を見ていると、ミツバの前に本が現れると、ぎゅっと抱きしめ、ふわりと空を飛びはじめた


「ミツバ!」

「ミツバちゃん!」

「待って!どこに行くの?」

 サクラ達の叫ぶ声に振り返ることなく夜になった空をフラフラと落ち着かなく飛び続けていくミツバ。暗くなった空のせいで、姿が見えなくなっていくミツバをサクラ達が大声で呼び続けながら追いかけていくが、意外と早い速度で飛んでいくミツバに追い付けないサクラ達。焦りから更に声が大きくなっても、ミツバはどんどん進んでいく。そんなミツバは、本をぎゅっと抱きしめてポツリと一人呟いた

「サクラさんの本を私が……早く見つけにいかないと」

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