第39話 闇への誘い
ユーワ=ホルテはホルテ男爵家の二女として生を受けた。何不自由なく育った彼女は少しわがままだった。幼少期に魔法の才に目覚めた彼女は、それはもう両親の寵愛を受けていた為だろう。それ故に彼女は、天狗になっていた。学院に入学するまでは・・・
学院に入った彼女は知る事になった自分より才能のある人間は幾らでもいる事に。その中でも一人、突出した人物に気づいた。それがシフォン=クレアその人だ。
彼女も聞かされていた、クレア家の令嬢が同学年に入る事を。そして、家命でシフォンと振興を深める様に言いつけられていた。
シフォンは、誰も近づけさせない雰囲気を常に出していて、何時しか遠巻きに見られる存在になっていた。その遠巻きに見ている者の一人に彼女はなっていた。それでも、どうにかお近づきなろうと模索している内にシフォンの一挙手一投足を見逃さない様になり、ある種の憧れの様なモノを抱くようになった。
ある時、シフォンに一人の少女が積極的に関わろうとしている事に彼女は気づいた。彼女の名はコリーダ=セルシス。彼女も別の意味で有名人であった。亡命貴族の子で誰しもが彼女に関わる事を避けている人物だった。
そんな彼女にユーワは近づいた。彼女を利用してシフォンにお近づきになると言う打算的な考えもあったが、それ以上に、彼女の存在が疎ましく、嫌、妬ましく思っていたのだ。だから、彼女にシフォンの素性を告げて、彼女が近づかない様に画策した。
しかし、それが逆に彼女に火をつける結果になってしまい、より一層シフォンに絡んで行く様になってしまったのだ。
それを苦々しく見ていたユーワだったが、二人が勝負しているのを利用する事を思いついた。シフォンとコリーダが勝負しようと言うその瞬間、彼女はこう叫んだ。
「二人とも頑張って!」
それは、打算に満ちた言葉だった。どちらか片方を応援すると角が立つと考えた彼女は、その言葉を選んだのだ。だが、彼女の思惑とは違ってあらぬ方向へと誘った。
そう、彼女だけではなかった、シフォンとお近づきになりたかったのは。ここぞとばかりに他の生徒達も二人を応援し始めたのだ。
こんなはずでは・・・とユーワは又、苦々しく思うのだったが、結果的に二人に近づく事が出来たがそれは、クラス全体であって、ユーワ個人としてではなかった。でも、今はそれで良いと彼女は思った。
◆◇◆
ユーワは独り校舎の屋上で佇んでいた。
私、何で昔の事を思い出してるんだろう・・・・結局、あの後、普通にお友達になれたじゃない・・・・
その時、彼女の頭に直接、語りかける謎の声が響いた。
≪それは、お前の本心か。振り向かせたくないのか。手に入れたくないのか。≫
「誰!誰ですの今、話し掛けたのは!」キョロキョロと周りを窺うが誰もいない。
≪好きでもない男と付き合って満足か。≫
「何を言ってるの!私はちゃんとシチーの事好きだよ!」
≪本当にそうか。シフォン=クレアより好きだと言えるのか。≫
「・・・い・・言えるわ!」
≪本心を隠し続けるつもりか。≫
「隠してなんかいない!シチーもシフォンさんも同じ位好きなんだから!」
≪言えたじゃないか。同じ位なんだろ。≫
「ち・違う。これは言葉の綾で・・・・」
≪教えてやってもいい。お前の本当に欲しい物の手に入れ方を。≫
「な・何を・・言ってるの・・・」
≪簡単だ。振り向かなければ振り向かせればいい。手に入らないのなら奪えばいい。≫
「ふざけた事を言わないで!」
≪力があればそれが可能だ。欲しくはないか全てを可能にする力を。≫
「馬鹿にしないで!そんな都合のいい力あるわけないじゃない!」
その時だった、一人の男子生徒が駆け寄って来る。
「お~い!ユーワ!こんな所にいたのか。捜したぞ・・・それにしても何、大声出しているんだ?」
「シチー・・・こ・声がするの・・・」
「声?俺の声がどうかしたのか・・・」
「違うの。頭の中に直接、変な声がするの・・・」
「・・・良くわからないが・・・きっと疲れているんだよ・・・医務室で休ませて・・・あ、そうか、医務室も壊されていたな・・・取り敢えず腰を下ろそう。」
促されその場に体育座りで腰を下ろすユーワ。それに寄り添うようにシチーも座った。
「なんか怖いよ・・・私・・・私じゃない別の何かが入って来るみたいで・・・」
「俺じゃ、頼りないかも知れないけども、一緒に居てやる事位は出来るからさ・・・」
「シチー・・・」 少しだけ安心するユーワだったが。
≪お前が望むなら何時でも力をやろう。お前ならわかるはずだ私の場所を。≫
ユーワは耳をふさぐ様に手で頭を押さえた。
「何なの!私に何をさせたいの!」
≪待っているぞ。お前はいずれ私を欲する。待っているぞ。≫
そう言い残すとその声は、聞こえなくなった。
シチーは錯乱するユーワをただ抱き寄せる事しか出来なかった。
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