第7話 勇者の力
勇者の力は絶大だった。
私が勇者だと知ると家出娘のドルチェちゃんは家に帰ってお父さんと弟達と泣きながら抱き合ってハッピーエンドだし、
なぜかエルフから森に埋められかけていたセリアさんはエクスカリバーの魔法で蘇生できたから。
「アタシのことは起こさない方がよかったんじゃないかい・・・」
蘇生後細かい傷があったので回復術をかけてやっていると、セリアさんは疲労困憊といった顔で私にそう言ってきた。
「エクスカリバーがあればなんとかなるかなって」
「・・・まあ、逃げ出したのは誤報ってことにしてやるよ。このまま魔王討伐の旅を続けよう。それしか名誉を取り戻すすべはない」
「なにがあったんですか?」
「聞きたい?」
セリアさんに「聞くな」とでも言うような圧のある笑顔を向けられ、気の弱い私は黙った。傷の治療も終わり、セリアさんは手甲と胸当てを付けながら立ち上がる。
「ヴェニスが商都から迎えの馬車を呼ぶと言っていた。さっさとこんなとこズラかるよ。魔王城は王都から北東、こっちは北西、逆方向だ」
「それじゃあ、ロフ・・・エルフの祭司をパーティに勧誘していいですか?」
「はあ?」
「あの人ここじゃ何かと暮らしにくそうだし、エルフだし、私もパーティに目の保養が欲しいし・・・」
「あのね、魔王討伐の旅は遊びじゃないんだよ。だいたい何かの間違いでパーティに勧誘出来たとしてもあいつは裏切る。絶対裏切る。断言する」
「でもロフさんを勧誘できれば、馬車を使って遠回りせず、このまま北の森を突っ切って魔王城に辿りつけますよ」
「アンタはエルフを侍らせたいだけだろ!言っとくけど、絶対後悔するよ」
「エクスカリバーがあるから大丈夫ですよ」
光り輝く青い聖剣を掲げながら言うと、セリアさんは「勝手にしな」と言って宿屋を出て行った。
「あの女あんたに泣き付かなかったのか」
教会にロフさんを訪ねると、彼は小さめなエルフ耳をフードから出しながらケラケラ笑ってそう言った。教会は死体安置所もかねているのか大量の死体があった。
「泣きつく?」
「的外れだったな。エルフに嵌められたと逆上して村民を皆殺しにすると踏んでいたのに、1人になった途端威勢がなくなったか」
「セリアさんはさっさと魔王討伐に向かいたいんです。だから私、あなたを勧誘したくて」
「は?」
「ロフさんの力はすごいです。こんな田舎でじっとしてるのはもったいないですよ。私達と行きましょう!」
「どうして俺が大量の魔力を溜め込んでそれを使わないでいたかわかるか?死体が溜まるのを待ってそれを使うためだよ!」
ゆらりとロフさんの後ろで人影が起き上がりべたべたと裸足の足音を立てながらこちらに歩いてくる。ゾンビ!いやこっちじゃグールと言うんだろうか。とにかくまずい!
「あれっ?」
私は聖剣をかざして全員を蘇生しようとしたのだが、目眩がして膝をついてしまった。
「黒魔法であんたの寿命と聖剣を結びつけた。そろそろ尽きる頃だろう。この忌まわしい村と消えてしまえ!偽勇者!」
「どうして・・・そんなに悲観的なんですか?」
「なんだと?」
「私がロフさんくらいの顔面なら、自分を差別する村なんか捨ててチヤホヤしてくれそうな人間の多い王都に行きますよ。もったいないですよロフさんは!」
「あんたは・・・本当の差別を受けたことがないんだな。何をしても認められない絶望を味わったことがないからそんなことが言えるんだよ」
「そんなこと!私だって何しても認められなかったことありますよ。でもそんなの気にしたってしょうがないじゃないですか。自分のことを好きな人の所に行きましょうよ」
「そんなのどこにもいない!」
「ここにいます!」
ここにエルフ大好きオタク女が・・・。
ん?なんか変な雰囲気になったな。え?こいつ俺のこと好きなの?みたいな雰囲気になってる。
でもここでエルフ大好きなんでとか言ったらドルチェちゃんがヴェニスに向けるような軽蔑の視線を向けられる気がする・・・。もういいや好きってことにしよう。
「私はロフさんを愛しています!」
ボテッと死体の崩れる音がした。
ロフさんを強引に連れてセリアさんを探すと、彼女は馬車を待つヴェニスと話していた。
「じゃっ行きましょうか、セリアさん」
「・・・魔王城までそいつを背負って行くつもりかい。戦うつもりがない奴は足手纏いだよ。今アーサーの情報をこいつから買った」
「これで親父から殺されないで済みますわセリアはん〜」
「アーサーがいれば魔王討伐が随分楽になる筈だ。あいつは今商都で酒屋を営んでいるらしい。ってことでいったん商都に戻るから馬車に乗りな、勇者」
「とか言って、そいつに聖剣を差し出す気だったりしてな」
「うるさいんだよこのエロロフが」
「もう1人前衛が欲しい気もするし行くか〜」
「あんたの連れてきた奴のせいで空気が最悪なんですわ」
ヴェニスに文句を言われながら私はロフさんの縄を解き、馬車に乗り込んだ。
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