第10話 こぼれ話 執事の頷き
私はフォンド公爵家に仕える執事でございます。
この度、当家の若様が、王太子殿下の学友として仕えることになりました。
初めての日は、まずお茶を楽しむとのこと、殿下付きの侍従の方からわざわざ若様の好みのお菓子について問い合わせがあったのです。
通常、この種の問い合わせは、私、執事で対応いたしますが、相手は王族の方、子どもの若様にここまでのご配慮をいただいた報告もかねて、事前に回答を奥様にお見せすることにいたしました。
奥様は、お部屋でお茶を楽しんでおられました。今日もお美しくティーカップの花模様がかすんでしまうようです。私の回答を微笑んでご覧になっています。
心なしか奥様の瞳に不穏な輝きが見えた気がいたしますが、もちろん気のせいでございましょう。
奥様は音もなくカップを置かれた後、仰りました。
「『好物は、フルーツケーキのみです』と、それだけ伝えなさい」
もはや隠しようもなく奥様の眼差しにうすら寒い輝きを感じます。それでも、若様のため、私は抵抗を試みました。
「好物、でございますか?」
「その通りよ。諦めなさい、セバスチャン」
つばを飲み込みたくなるような奥様の迫力に私の抵抗は潰えたのでございます。せめて、意図を聞かせて下さらないかとの思いで奥様を見返すと、奥様は溜息をついて仰りました。
「いいこと?普通のお菓子を出されれば、あの子の印象は「美しいお人形」で終わってしまうわ。相手はシルヴィではないのよ。美貌を見せるだけで笑いもせずにお茶から帰ってくるわ。そしてそのまま一生人形で終わるでしょう。」
奥様は艶やかに微笑んで、締めくくられたのです。
「相手が誠意を見せてくださったのです。こちらもお人形を壊すことで誠意を返しましょう」
奥様の愛情は深すぎて理解されにくいものがございます。
ですが、私も長年お傍にいたため毒されたのでしょうか、妙案だと納得しながらお部屋から下がらせていただいたのでした。
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