第15話 DB第二支部 ②
「ここも埃が溜まってますね」
事務所の掃除をしています。
貧弱な渡辺さんは私の説教でちょっと負傷してしまったので、別室で音重さんに手当てしてもらってます。
仕事は終わっているので私は帰ろうと思ったのですが、「紅さん、まだ話が…ありますので、ちょっと待っててください…」と言われ暇つぶしに掃除をしているわけです。
「ロボット掃除機は高性能ですが、使用者がズボラでは効果は今一つですね」
そんなことを考えていると、社内電話が鳴りました。
受話器を取り、
「はい、DB第二支部です」
この事務所への電話は大半渡辺さん宛なのですが、今は私が出るしかありません。
『あらその声…紅さんよね、
「お久しぶりです早乙女さん」
早乙女さんはDB第一支部の支部長。
『久しぶりね~。ひょっとしてまた事務仕事に駆り出されてるの?』
「ええ。でも仕事はもう終わりました」
『第一線に出てるのに、事務仕事までさせられて大変ね~。脱出ゲームの評判が良いのも紅さんのお陰だって皆言ってるわよ』
「褒めて頂けてるなら光栄です」
『ねぇねぇ、前に話した第一支部へ移籍の話本気で考えてくれない?絶対後悔させないからさ』
「何度もお誘いいただいて恐縮ですが、仕事内容が私の希望とはそぐわないので」
第一支部のメインは殺戮拷問ショー。
いかに残虐的に見栄え良く殺すかを追求していて、ゲーム性を持たせることもありますが生存率0が基本。あと、エロ要素も大量に盛り込んだ内容ばかりです。
私がやりたい事とは違うのですよ。
『出来る限り紅さんの希望を聞くわよ。第一で本格的デスゲームをヤっちゃ駄目ってルールはないしね』
これは半分嘘でしょうね。
禁止するルールはないとしても、予算が足りないはず。それが出来るならそもそも第一と第二に別れてはいないでしょうから。
「お待たせしました紅さん…電話中でしたか」
どうやって断ろうか考えているところに、丁度渡辺さんが戻ってきました。
「渡辺さんが戻りましたので代わりますね。元々渡辺さんに用があったんですよね」
『そうだけど、紅さんにも…』
「第一支部の早乙女さんからお電話です」
電話を渡辺さんと代わる。
「お電話代わりました渡辺です……え、紅さんを第一に、駄目に決まってるじゃないですか。……事務仕事してもらってるのは…」
どうやら代わっても私の話をしているようです。
「何だ?また引き抜きこうとされたか?」
「はい、今日はちょっと本気っぽかったです」
「第一は年々利益落ちてるらしいからな。上からも色々厳しいこと言われてるんだろう」
「だからと言って他支部から引き抜いても意味ないと思いますけどね」
「意味ないどころか、紅に居なくなられたら第二は大損だ。第一の利益が上がってもトータルで損だから会社も移籍をOKしないだろう」
私の場合、支部の売上すら些細な問題ですけどね。
「はい、その件はそれで問題ありません。はい…はい……いいえ、だから紅さんの移籍は問題だらけですから諦めてください。…日を改めても同じです、…はい、では失礼します」
割と長く通話してようやく受話器を置く渡辺さん。
「ふぅ、……お待たせしました紅さん」
「ほんと待ちましたよ。仕事は17時に終わったのになんだかんだでもう18時です、残業代は貰いますよ」
「紅さんの暴力がなければこんな時間になってないのですが」
「暴力を受けた原因が渡辺さんにあるとまだ理解できていませんか?」
「いえいえいえ、十二分に理解しました。では本題に入りましょう…あ、音重さんはどうします、帰られますか?」
「折角だから付き合うよ」
「分かりました」
渡辺さんは机から書類ファイルを取り出す。
「紅さんに他社からデスゲームのオファーが来ています」
まぁ、予想内の話ですね。
デスゲームを生業とする会社は沢山あり、他社は商売敵です。その為他社への妨害行為は少なくありません。
ですが中には他社と仲良くした方が得と考える経営者もいて、デスゲーム参加のオファーもよくあります。
「一つは【NHV社】もう一つは【DTカンパニー】からです」
「どちらも大手ですね」
「小さい会社は信用しかねますから」
「古くからあるのはNHV社の方だ、俺の知り合いもいる。DTカンパニーは近年急成長したところで俺もよくは知らん」
「それじゃNHV社の企画から見ていきましょうか」
渡辺さんはさっき取り出したファイルから、NHV社のデスゲーム企画書を出す。
表紙には、
目指せ頂点!
バチバチ!アイドル同士の大決戦!
ポロりもあるよ!?
