第6話 中ボス
「も、もうお金がない・・・嘘やろ・・・? 」
「ハハハ! いい気味だなクソ商人! 」
「心から笑っとるやないかい! 」
そりゃそうだ。
その人はお前の苦しむ姿を見る為だけに私にエクスカリバーの乗っ取り方を教え、絶妙に死なないように手助けをしながらお前をここまで誘導したんだぞ。
並の執念じゃない。
というかめちゃくちゃ根に持つタイプだ。
「ヴェニス、金貨袋は多分中ボスには効かないからもう諦めな」
私達の前には緑のセーブポイント。
この先にはこの城を任されている魔王軍の将軍クラスと囚われの村長の娘ドルチェちゃんがいるはずだ。
「勇者はんまで僕を追い詰めんといて! 親父にバレたら勘当されてまう! その時は勇者はんが僕をもらってな!? 」
「嫌です」
「現地妻にでも養ってもらえ」
「そーだそーだ。港ごとにいるんだろ? 」
「僕童貞やもん!そんなんおらんもん! 」
その顔で童貞はないだろう。
見え見えな嘘がつけるくらいには余裕のようだ。
「それじゃ男性2人に任せて私は後ろで応援って事でいいスかね? 」
「あ? 俺は後衛なんだが? 」
「僕も後ろで回復アイテム投げるくらいしかできへんよー 」
「ヴェニスを逃げ回らせてる間に魔法打てばいいじゃないですか」
「こんな雑魚、魔族の前じゃワンパンだ。エクスカリバーがあるからこそ俺達はここまで来れたんだ。あんたがやれ」
「こんなか弱い女子に前衛をやれと?」
「それ以上ごねるんなら俺は帰るぞ」
やりますやりますやります。
強キャラに帰られたら本当に勝機なんてない。
ヴェニスに関してもそうだ。
私が死にかけた時に何度あのヴェニスまんに救われたことか。
私達は1人も欠けてはならないパーティなのだ。
「何時間かけても絶対にドルチェちゃんを取り返す! 」
いざ決戦!
意気込んで中に入ると、ちょうど女の子に乱暴しようとしているでっかくてごっついおじさんがいた。魔族という割に普通の人間だ。耳長のエルフを見習った方がいい。
「離して! 私は帰るの! 」
「あんな村に帰ってどうするドルチェ。お前の癒しの手さえあれば魔王様もきっとお前を受け入れて下さる。そうすれば人間にも魔族にも迫害されずに生きられるんだぞ」
「父も弟達も必ず待っている。あんたなんか信じない・・・! 」
「ぐわっ」
ドルチェと思わしき少女は手首から緑色の光を出して将軍をよろめかせた。
「私の手は命を吸い取る事も出来るの!あんたなんか死んじゃえ! 」
「この女ァア! 」
「危ない! 」
男の大きな手がドルチェちゃんに振りかぶる。
「ぐあああ!」
ベチャッ。
とっさにエクスカリバーで男の手を防御したらあっちの腕が半分くらい斬れて血を被ってしまった。
「うえっゲホッゲホッ、あっ君大丈夫!? 」
「あ、貴方・・・、人間・・・なの・・・? 」
その言葉は私が返したいくらいだった。
ロフより更に澄んだ緑色の瞳、白磁のように白い肌、腰まで伸びた金色の髪・・・。
まるで天使だ。
ヴェニスがよだれを垂らして欲しがるのも納得の上玉であった。
「もう大丈夫。助けに来たんだよ。お父さんと可愛い弟君達の所に帰ろうドルチェ」
「逃げなさい・・・」
「え? 」
「人間の貴方では勝てない。私が囮になるから・・・! 」
「わっ」
ドルチェは私を突き飛ばして魔族の魔法から庇った。
なんて娘だ。
大の大人3人が押し付けあった前衛を華奢な体で引き受けようだなんて!
なんだろうこの気持ち!
生きているのが恥ずかしい!
「助けないと! 」
私はロフに目配せして詠唱を開始させた。
その間に駆け出し、傷を一瞬で回復させもう一度ドルチェを殴ろうとした将軍の懐に思い切り入る。
「くらえ! 」
ザシュッ!
「ぐおお!! 」
将軍の表情が苦痛に歪んだ。
綺麗に鍛えられた腹筋から、赤い血がしたたり落ち、彼は膝をつく。
そんなに深くは入らなかったようだが、まるで斬撃が生きているかのように傷口が広がっていた。
「おのれえええ! 」
将軍は魔力でそれを弾き出した。
来る・・・!
ドルチェちゃんを守るように剣を構える私。
「私を守る必要はないわ! 逃げて! 」
ドルチェちゃんが私をどかそうとした。
「だめ! 守るよ! 」
「うおおおおお! 」
将軍が叫びながら走ってきた。
私はドルチェちゃんを庇いながら寝転がるように横へ飛び退いた。
そうしないといけないくらい猛スピードだったからだ。
「ドルチェエエエエ! 貴様! 貴様をオオオ! ウオオオオオオオ! 」
完全に正気じゃない。
再度向かってくる将軍に対して、私はドルチェちゃんの背を押して将軍の動線から外した。
「戦士さま! 」
体勢を崩したままの私に将軍は向かってくる。
ヴェニスがダメージを予測して回復アイテムを投げた。
その時だった。
「そこまでだ! 」
ビリリッ
「グアッ! 」
雷の矢が将軍の大きな体を突き刺した。だいぶ村で見たより長い詠唱でロフが決着をつけたのだ。結構女の子2人で持ち堪えたよ私たち。
「・・・」
「・・・」
苦労して魔王の幹部の1人を倒したというのに、私達を包んだのは気まずい沈黙だった。だいたい奴隷商人とそれを手引きしていたっぽい被迫害祭司のせい。
「ここまで来れば、追ってこれないと思ったのに・・・」
「!?待ってドルチェちゃん!」
ドルチェちゃんは城の窓から飛び降りようとしたけど、ギリギリで私が間に合った。私は彼女の腰に抱きつきながら必死に叫んだ。
「大丈夫!ちゃんとお父さんと可愛い弟君達の所に送り届けるから!私勇者だから!大丈夫だから!」
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