第8話 商都No.1ホストのアーサー
ヴェニスに案内された本物の勇者の営んでいるという酒場はスーツのイケメンが女の子に金を積ませているいわゆるホストクラブだった。
「ぐえっ」
「こんな所にアーサーがいるわけないだろ!」
セリアさんがノーモーションでヴェニスの首を片手で絞めていたが、ヴェニスはここに違いないと足をバタバタさせて主張していた。そんな私達も席には座ってる訳で・・・。
「じゃんじゃん酒持ってこーい!」
ものの数分でセリアさんは出来上がりホスト達の養分になってしまった。この人は本当に酒に弱すぎ。しかし、私も酒が楽しめればどんなにいい席だっただろうか。
「飲ーんで飲んで飲んでセリアちゃん!」
「サイコー!」
酒もノリも楽しめない、きつい。逃げよう。
「なんだ、飲まないのか。美男と酒、あんたの好きそうなものばかりだと思うが」
ロフさんが引き止めてきたが嫌なもんは嫌なので逃げます。
「酒は嫌いです。それよりアーサーさんと話してきます。先ほどセリアさんの姿を見た瞬間ぎょっとして控え室に行った人が見えたから・・・多分あの人だと思うんです」
「"酒は"ね」
「ロフさんも行きませんか」
「なんで」
「好きだから・・・」
「・・・」
ジト目で睨まれた。どう見ても信じてないのになんでついてきてくれるんだろうこの人。
「なんであの女ここにいるんだよ!」
控え室を覗くと肩までの銀髪を編み込んでハーフアップにした育ちの良さそうな美少年が拳を衣装箪笥に叩きつけ、血走った青い瞳をこちらに向けた。
「勇者候補のアーサーさんですよね?私貴方の代わりに勇者にさせられた者なんですが、人手が足りないので魔王城行きのパーティに入ってくれませんか?」
「よくこの状態の人間に話しかけられるなお前・・・」
「・・・」
社会人になって身につけたダメ元でもぶつかる精神をロフさんに呆れられていると、アーサーさんはよろよろとしながら私の前へとやってきて、私の額に手を伸ばした。
「っ」
しかしギリギリのところでロフさんが後ろに隠してくれた。
「ふん・・・私の作った人形に随分ご執心のようで?ハーフエルフ」
アーサーさんが銀色のまつ毛をはためかせながら笑う。
人形・・・?
「どういうことだ?」
「どうもこうもない。そいつは異界から呼び寄せた聖剣の呪いを受けさせるためだけの使い捨て人形だ。私の所に辿り着く前に朽ちると思っていたが、案外しぶとかったな」
「・・・呪いを受けてくれる人間をわざわざ用意したということは、本物の勇者として魔王を倒しに行く気があるのか」
「私は選定の場の門の前で気づいたのだ。この世界の人間に救われるほどの価値はないと。ましてやそのために聖剣の呪いを受ける必要など皆無だ。だから私は行かないよ」
さあ金がないなら帰った帰った、と言われ私達は店を追い出されてしまった。
「仕方ない・・・。セリアさんがアーサーさんの説得に成功するまで私達は近くのダンジョンでレベル上げでもしますか、ロフさん」
「その前に今日の宿だろ。それとも深夜行軍か?契約金も払ってないのにパーティの魔法使いづかいが荒いな。ハーフエルフの扱いが分かっているらしい」
文句を言われすぎてどの文句に返答すればいいか困るなぁ。
「とりあえずまだ夜戦は早そうなので宿で休みます」
「ふん」
「1人部屋でいいですか?」
囁くように言うと、ロフさんはフードを両手で引っ張って顔を隠しながらこくりと頷いた。さて、好感度も上がったし、ダンジョンの浅い層で野営しよう。
「はあ!?ダンジョンに入るならゴミでもいい!酒場で適当に盾役を連れていけ!」
しかしダンジョンの入り口で別の文句を言われてしまった。
「雇うお金がないんですよ・・・」
「実績を作るためにタダでもいいと言う冒険者はごまんといるし、あんた勇者の剣を抜くために喚び出された使い魔みたいなもんなんだからどんどん戦いまくって金稼げよ」
「だってあんまり勇者の剣使ったら寿命縮むとか脅かすし・・・」
「元から勇者の剣に選ばれていたのなら話は別だ。あんたは聖剣の呪いで魔王を倒すまで死と老いを禁じられているんだからな」
「!?それが本当ならどうしてアーサーさんは呪いを受けたくなかったんでしょう?」
「人のことわりの外に追い出されるということはいいことばかりじゃない。あの人間プライド高そうだったし、迫害されるのが死んでも嫌だったんだろ」
「だからホストになって女を手玉に取る側に回ったのかなぁ」
「おい、日が暮れるぞ」
「うわぁ、行きます行きます!」
そうして私達は酒場で若い冒険者の兄妹を雇ってダンジョンへレベル上げに向かうのだった!
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