第37話 水流大渦

 「私が解析魔法だけの女と思わないで下さい。今から皆さんが安全に配置に着けるよう援護します。」


    『覆い隠す霧』≪ハーミットミスト≫


 リョーコは魔法を唱えると校庭全体が霧に覆われた。「効果は一分程度です。気配も遮断されるはずですから今のうちに!」


 生徒達は一斉に走り出し所定の配置に着いた。そして、固唾を呑む様に霧の晴れるのを待った。

霧が晴れるのと同時に前面に展開している武術科の生徒の前に異形の怪物が襲い掛かる。霧が逆に利用される形になってしまったが、前面の生徒は全員が大楯を装備し密集体系を取っていた為、その攻撃を受け止める事が出来た。前面の隊を指揮するデービットが叫ぶ。


 「押し戻せ!!」 その号令の下に全員が一丸になり、前進し押し返した。それに呼応し左の隊を指揮するリチャードが突貫する。


 「みんな~僕に続いて~・・こちらに注意を引くよ~」 怪物は左の隊に標的を変え襲い掛かろうと言う時、今度は右の隊が後方から攻撃を仕掛ける。その繰り返しで交互に攻撃をしていく。


 「やはり、知能は低いようだ、いちいち攻撃を受けた方に反応してくる。後は、体液の攻撃を注意しながらこれを続ける・・・・魔導科、早く頼むぞ!」


 「問題ありませんよデービット先輩。流石、シフォン先輩、既に魔法の構築に入ってますよ。」


 「お前なんでこんな所に来ているんだ。危ないぞ!」


 「何、言ってるんですか。こんな美味しい場面を近くで見ずして解析屋(アナライザー)が務まらないってもんですよ。」


 「意味が解らん・・・もう少し後ろに下がっていろ。」




 シフォン達魔導科生徒は、シフォンを中心に五芒星を描く様に五箇所に人員を配置していった。シフォンは、二箇所に水系魔法、もう二箇所に風系魔法の詠唱を支持し、最後の一箇所に魔力強化魔法に宛てた。


 「シフォン先輩は、バランス重視で配置を組んだみたいですね。この協調魔法の配置と言うのは、紡ぎ手の裁量による処が大きいと言われてます。『水流大渦』≪アクアシュトリーム≫と言う魔法は人によっては、水魔法の配分を多くしたりします。そうする事で魔法の方向性を左右させます。水と風を同配分したと言う事はつまり・・・」


 「・・・・私に説明されても意味が解らんぞ。で・・つまり何なんだ。」


 「つまりですね・・・シフォン先輩は風魔法が重要なファクターだと考えているかと。」(根拠はありませんけど。)


 「お~い!中央。僕らにばかり働かせないで、少しは手伝ってくれたまえ~」左右の部隊は交互に攻撃を続けていた。


 「リチャード先輩。中央はあくまで牽制、主任務は魔導科の護衛ですから。もう少しの辛抱です。頑張って下さい。」


 「そりゃないよ~セニョリータ。」




 シフォンは配置された五箇所からの魔法の詠唱を束ね始めていた。


 人数の多さは問題ない。試験の時の一人少ない状況の方がきつかった・・・五人にする意味が良く分かりました。魔力の配分も申し分ない・・・リョーコさんの人選が絶妙だったって事ね。


 「紡ぐ紡ぐ、大河の一滴を。紡ぐ紡ぐ、巻き上がる突風を。一つ一つを紡いで繋ぐ。一つになりて偉大なる魔導の力を呼び起こす。我、シフォン=クレアの名において発動させん。」




 「どうやら、準備は整ったみたいですよデービット先輩。退避させて下さい。」


 「そんな事は分かってる・・・・総員退避ィィ・・・」


 「最後にもう一度、私の出番。・・・凍てつく風よその場に留めよ・・・」


    『氷結陰止』≪アイシクルシェイド≫


 リョーコの魔法が放たれると怪物は一瞬で氷りづけになり動きを止めた。武術科の生徒が余裕を持って退避する事を可能にした。


 「今ですよ、ぶちかましっちゃて下さいな!」


 氷りづけになった怪物だがすぐさま氷を破壊し、中央の部隊に迫ろうとしたが、時すでに遅し協調魔法が発動されていた。


 「大いなる大河の濁流よ天に向かって巻き上がれ。 『水流大渦』≪アクアシュトリーム≫。」


 その魔法は怪物を捕らえ、水流は天高く巻き上がっていた。濁流の凄まじい回転でズタズタに引き裂かれて行く怪物。その威力は怪物の回復力を優に凌駕していた。まるでボロ雑巾の様にボロボロになって、終いには肉片一つ残さず塵となって消えて逝った。


 「・・・・バランス重視とは・・・全くの見識違いでした。寧ろ、攻撃偏重の為の同配だったのですね。私は上から下への圧殺系の魔法を想定していたのですが・・・逆に巻き上げる為の風魔法。水流の回転を増す事によって威力を倍加させるなんて・・・正に天才の発想。」


 「だから、私に解説されても良く解らんぞ。」


 「ああ、お構いなく。私自身が納得する為のモノですから。」


 怪物を倒したその瞬間、校舎で固唾を呑んで見守っていた生徒達が歓声を上げる。


 「やったぞ!」 「すげー。」 「信じられない。」 と言った声が引きりなしに上がっていた。


 そんな声を尻目に魔導科の生徒達がシフォンを取り囲んでいた。


 「十五人の協調魔法をいとも簡単に成功させるなんて流石です。」


 「そんな事ありませんよ。リョーコさんが適切な人選をしてくれたお陰です。調整が楽になりましたから・・・」


 そこへ武術科の生徒達も合流し歓喜の声を上げた。学科の垣根を超え喜びを分かち合った。


 「ひとえに私の解析力のお陰ですね。」


 「いやいや、この僕が引きつけていたお陰だよ~」


 「ここに居る全員がヒーローって事でいいんじゃないかな・・・・」


 「そうですね。皆さんの力が合わさってこの結果に繋がったのですから。」


 この歓喜の輪に校舎に居た生徒も加わりちょっとした騒ぎに変わっていった。だが、その様子を独り悲しそうに見つめるユーワの姿があった。


 「私はただ・・・シフォンさんの事を思って言っただけなのに・・・・」


 彼女は、暗く沈み込んでいくのであった。




 生徒の溢れる校庭で異形の怪物を倒したらしき場所にひっそりと植物の芽が出ている事に誰も気づいていなかった。

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