第16話 人狼ゲーム


「地味な外観ですね」


 今私は人狼ゲームの会場に来ています。巨大な鉄の箱のような建物です。

 素人モノの企画なら眠らされたり目隠しされたりして強制的に建物の入れられてゲームが始まるのが大半ですが、

 今回はプロ参加の企画なので普通に現地集合です。


 予め渡されていたカードキーを玄関の認証錠に押し当てると、ガシューンと上下左右に扉が開きました。

 妙なハイテク感を出してますね。


 中に入ると、何も無い狭い小部屋。


『お越しいただきありがとうございます紅様』


 女性っぽいが人間味は感じられない声が流れました。


『私はここの管理を任されているAI、メティスと申します。ゲームのディーラーも務めさせて頂きます』


 AIですか。

 最近ではよく使われます。ただゲームの種類によって無機質な声がテンションを下げる事にもなるんですよね。まぁ、人狼ゲームには合わなくもないと思いますが。


『お荷物、貴重品等を引き出しに入れてください』

 

 何もない壁から引き出しが現れる。

 

「盗ったりしないでくさだいよ」

『ご安心を、クリア後必ず返却いたします。紅様が存命の限り他者が触れる事はございません、落命された場合は雇用契約を交わされている会社へとお送りさせていただきます』


 こちらの言葉に対してスムーズで的確な返答。


『持ち物検査を行います。部屋の中央にお立ちください』


 指示に従い中央に立つと、赤い面状の光が上から下に私の身体を突き抜ける。持ち物検査もハイテクですね。一つのアピールポイントなのでしょう。


『腰に提げているナイフを引き出しにお入れください』


 事前に武器の持ち込み禁止は書類で知っていましたが、この検査では隠し入ることは無理そうですね。

 ナイフを引き出しに入れ再検査。


『問題ありません、次の部屋へお進みください』


 正面の戸が自動で開き、先へ進むと殺風景な広い部屋に出ました。

 部屋にあるのは円形に並べられた九つの椅子と壁にかけられた大きな時計だけです。

 

『紅様が座る席は4番になります』


 九つの椅子には背凭れにそれぞれ1~9の数字が記されていました。


『寝食するお部屋も四号室となります』

「縁起が悪いですね、変更できませんか?」

『申し訳ありません、到着順ですので変更は致しかねます。4や9が縁起が悪いなどは迷信ですのでお気になさらず』

「仕方ありませんね」


 言ってみただけで私は全然気にならないんですけどね。

 それにしても、AIと思えないぐらい受け答えがしっかりしてますね。知恵の女神の名を付けられているだけあります。



『ではお部屋へご案内致します』


 入って来たのとは別の壁が開き、階段が現れる。


『四号室は二階になります』

 


 案内の通り進むと、扉に4と記された部屋。


『カードキーを認識錠にあててください』

 

 カードを認識すると扉が自動で横にスライドして開く。

 個室は中々の広さです。

 奥にはベッド、左側にテーブル、右側は洗面所とおもしき扉、真ん中は空いてます。


「メティス、部屋の内装は全て同じですか?」

『はい。広さ、間取り、家具まで全部屋同じです』


 ベッドやテーブルなどの家具は床に固定されているので移動は不可能。これは人狼側に有利な点ですね。


 テーブルの上に紙束が置かれていたので近づいて見てみると、今回の人狼ゲームのルール説明書でした。


「これは事前に送られて来た説明書と同じ内容ですか?」


 プロ企画のデスゲームでは参加を了承した後に、契約書と一緒にルール説明書が送られてくることが殆どです。

 とはいえ、説明書に書かれていることが全てとは限りません。実際AIが管理するなどは書かれていませんでした。


『はい、同じです。紅様、他にも沢山質問があると思いますが、先にこちらから一つだけ質問させて頂いても宜しいでしょうか?』


 AIが会話を止めてでも聞きたい質問?


「断ったらどうなります?」

『紅様の不利益になる可能性があります』

「なら聞きましょう」

『紅様は他の出場者にもと名乗りますか?』


 ……これはつまり、ゲーム中他の出場者に対して偽名を使うかどうかの質問ですね。

 メティスは登録された名前が本名と認識しており、デスゲームでは偽名で呼び合うのが慣例とインプットされているからの質問なでしょう。

 私の場合そもそも紅が偽名ですが、殺人受刑者は本名で登録されているはずですから、この質問は確かに重要ですね。


「他の出場者にも紅と自己紹介しますよ」

『では私も紅様と呼ばせて頂きます』


 メティスはどれほどゲームに関わるのでしょうかね。


「その質問は全員にしますよね」

『はい』

「他の出場者はどんな人ですか?」

『お答えできません』

「他の出場者に関する質問は全て答えれないということですか?」

『はい』

「メティスはどんな質問なら答えれますか?」

『質問の範囲が広い為に明確な答えがありません。少なくともここでの生活に関する質問にはお答えする事が出来ます』

「ゲームに関しては?」

『ルール確認の質問はお答え出来ます。ゲームの勝敗を左右する質問にはお答えできません』


 今回の人狼ゲームのルール。


・総勢9名の内、村人7名人狼2名

・村人の勝利条件人狼が全滅する、人狼の勝利条件村人と人狼が同人数になる。

・12時に全員集まり一時間の討議。13時に多数決で殺害する相手を決める(※初回のみ二時間の討議、14時に多数決)。

・決まったらバトルフェーズに移行。


 普通の人狼ゲームと大きく違うのがこのバトルフェーズ。

 多数決で選ばれた者も攻撃可能であり、選んだ者を殺せば生き残れるルールになっています。

 ここまでのルール説明で人狼ゲームを知っている方ならお気づきでしょう。

 バトルフェーズは一日に二回有ります。


・22時から24時までの間に人狼は村人襲撃する。

・22時になると同時にバトルフェーズ開始。

・村人は21時から翌日4時までは部屋を出ることができない。


  夜に人狼が村人を殺す時もバトルフェーズとなります。村人が人狼を殺す事も可能、見事人狼2人を返り討ちに出来ればその時点で村人の勝利確定です。


 このバトルフェーズについても細かいルールがあるのですが、後回しにします。


 人狼ゲームにおいて重要な役職。

 今回のゲームでも役職付きが存在します。ただし一つだけで、何の役職かは説明書には記載されていません。


「一つ存在する役職を教えてください」

『ルール上私から教えることは出来ません』


 …つまりこれもゲームを楽しむポイントですか。

 本人以外何の役職か分からないという事は、どんな役職でも騙れるということ…。リスクは高いですが、状況によってはアリですね。



 

 


「では、バトルフェーズ中でも勝利条件がクリアされればゲーム終了なのですね」

『はい』


 メティスに色々とルール確認をしていると、

 

『紅様、全参加者が来場され各個室に入室されました。これより役職が記載されたカードをお渡しします』


 言葉の後直ぐに、テーブルの天板中央部分がスライドして開きました。

 中には一枚のカード。


『表面をご確認ください』


 カードを手に取り、確認すると。

 二足歩行の狼の絵、下部に人狼の文字。


 私が人狼のようです。

 


「活躍の場が多くて嬉しいですね」

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