真鯛
街道を進む。足が重い。それだけ歩いた、ということだろうか。
否、と応ずる私。
では、慣れない格好で歩いたからだろうか。黒のタイトスカートに、黒のヒールを履いていることを思い出しながら、そう思案する。
リクルートスーツ。
もちろん、礼服めいたスーツも纏っている。髪型もそうだ。額を露見させて開襟のシャツとの整合性を保つ。そんな格好で昼過ぎのビジネス街を歩く。
どうも、足の重さはヒールの所為ではないらしい。規則正しく埋められたタイルが、私の向かうべき道を示す。私は目的地など定めていないのに。彼らの親切を私は裏切ったということになるだろうか。
そんなことを考えながら、ちらと顔を覗く。彼らの顔を一覧する度に思う、秩序とは巨視的視座に伴う視野狭窄の具物であると。再び顔を上げて、すぐそこの信号を意識する。
私は止まった。
この場合の秩序とは、視野狭窄の単なる付録なのだろうか。概して多義的な言葉というものは、その対立概念の断定によって意味の断層を把捉できる。だが、私はそうしない。それは花束を一輪に還元することだからだ。乱雑な状態を愛し、知ろうと欲すること。総和と全体がナットイコールであるからして、私は全体から生じる創発を捨象することはできない。横断歩道を歩きながら、そう思う。
そうだ、この場合の秩序とは何であるか。よく秩序は平和と結びつく。この場合の秩序とはそれに隣接している。では何故、規則正しいタイルの配列と我々が横断歩道を規則正しく守る善行が「秩序」、あるいは「規則立った」と言表されるのか。それはちょうど……
個性の圧殺と没個性の圧搾だ。この取り組みは、大学によって肥大化せられた自我を恥部とすることで、最早瀕死の体となった没個性を引き摺り出す。就活とはエロチシズムの探求であろうと思う。
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