第9話 和解
ダンジョンに丸一日こもってまた夜の街に戻ると、ホストクラブの前でぐてんと横たわる聖騎士セリアさんが発見された。
「おーい、収穫は?」
「うー?しゅうかく?」
「ダメだこりゃ」
ロフさんも魔力切れと疲労でふらふら、もはや私の肩によりかかって寝てしまっているし、適当に宿を取るか。
「君、眠くないの?」
アーサーさんが店から出てきた。
「あーなんか眠らなくても平気で」
「聖剣のせいか」
「多分?」
「・・・2人を転がす所が必要だろう。私の部屋を貸すよ」
チャリン、と手のひらに「富裕町1-1-1」という木のキーホルダーのついた鍵を置かれた。
「なぜ勧誘はダメで部屋はいいのか・・・」
「使ってないからね。この街にいる間は貸してあげる」
「親切すぎませんか!?」
「まあ、貴族だからね」
そう言いながらアーサーさんはごめん寝してるセリアさんをしばし見下ろして、すらりと長い脚で店に戻っていった。
「レベルもスキルも稼げた。あとはアーサーさんさえ頷いてくれれば魔王討伐に行けるんだけど・・・」
魔法の地図を広げて魔王討伐に必要なレベルとスキルが稼ぎ終えたことが確認できたところで夜が明けた。
ガチャ、と誰かが家のドアを開けた音がして、ロフさんが飛び起きる。十分な睡眠が取れたのだろう。
「寝ていた?この俺が人前で?」
「しょうがないですよ。ずっと働き詰めだったし」
「・・・驚いた。3人で寝てたの?華奢なエルフと女の子2人なら余裕だね」
アーサーさんが仕事から帰ってきた。ジャケットを脱いでシャツとスラックスだけになっているが、うぅ、なんともタバコと酒くさい・・・。どっちも嫌いだ。
「使ってない屋敷じゃなかったのか」
「ああ、あの時一応意識はあったのか君。帰ってきてなかっただけで私の帰る家はもうここしかない。だから帰ってきた」
「そういうことを言っているのではなくて・・・」
私はなんとなく意思疎通ができてないロフさんとアーサーさんの会話に割り込んだ。
「アーサーさん、私もうレベル上げが終わったのでセリアさんとロフさんを連れて魔王城に行こうと思うんです。貴方も覚悟を決めてください」
「私は行かないって」
「でもセリアさんのことをずっと気にかけてるし、私達にも親切にしてくれるし、この魔王討伐パーティが気になるんですよね?」
「私は選定の剣から逃げた身だ。もう騎士に戻る資格はない。この世界の人間のために犠牲になるのもまっぴらごめんだし」
「それについては同感だ」
ロフさんが頷いた。人間嫌いばっかだなこのパーティ。
「でもこのまま魔王軍が好き勝手して罪のない人々が酷い目に遭うのって目覚めが悪いじゃないですか。今ある生活は人々が豊かに暮らしてるからあるものなんですよ?」
「人々の暮らしがままならなくなれば間接的に私に被害が出ると?」
「人間なんてこのまま滅びてしまえばいい。どうせろくなことをしないんだから。いつも欲望まみれで、同族を傷つけ、見下し、すぐに裏切る。いなくなって当然だ」
「本当にそうでしょうか。今私達が座ってるベッドだって職人さんが自分の人生を懸けて作ったものです。本当に人ってろくなことしかしないんでしょうか」
まっすぐと2人の目を見てそう主張すると、ロフさんは俯いて、アーサーさんはくすりと笑った。
「だいたい、人間ってのは意外としぶとい。魔王が地上を焼き尽くしても残る種がいるだろう。それからやり直していけばいいんだ。みんな最低になれば差別も嫉妬もなくなる」
「君には喚び出してしまった借りがある。その借りくらいは返さなければならないかもね」
「?ついてきてくれると言ってくれてる気がするんですが」
「そう言ってるよ」
「無理だ。大体その女、ドワーフ草の副作用で死にかけてるぞ」
せっかくアーサーさんが乗り気になっているのに、ロフさんが気を削ぐようなことばかり言う。
「ドワーフ草ってなんですか」
「幻覚作用のある強い薬草だ」
「やばい草じゃないですか」
「ああ、だが勇者なら万能薬の一つでも持っているだろう」
「一応魔王軍の城とダンジョンで拾ったものがありますけど・・・」
「それがあれば治る」
「なっ・・・どうしてそこまでして・・・」
「勇者には、私が忘れてしまった人を信じる心がある。その結末を見届けたい」
「ふん、裏切られておしまいだ。こんなパーティ、しょせんは寄せ集めだしな」
「まあまあ、とりあえず魔王城まで行ってみましょうよ、ロフさん」
「チッ・・・」
ロフさんは不吉なことしか言わなかったけど、魔王討伐パーティはどんどん北東に進んで簡単に魔王城へと辿り着き、ボス前の回復スポットに来てしまった。さすが最強パーティ。
「勇者、魔王と戦う前に彼とよく話した方がいい」
今すぐにでも裏切りそうな闇を背負っているロフさんを前に、アーサーさんがそう耳打ちしてきた。
「ハーフエルフというのは、種を残せない割に長生きだ。ゆえに人生を悲観してしまうものも多く、現魔王もハーフエルフと聞く。だけど簡単な解決策がある」
「なんでしょう」
「愛だよ」
アーサーさんはなぜか悲しそうな顔をしてそう言った。何か過去にあったんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます