第15話 違う

親父にボコボコにされ、壁にもたれかかりながら呼吸を整えていると、千歳が1階からアイスバックを持ってきてくれた。


何も言わずにアイスバックを受け取り、顔を冷やしていると、リングの上から「ヨシ! 来い!!」と言う親父の叫び声が聞こえ、ヨシは完全に怯えながらリングに上がる。


「英雄さん、若いよねぇ…」


完全に呆れ返る桜の言葉に、何も言えず黙ったまま顔を冷やしていた。



しばらくリングの上を眺めていると、吉野さんが1階から上がり切り出してきた。


「カズ、中田ジムのこと、光に言ってないのか?」


「光君? メールで伝えたよ?」


「いやさ、さっき柿沢のおばさんに会って、『光君にジムの事教えなきゃダメじゃない! 英雄さんの愛弟子でしょ!?』っていきなり怒られたんだよ」


吉野さんの言葉を聞き、桜が横から口をはさんだ。


「この前、わざわざうちの店までカットしに来て、シャンプー担当したときに話したよ? 『肘が治って、体力が戻ったら遊びに行く』って言ってた」


「そうか。 あのおばさんもボケてるからなぁ… もう4年も前なのに、英雄さんがちーをスーパーに置いてきたこと、昨日のことみたいに話すしな。 今だに千歳の事、小3だと思ってるし… 」


千歳は吉野さんの言葉を聞き、少しイラっとした表情をした後、サンドバックを蹴り始めていた。



『あ、軽くキレた』



そう思いながら顔を冷やしていると、ヨシがリングから運ばれ、隣に座り込む。


黙ったままアイスバックを渡し、リングの上に向かっている千歳の背中を眺めていた。


『なんだこの兄妹…』


リングの上でボコボコにされている千歳を見ながらそう思っていると、ヨシが呆れたように切り出してくる。


「ちー、強くなってきたな…」


「毎日、じいさん家からここまで、毎日片道6キロ走ってるしな」


「居候っていつ解禁すんの?」


「知らね。 今は引っ越す余裕もないだろうし、俺の追っかけのせいで、昔の事思い出してんだよ。 現役の時は余裕があったから引っ越しできたけど、今はそうもいかないし、あの時の怪我が相当ショックだったんだろうな」


「親父の追っかけに踏まれたって話? 俺、その時の事、あんま覚えてないんだよね…」


「ちーは完全に覚えてないし、気にすることねぇよ」


ため息交じりにそう言いながら、殴り飛ばされる千歳の事を眺めていた。



数時間後、警察官がパトロールをしに来てくれたおかげで、自宅に帰ることができたんだけど、千歳はジムを出た途端、桜と二人で走り出していた。



夕食とシャワーを終えた後、2階にある自室に行くと、ドアの前には千歳の持ってきた段ボールが置いてある。


『いらねぇ…』


仕方なく自室に運び、中を見ると、手紙やタオル、ぬいぐるみまでもが入っている。


【ずっと見てました。 もしよかったら、連絡ください】


何気なく取った手紙に、ため息をついていた。



『嘘つけ。 こんな事言っておいて、付き合ったら【イメージと違う】って言うんだろ? どいつもこいつも高望みしすぎなんだよ』



手紙の内容に完全に呆れ返り、プレゼントの山をどう処理するべきか考えていた。

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