第31話 光に包まれた思いと戸惑い

「お姉ちゃん。お帰りー」

 家に着いてすぐ、リビングの方から声が聞こえてきた。疲れた顔をしてリビングに向かうと、一人でテレビを見ているホノカがいた

「ただいま、お母さんは?」

「買い物行ってるよ。お姉ちゃんの分のおやつあるよ」

 と、ホノカに言われてリビングから繋がるキッチンの方に行って、冷蔵庫を開けると、ミツバの分のアイスが一つ残されていた。だが、サクラの家でたくさんのお菓子を食べてきて、まだお腹一杯のミツバ。リビングから様子を見ているホノカに声をかけた

「私はいいや。おやつ食べていいよ」

「本当?やった!」

 ミツバの言葉を聞くなり、大急ぎでキッチンに入ってくると、嬉しそうにアイスを取りだした

「ホノカ。ちょっと眠るから起こさないでよ」

 アイスの袋を開けているホノカの横を通りながら話かけても反応なく、美味しそうにアイスを頬張りリビングに戻っていった。そんなホノカを二階に上がる途中の階段から見ていたミツバ。クスッと笑って階段をまた上がっていく



「ふぅ……」

 ミツバの部屋に入り、ベットの上に鞄を投げて、その隣に座ってバタンと横に倒れて、また大きくため息ついた

「夢みたいな一日だったな……」

 体を起こして、鞄から携帯を取りだすと、たくさん来ていたサヤカとマホからのミツバを心配するメールに返信しようとするが、疲れからか眠くなってきたのかウトウトとしはじめた



「……あれ?」

 目を覚ましたミツバ。ゆっくりと顔を動かして、窓を見た。夕暮れだった空がいつの間にか真っ暗になっていた

「寝ちゃってたんだ……」

 ベットから体を起こして窓を開けると、そよ風が吹いて、まだ少し寝ぼけていたミツバの体を起こしていく

「サクラさん達は、空を飛んで書いているのかな?」

 と、月を見てサクラ達の事を思い出しポツリと呟くと、鞄に入れていたはずの本が、ミツバの目の前で光を放ち、ふわりと浮いていた


「本が……どうして?」

 と、驚いていると、本が勝手にパラパラとめくりはじめ、ゆっくりと文字が浮かび上がる

「ちょっと……なに?」

 あたふたとしていると、本を包むように放っていた光が無くなり、本だけが浮かぶ姿に、下に落ちると思ったミツバが恐る恐る少し窓から体を出して本に手を伸ばした

「よかった……」

 落ちることなく本をつかんで、ゆっくりと部屋の中に戻ろうとした時、ぐいっと本に引っ張られた

「えっ……ちょっと……」

 本を落とさないようにと、ミツバも本を引っ張るが、本の力が勝り、本に引っ張られて外に飛び出した

「ちょっと、落ちる……なんで?」

 本をぎゅっと抱きしめ、上へ下へ右へ左へと早いスピードで空を飛び回るミツバ。止め方が分からず、だだ地面に落ちないように祈って、目をつぶり、あっちへこっちへと本の進むままに空を飛んでいく。目が回り、本を抱きしめていた力が無くなり、手放しそうになった頃、突然、ぽふっと後ろから優しく抱きしめられた

「ミツバちゃん、大丈夫?」

 聞き覚えのある声に、恐る恐る目を開けると、ぎゅっとミツバを抱きしめて心配そうに見ているサクラと、同じく心配そうに見ているユリとツバキ、ナツメもいた

「サクラさん……みなさんも、どうして?」

「散歩だよ。ミツバこそ何してるの?」

 ナツメの言葉を聞いて、うつ向き抱きしめていた本を見つめた

「私は……本が勝手に……」

 と、一人飛んでいたことを思い出して震えながら答えるミツバ。その姿と本を見て、顔を見合わせるナツメ達。サクラは、ぎゅっと強くミツバを抱きしめた

「……お家まで送るよ」

 サクラの言葉に小さく頷いて、抱きしめられたまま、空を飛び家に帰っていくミツバ。二人を囲うように三人も一緒にミツバの家に向かっていく。誰も話をしないまま、すぐにミツバの家に辿り着いた





「じゃあね、ミツバちゃん、おやすみなさい」

 ミツバの部屋の窓で、ミツバに微笑み手を振るサクラ。部屋の中に入って、まだ少し怯えている様子のミツバを少し心配しつつも、先に帰ろうとしていたナツメ達のもとに、ふわりと飛んでいった

「……あの」

 月夜に写る後ろ姿に思わず、小声でサクラ達を呼び止めたミツバ。声に気づいたサクラ達がミツバの方に振り返ると、

あたふたしているミツバがいた

「明日……サクラさんの家に行ってもいい?」

 ミツバの言葉を聞いたサクラが、ゆっくりとミツバの所に戻っていくと、不安そうな顔をしているミツバのぎゅっと手をつかんで優しく微笑んだ

「もちろん良いよ。美味しいお菓子作って待ってるね」

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