第38話 優しくない男

 人に優しくだとか親切にだとかするのは面倒くさい。私は面倒くさがり屋なので、散々周りに優しくして貰いながら、自分自身は決して優しい人間ではなかった。ヨシノブが入居してから、一週間程度あとに、韓国人の女の子が新たに入って来た。日本での生活がそれなりに長いチヨと違い、韓国から来たばかりだった。


 ヨンという名前のその女は、どういう分けか二階の女性専用フロアではなく、三階に入居してきた。内見もせず、決め打ちで来たのだろう。部屋を見て、驚愕した表情をしていた。それでも、その時部屋に居たメンツに、勉強してきたという日本語で、ちゃんとした挨拶をし、一旦平静を装った。しかし、その後、荷物を整理して、住む環境を整えている最中に、急に泣き出した。心配するみんなに対して、外国の人らしい遠慮のなさで、


「こんな場所だとは思わなかった」といった。


 確かに、異国の地でこんなところに放り込まれれば、若い女でなくても不安になるだろう。みんながなんとかヨンに安心してもらおうと、優しくするのを、私は黙って見てた。



 自衛隊では、どんな女でもモテると聞いたことがある。それと同じことがゲストハウスでもおきていた。ヨンもチヨも取りたてて可愛くはなく、中尾にいたっては見た目では男か女かも分からなかったが、それでも住人は女性陣に対しては、特別優しく接していた。私は前記したように面倒くさがりだった上に、童貞期間が長かった後遺症から、女性に対しての接し方がよく分らなかったので、みんなのように優しくなかった。

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