第28話 エピローグ

 冬。



 めちゃくちゃ寒い。


 東京ごときでこんなに寒がっている俺は、北海道や東北になんか住めないだろう。


 そんなに寒いというのに、街を歩けばカップルばかり。奴らは二人で密着して歩くことで、体を温めているのかもしれない。もしそうであるなら、俺の方が動物として強いはずだ。

 別に誰かと密着しなくても街を歩けるくらいの体温調節ができるのだから。


 まぁ、人間として強いかどうかは知らんけど。



 そして、高3の冬と言えば受験勉強である。

 「受験生のクリスマスは苦しみます」なんて宗教観を冒涜するような言葉があるように、受験生の冬と言うのは、人によってはかなり苦しいものである。


 日本中の受験生に話を聞けば、一人くらいはハチマキに「合格」と書いて、徹夜している人もいるのかもしれない。

 そんな中、俺たちは秋や夏どころか、1年の時とほとんど同じような生活を送っていた。


 危機感が足りないと言えば、足りないのだろうが、「結局のところ合格発表の日までドキドキするくらいなら、心配なんかしないでいつも通りにしていた方がいい」という合格の哲学みたいなことを、倍率が千倍を超えるオーディションを中学生で合格した璃奈が伝授してくれた。


 それを言い訳にして、今日も俺たちは部屋に集まっていた。


 もちろん少しは勉強もした。


 朝起きて、昼過ぎまで勉強して、昼ご飯を食べて、志田が来て、長田が来て、それからまた少し勉強した。


 それだけやったなら、ちょっとくらい遊んでもいいだろう。

 「何時配信だっけ?」

「「6時」」

 志田と璃奈の声がかぶる。


 「あと10分かー長いなー」

「お前、一時間くらい前から、同じことしか言ってないぞ。壊れかけの?」

「レディオ」

「お前、ラジオだったのか?」

「ちげーよ」

 いつもより甘めのツッコミをしながら、長田はディスプレイを凝視する。


 目からビームが出るタイプのモンスターと同じような感じだ。


 それか、画面の向こうの電脳世界に意識を飛ばしているのか。


 どちらにせよ、長田は心ここにあらずといった雰囲気で、璃奈と志田は百合フィールドを展開していた。


 百合フィールドは何人たりとも侵すことのできない心の壁。

 逃げちゃだめだ。


 「璃奈、どんな曲なんだ?」

「今から聞くんだから、別にいいでしょ」

「そうだよね―璃奈ちゃん」

「水希さーん」

 二人の百合フィールドは強力だ。


 もしかすると、日本全国の電力をブッ放っても、破れないかもしれない。作戦部長も白旗を上げる作戦に賛同するだろう。



 「通知来たぞ!」

 長田の一言に、俺たちは振り向いた。

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遥か彼方の妹萌え 神里光 @hikarusatonaka

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