第20話 過保護
桜の家に行ったまでは良いんだけど、正直、足の踏み場がない。
玄関には靴が散乱しているし、キッチンは空き缶でいっぱい。
奥の部屋に入ると、服は脱ぎ散らかしてあるし、雑誌は転がっているし、テーブルの上には化粧品が溢れかえっていたんだけど、グローブとシューズはピカピカになっている。
『避難場所、間違えたか?』
躊躇しながら洗濯と掃除を半分だけ済ませ、買い物に出かけていた。
買い物に行った後、冷蔵庫を開けると、ビールとつまみしか入っていないし、調理器具がやかんしかない。
『どうなってんのあいつ…』
『色気』の『い』の字も見つからないまま、やかん一つで作れるものを考えたんだけど、どうしてもカップ麺しか思い浮かばず、ヨシにメールを送った。
【桜の家に居るから、小さい鍋持ってきて】
≪え? また家出? 桜ちゃんちってカオスじゃね?≫
【すげーカオス。 あと、着替えも頼んだ】
≪りょ!≫
『軽い…』
そう思いながらも、中途半端だった掃除をしていると、家のインターホンが鳴り響いた。
ドアを開けると、大きな紙袋とボストンバックを持った千歳が玄関に立っていた。
「父さん、心配してたよ」
「今回は騙されねぇよ」
「居場所教えていい?」
「ダメ。 桜も被害に合う」
「わかった。 んじゃシカトしとく」
千歳はそう言った後、勢いよく駆け出し、自宅のほうへと向かっていた。
数時間後。
桜が帰宅したんだけど、桜は綺麗になった部屋を見て、歓喜の声をあげていた。
食事をテーブルに並べ、二人で飲みながらボクシングの話をしていると、携帯が鳴り【めぐみ】と表示されていた。
完全に無視し、携帯をミュートにしていたんだけど、桜はいきなり俺の電話に出て、普通に話し始めた。
「さっきからうっさいんだけど! え? カズ? 今飲んでるよ? つーかさ、あんた何者? え? 彼女?」
桜は携帯を耳に当てたまま「彼女いたの?」と聞いてくる。
「…別れたい奴」とだけ言うと、桜は「別れたいって言ってるよ?」と電話の向こうに話始めた。
しばらく話していると、いきなり「うっせーなぁ! カズ兄が別れたいって言ってんだから、もう終わってんだよバーカバーカ」と言い、電話を切る始末。
「…おま、何してんの?」
「馬鹿に馬鹿って言ったの。 あいつ日本語通じねぇじゃん。 つーかさ、別れ話出た時点で終わりじゃね? もっとバサッとザクッとしなきゃやってらんねぇっつーの」
自信満々に言い放つ、桜の言葉はよくわからないけど、雰囲気だけは納得できる。
その後、桜に家出の理由を聞かれ、親父とケンカしたことを話すと、桜は「あちゃ~」と言いながらため息をついていた。
「おじさん、過保護だもんねぇ」
「普通、過保護の奴が子供殴るか?」
「殴るっていうか、鍛えてる部類に入るんじゃない? 殴るときは、絶対リング上がるでしょ? ジムを継がせるっていうのも、子供に物を残したいって気持ちの表れなんじゃない?」
「いらないものを押し付けられても迷惑じゃね?」
「それは子供の意見でしょ? 親は何かを残したいって思うんじゃない? カズ兄とヨシ君も家庭持ったら出ていくだろうし… 子供と離れるのが嫌でべったりしてる感じするよ? 特にさ、千歳は女の子だからお嫁に行くし、自分のせいで怪我したり、いじめられたり、いろいろあったから余計側に置きたいんだよ。 カズ兄の追っかけのせいで別々に住んでるから、余計に過保護になってるんじゃない?」
「そんなもんかねぇ…」
ため息交じりに飲み物を飲むと、桜は「長男は辛いねぇ」と、冷やかすように言い、黙ったまま飲み物を飲んでいた。
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