狩り
橋上のバトルが続いていた。第一のスライムを殺戮した戦士が、返す刃で第三のスライムに斬りつけていた。真横に払った剣が、化物の胴体を両断していた。吹っ飛ばされた上半身が、血飛沫を撒き散らしながら、夜の川へ落下していった。
第二のスライムを串刺しにした戦士が、胴体から、槍を引き抜く。途端に、血の噴泉が虚空に舞い上がった。戦士は敵の死骸を蹴りざまに、第四のスライムを襲撃した。結果は第二とほぼ同じであった。最大の弱点である「肝っ玉」を貫かれては、さすがの化物もどうしようもなかった。
生き残りのスライムたちが逃走を開始していた。欄干を乗り越えて、川に飛び込むつもりらしい。二戦士は機械めいた動きで化物に迫ると、剣と槍を巧みに使って、片っ端から標的を仕留める。おそらく、この二人はプロだろう。プロの殺し屋だ。熟練のスライムハンターに違いない。
遊び半分で怪物退治をやっている勇者部の連中とは異なり、スライムハンターは暦とした職業である。高額の報酬を要求するが、仕事は迅速にこなす。中には、勇者部以下の悪質ハンターもいるらしいが、それはこの業界に限ったことではない。
スライムハンターは東京以外では成立し難い商売である。大阪、京都、名古屋、高知、広島、鹿児島などでも凶暴スライムの出没が確認されているが、ハンターを呼び寄せるほどの数ではない。
東北や北海道では、出没自体が起きていない。やつらは「寒さに弱い」からである。冬眠機能を具えている「変異型スライム」が存在するという噂もあるが、デマの類いであろう。元同僚のOさん(福島在住)に電話で訊いたことがあるが、そんなのいないよ、という返答であった。
何ゆえに東京は凶暴スライムの数が多いのか?原因不明。理由は謎に包まれている。元々、スライムはおとなしい生物であった。犬や猫に比べると、飼育が容易であり、独特の容姿と滑稽な動作が人気を集めていた。
スライムブームが最高潮に達したのは、今から十年前である。俺が関西から関東へ引っ越した頃だ。当時の俺は、生活費を稼ぐのに精一杯の有様で、ペットを飼うような余裕は、精神的にも金銭的にもなかった。
国民の六割近くが、スライムを自宅で飼育しているという統計もあったが、俺には無縁の話であった。それを最初の職場の上司にネチネチとやられ、喧嘩寸前の状況になったことがある。
あの時、ぶん殴っておけば良かったと思う瞬間もあるし、やらなくて正解だったと思い直す瞬間もある。どちらにしろ、相手はもう、この世にいない。あの日の翌朝、最愛のスライムに喰われたからである。そう、あの日だ。あれが現れた夜から、スライムのモンスター化が始まったのだ。
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