「……………では次、DTカンパニーの企画見ましょう」
タイトルだけで興味が失せました。
「いやいや次って、まだ表紙しか見てませんよ。内容も読みましょうよ」
「読む意味がありません、デスゲームですらないじゃないですか」
「タイトルは表の番組っぽいけど、殺し合いもあるみたいですよ」
表っぽいというより、センスが古臭いです。古くからある会社だからですかね。
内容を少し読んでみると、
優勝すれば「大企業がバックアップして確実にトップアイドル」を餌に若いそこそこのアイドルを集めて、競い合い殺し合いをさせるようです。
「若く可愛い女の子が、本性を晒して醜く殺し合うところが撮りたいと言ったところですか。具体的には書かれていませんがエロ要素も多いでしょうね」
「そうですね。でもそれは負けた場合ですよ、勝てば大丈夫です紅さん」
「いや
「紅さんはデスゲーム界のアイドルみたいなものですよ」
そんなものになった覚えはありません。
「これ他の参加者は素人だろ。殺し合いになったら紅の圧勝だぞ、NHV社は何考えてるんだ?」
「恐らく歌やダンスでの純粋な競い合いもあるので、そこでイーブンと考えたのでしょう。ですが紅さんは何でも出来る天才、優勝は頂きです」
「何勝手なこと言っているんですか」
まぁ、歌もダンスも並みのアイドルに引けをとるつもりはありませんが。
「紅さんがトップアイドルになれば、以降出演する作品は大ヒット間違い無しです!」
一応会社の利益を考えての話だったんですね。
ですが、
「お断りします」
「えぇ~」
「文句ありますか?」
私はナイフに手をかける。
「いえいえいえいえ、紅さんが乗り気でないなら強要はしませんよ。ではDTカンパニーの企画を見ましょう」
慌てたように出されたDTカンパニーの企画書類。
表紙には、
人狼ゲーム
デスゲーマーVS殺人受刑者
「…人狼ゲームですか。流行りも下火になってきてますが、このタイトルからするとチーム戦ですか?」
「いえ、VSと付いてはいますがチーム戦ではなく、デスゲーマーと殺人受刑者で合計9名での人狼ゲームの様です」
「そうですか……」
チーム戦とか斬新と思いましたが、参加者の質を高めた人狼ゲームのようですね。
「紅は過去に一回人狼ゲームに
「出場経験はありますが、U-18の企画でした。ほとんどが素人でプロは私一人だったはずです」
その人狼ゲームでは、私は村人側だったのですが、最短で人狼を吊るし上げてゲーム終了。私からすればごっこ遊びみたいなものでしたね。
「今回は少なくとも半数はプロか」
「デスゲーマーと銘打つぐらいですから、プロ寄りのアマ以上が参加してるでしょう」
「…殺人受刑者は素人ですよね」
「だと思います。受刑者を出す経緯は内容を読めば分かるかと」
内容は、
基本的に通常の人狼ゲームの流れは沿っていました。
ただ、大きく違うのはバトルフェーズが存在する事。
人狼ゲームは知力重視ですが、これは武力特化の参加者でもクリア出来るルールになっています。
「なるほど、受刑者は素人でも人を殺せる武闘派を揃える感じですかね」
「逆にデスゲーマーは頭脳タイプを…いや、紅のような万能タイプを揃えるのか。アイドル大決戦よりは面白そうだな」
「そうですかね……心理戦が好きな人は見ますけど流行りが過ぎた今、人狼ゲームは視聴数伸び辛いんですよね。逆にアイドル大決戦のような企画は安定して伸びます」
渡辺さんの意見も間違ってはいませんが、やっぱり数字だけ見て現場に出ない人の思考ですね。
「私は視聴数が多くなりそうなデスゲームだから
「アイドル大決戦でも活躍出来ますよ」
「質が全然違います。私だからこその出来る活躍、それが一番重要です」
アイドルを殺すなんて私じゃなくても出来ますからね。
「……僕の意見を正直に言うと、DTカンパニーの企画は紅さんでも危険だから断って欲しいんです」
「だったらオファーの話自体しなければいいじゃないですか」
「上からの命令なんです。NHV社の企画は僕がせめて二択にしてほしいと部長に無理を聞いて貰ったんです」
「その言い方からすると部長より上からの命令か」
「ええ、上の更に上です」
…そういうことですか。
「スポンサーからの命令か」
「理由も無しに断ることは出来ません。でも紅さんがNHV社の企画を出場したいと言うのであれば構わないと」
「はぁ~、渡辺さんはほんとに時間を無駄にしてくれますね」
断ることも他を選ぶこともするはずないじゃないですか、
「DTカンパニーに参加了承の連絡を入れておいてください」
お父様が見たいと言っているのですから。
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