第17話 クレア家当主との邂逅

 ジェイド=オージェンはクレア家屋敷の一室に通されていた。

 そこはクレア家当主の書斎らしき場所だった。そこには、淡い金髪で精悍な顔立ちをした男が待ち受けていた。


 彼こそがクレア家現当主のガトー=クレア公爵その人だ。


 「では、ごゆるりと。」 爺やと一緒に入ってきた使用人が退室する。


 対峙する二人。暫くの沈黙。お互いに感慨深いモノがあるのだろう。そのさなかやはりこの男がいつもの調子で声を掛ける。


 「いやー当主。元気してたかい?」


 「あなたは10年前と何一つ変わらぬ姿ですね、オージェン卿。あなたの方こそ元気そうで何よりです。」


 「元気ではないぞ。私は、既に死んでるしね。」


 「ハハハハハ・・・そうでしたね・・・・まぁ、それは置いといて、あなたが又、ここに戻って来るとは思っていませんでしたよ。」


 「まあね・・・・近くに来たんでね、ちょっと寄ってみた。別れの挨拶でもしようと思ってね。」


 「別れの挨拶?・・穏やかではありませんね。」


 「この10年で力を使いすぎちゃってね、力を温存しても1年も、もたないだろうね。」


 「そうですか。来たるべき時が来たと言う事ですか・・・・」


 「しょうがないねこればっかりは・・・そもそも、今ここに居る事じたい奇跡の様なモノなんだから・・・・」


 「申し訳ございません。私がここにあなたを呼んだ為に大きく運命が変わってしまったのでしょう。」


 「いやいや、当主のおかげで私達は、揺蕩う虚無の世界よりこの世界に生還出来たのだから、感謝しかない。」


 「そう言って下さると助かります。」



 「・・・それはそうと、本来なら旅の土産話でも一つと行きたい所なんだが・・・ここに来るまでにある噂話を聞く機会が多かったんだが・・・・」


 「噂話ですか?・・・最近ですが、プリークネスの森で魔族が出没していると言う噂は聞きますね。その事でしょうか?」


 「それは又、優しい表現ですな・・・私が聞いたのは、魔族がドラゴニアに攻め込むってモノなんだが・・・・その真偽を確かめるためにここまでやって来たんだ。」


 「そんな噂が流れていたのですか!!そんな根も葉もない事を流すとは、けしからん輩が居るとは。」


 「・・・・それがそうでもないみたいなんだ。森で三つ目の魔族と遭遇したよ。根掘り葉掘り探りを入れてみて、そしてこの国に入って確信したよ・・・噂ではすまなさそうだ。」


 「そんなまさか・・・」



 「もうすでにこの国には魔族が入り込んでるぜ。」



 「あり得ない、龍の結界で守られてるこの国で魔族の侵入を許すなんて・・・」


 「ちょっと信頼しすぎじゃね、龍の結界ってヤツを・・・どんな物にも死角ってモノが存在するもんだぜ。その三つ目の魔族は、瞬間移動の特殊能力を持っている様だった。その能力で直接この国に放り込んだと推測するね私は・・・・」


 「・・・・わかりました。あなたがそこまで言うなら間違いないのでしょう。あなたなら魔族の居場所を見つけられるのでしょう・・・例の 『サグル』 とか言う御技(スキル)で。」


 「まぁ、可能だね。でもそれは私のすべき事では無いね・・・この国に生きる者達、この時代に生きる者が何とかすべき事であって、遥か昔に生きた私には関係ない事であってどーでもいい事なんだけどね・・・・」


 「そんな事を言わずお力添え頂けないでしょうか。」


 「構わんよ!魔族の居場所を見つけるのには力を貸すよ。只、それだけだ・・・戦いには関わらんよ。まぁ、私では戦力にはならないしね・・・」 今の人間には手に負えない敵が現れたら話しは変わりますけどね。


