第19話 おもちゃ

翌週は、毎日のようにめぐみから説教メールが来て、苛立ちを誤魔化すように酒を飲んで無理やり眠っていたんだけど、目が覚めると軽く頭が痛い。


まだ外が薄暗い中、ゆっくりと体を起こし、テーブルの上を見るとウィスキーの瓶が空いている。



シャワーを浴びるために1階へ行くと、千歳がリビングで筋トレをしていた。


声をかけることなくシャワーを浴びていると、幼い千歳が『キラキラ見たい』と言っていたことが頭に浮かぶ。


『キラキラかぁ… あの時の事、何も覚えてないんだろうなぁ… 親父に似てボケてるところあるし…』


シャワーを浴び終え、キッチンに行くと、千歳は入れ替わるように浴室へ飛び込み、親父は眠そうにコーヒーを飲みながら、切り出してきた。


「ちー、お前の後輩になるって。 学力が足りないって担任に言われたんだと。 推薦でお前の学校に行くってさ」


「今からでも遅くねぇだろ? 家庭教師つけるとかすれば良いんじゃねぇの?」


「そんなもん付けたらキラキラ見れなくなるだろ? ちーならベルトも取れるだろうし、ジムを継がせられるぞ?」


「は? ちーに継がせんの?」


「お前が嫌がるからな。 ヨシのチャラさは、俺の意思に反するからダメだ」


「あいつ女だぜ?」


「強ければ関係ないだろ? これで中田ジムも安泰だな」


親父は満足そうにそう言い切っていたけど、その態度にイラっとしてしまい、思わず本音が口からこぼれた。


「人をおもちゃにすんのやめろって。 今まで我慢してた部分もあるんだから、さっさと解放してやれよ」


「おもちゃになんかしてねぇだろ?」


「してんじゃん。 トレーニングだって自分から進んでやってるとは思えねぇよ」


「自らの意思だ。 あいつ、俺が防衛戦で負けた時、学校で虐められたんだよ。 俺が負けたことが引き金になって、学校中からいじめの対象になったんだよ。 体が小さくて話さないから、余計にいじめられて、担任に聞いても『知らない』の一点張りでな。 一度だけ、ボロボロになって帰ってきたんだけど、その時に『ちゃんとしたトレーニング始めてくれ』って、あいつから言ってきたんだ」


「きっかけはそうかもしれねぇけど、だからってジムを継がせるとか無茶苦茶過ぎんだろ?」


「とにかく、ジムはちーに継がせて、お前はこの家を継げ」


親父の言葉にブチっと来てしまい、思わず怒鳴りつけた。


「ふざけんな! 何でもかんでも勝手に決めてんじゃねぇよ!! 俺らはお前のおもちゃじゃねぇんだよ!!」


「父親に向かってお前ってどういうことだ!!」


「うるせぇ! とにかく俺は何も継ぐ気はない!」


勢いよく怒鳴りつけた後、自室に駆け込み、財布と携帯を持って自宅を飛び出した。



大学時代、何度か親父と口論になって、家出をしたことはあるけど、この時だけは無性に苛立ち、かなり不貞腐れながら行く当てもなく歩いていた。


『俺、親父に八つ当たりしてんのかも…』


ふと過った考えに、歩く速度を緩めると、背後から「あれ? カズ兄じゃん」という声が聞こえ、コンビニ袋をぶら下げた桜が歩み寄ってきた。


「どうしたの?」


「親子喧嘩」


「ふーん。 行く当ては?」


「ねぇよ」


「んじゃウチくる? 私、これから仕事行くけど、1時間ビール1本で手を打たない? 一番高いやつ。 ついでに掃除と飯準備もよろしく。 飯代はカズ兄出してね」


「OK」


思わず即答した後、カギを受け取り、教えてもらった家の場所に向かっていた。

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