 「何のご冗談をあなたが戦力にならないなんて・・・嫌、止めておきましょう。今は魔族を捜すのが先決。爺や!爺やは居るか!地図を持ってまいれ!!」


 暫くすると爺やが地図を携えて書斎へと入ってきた。


 「お待たせしました御主人様。地図はここに。」


 「ご苦労!先ほど帰ったばかりで悪いがもう一度、出かける準備をしてくれ!王宮に向かう!!」


 「かしこまりました。では、早速。」


 爺やが部屋を後にすると、机に地図を広げ検討を始める。


 「当主、流石に範囲が広い・・・だから大まかな位置しかわからんぞ。詳しくは近くに行かないとどうにもならん。」


 「大体の位置で構いません。やって下さい。」


 ジェイド=オージェンは目を閉じて集中を始める。そして地図に数カ所の場所を指し示した。


 「・・・・全部で9カ所か・・・・」


 「現状これが精一杯かな。問題は1カ所に1体の魔族とは限らないって事だな・・・・それにしても1カ所・・不味い場所があるね。」


 ジェイドが地図を指し示した場所は。


 「ああ、王宮に入り込まれいるのか・・・最悪の事態を想定して動く必要があるな。」


 「ベタだけど王様に取って変わってるんじゃね。」


 「オージェン卿、申し訳ないが王宮まで一緒に来てもらいますよ!魔族の特定してもらいます。」


 「・・・・まぁ、そうなるよね~面倒な事になったもんだ。」


 「準備が整い次第、出発しますぞ!オージェン卿。」


 ガトー=クレアは席を立ち奥に下がろうとした時。


 「私は行くとは言って無いんだけどな~」 ごね始めるジェイド。


 ガトーは立ち止まるとゆっくりと振り返る。


 「私は知っています。あなたは私達を結局は助けてくれる事を・・・あの時の様に。あなたは根本的に優しい・・・嫌、甘いのです私達に・・・・」


「・・・甘いか・・・そうかもね・・・・でもそんなに信頼されてもね困るんだよな~」 当主よそれは違うぞ。私は私の目的の為に君らを助けてるだけだよ。




 出掛ける準備が整うとガトーはジェイドを引き連れ馬車へと向かった。その途中、スフレとシフォンの姉妹が待ち受けていた。


 「お父様。急に何処に向かわれるのですか?」


 「王宮に行く。スフレ、緊急招集があるだろうから何時でも出れる準備だけはしておくんだ。」


 「では、私も一緒に参りますわ。」


 「王宮は我々だけで充分。今は、待機しておけば良い。招集後そこで詳しい内容の説明があるだろうからそこで聞くといい。今は、説明する暇はない。」


 「あの・・・わたしにも何かお手伝いする事があったら・・・・」


 「シフォン、お前はいつも通りしていれば良い・・・・」


 シフォンは寂しそうに俯いた。それを尻目に足早に過ぎ去るガトー。


 「じゃあね、スフレちゃんシフォンちゃん。又、今度。」


 「お、おじ様まで王宮に向かわれるのですか?」


 「ま~ね~。私は行きたくないんだけどね。」


 ジェイドも後に続いて行った。



 「何であいつまで王宮に・・・・」


 スフレは少し考え込むと。 「部外者のおじ様まで王宮に行ったとなると、何か大事が起こっていると言う事かしら・・・」


 「何でそうなるですか?姉さま。」


 「おじ様には不思議な能力をお持ちなのよ。千里眼的な能力を・・・お父様はその能力を必要としてるのでしょう。」


 そう言えば、あいつ見えないモノが見えるとか言ってた様な・・・本当の事だったと言うの。


 「シフォンちゃんはまだ学生何だもの、気にしなくて良いのよ。」


 「でも、わたしも何かの役に立ちたいのに・・・・」


 「それにしてもシフォンちゃん、何でおじ様の事をそんなに毛嫌いするの?」


 「へ?そう言えば何でだろう・・・第一印象が悪かったせい・・・良く・わからない。」


 何であいつの事をこんなに嫌っているのだろう。

ふざけた言動が気に入らない?そんなの今までにもそんな人は幾らでもいた・・・どうでも良くて、特段、気にする事も無かったはずなのに・・・なのにどうしてあいつだけは、こんなに許せない気持ちになるのだろう・・・


 シフォンは自身の感情を理解できずにいた。だが、その答えを知るのはもっと先の話しであった。





 陽は沈み、夕暮れの街を馬車が疾走する。王宮に向かって。そして事態は急転する。

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