05 青の欠片

「ねえ、どんな魔法が使えるの?」

 魔法。キルトの目は何を考えているかなんて読み取れるわけもなった。

「えっと、火の魔法だけなら使えるけど…」

 少し声がうわずった。

「ああ、そうっか。アンガームのいる街から来たから、当然か。じゃあ、砂を燃やすしかないね。」

「砂を燃やす?」

「そう、それ以外の方法ない。一旦、下に降りないか?」

 でも、まだキルトを疑っているリリーは、また、どうしようか迷ってしまっていた。行った方がいいんのだろうか。でも、行かないと、状況は変わらないのは分かっている。でも…という気持ちが混合するように決断力が鈍らしてしまう。


「分かった」

 頭より先に身体が先に動いて、リリーは下降していた。キルトも降下して来た。

「その岩場に降り立ってくれ」

 キルトに指示にそって、大きな岩場に降り立った。岩場は数人くらいは余裕で、立てるくらい大きかった。そこに、キルトは優雅な箒さばきで、降りたってきた。

「岩場以外は、降りない方がいいい。」

「なんで?」

「ここら辺は、砂の中に魔物が住んでいるからな。砂の中に引きずり込まれる」

「魔物?」

「そんなのも知らないのか!? リリーって、お嬢様だな。」

 お嬢様って言われるのは初めてだった。知らないことがそんなに変なことのなのだろうか。

「お嬢様って…」

「そうじゃん。知らないと危険だよ」

 危険って言われても、イーストアンの街には魔物なって存在しないから、そんな心配などしたことがない。

「危険って、魔物なって見たことないし」

「まあ、いいけど。そこら辺を一応、炎で燃やしてくれない。」

 話を逸らすように、キルトが言う。本当に、イーストアンには魔物なんていないからしょうがいないことなのに、リリーはどこか腑に落ちない。でも、今はそんな言い争いをする暇もなかった。ここ一面を燃やすって、どこをどうやってやればいいのだろう。すべて砂なのに、範囲が分からない。それに、モリンから、炎の魔法の使い方は教えてもらっていたが、広場に置かれいた木に少し火をつけるくらいで、広範囲で火を使う機会はなかった。。

「燃やせないの?」

 キルトの言葉にリリーはムッとする気持ちが頭に広がった。

「燃やせばいいでしょう。」

ペンダントを杖に変えた。

「ふ~ん。本当に魔法使いの候補生らしいな。」

「何が!?」

 何を上から目線で話してくるのだろう。キルトという男が苦手だ。


「出でよ。火よ。この一帯を燃やしたまえ」

 あまりで火力が出ていないが、少し焦がすように一面を燃やした。なんだろう。思ったようにいかなかった。


「うん、ここには魔物も欠片もないようだな」

「なにそれ…」

 そんなにうまくは見つからないことは分かっていたはずなのに、どこか的外れな返答にリリーは戸惑った。火の大きさなどに文句をつけてくると思ったが、キルトは何も言わなかった。少し焦げ臭いが漂ってきた。


「次の岩に向かおう。ここには、あと4つの岩がある。そこのどこかに欠片を守る魔物が眠っている。そうしないと欠片を収集できない」

「何それ?!」

「欠片を見つけたいんだろう。あとよ4カ所のどこかには絶対あるから」

 この広い範囲で、あと4つの岩。空は夕日のように茜色になりはじめて、日が沈んでいきそうだった。

「もうすぐ、日が暮れそうだ。あと、1か所だけ、行こう。あとは明日にしよう」

 キルトが箒で、上空に上がって行った。それに続いて、リリーも上がっていく。次の場所で欠片を見つけたい。


「なんで、手伝ってくれるの?」

 素朴な疑問だったが、なんか的にはずれな気分が漂ってくる。欲しいもんが欲しい。

「リリー、君はいくらお金を持っている?」

 やっぱり、目的があったんだ。

「お金目的だったら、一人でするから。どっかに行ってよ!」

「まあ、そうだな。お金はいい。じゃあ、俺の魔物を退治するのを手伝ってくれないか?」

「魔物? 何で私が?」

「まあいいけど。リリー、君は本当に、1人欠片を集められるのかな?!」

 それを言われたら、どうしてか何も言えない。グリフカームの時もそうだが、このキルトに助けてもらっている。

「分かった。手伝う」

 リリーは自分が力不足なのは分かっていた。自分で何とかしようとしても、きっと上手くはいかない。もし、キルトに騙されたとしても、リリーにとって今は誰かの助けが必要だった。

「そう、それは良かった」

 キルトは何を考えているのだろう。魔物を退治するって、どんな魔物なのだろう。

「あそこだ。降りるよ」

 下を確認すると、また、さっきと同じくらい岩場が見えてきた。キルトに言われるがままに、地上の岩場に降り立った。


「さっきと、同じように燃やしてくれ」

「分かった」

 リリーはさっきと同じように、呪文を唱えて砂を一面を燃やした。

「何もないようだ」

 キルトは確認するように、岩の上を歩いて周囲を確認していく。


「そうえば、リリーって、何の候補生なの?」

 候補生って何だっけ。モリンが言っていたはずだ。リリーは視覚の魔法と言っていた。

「アイズだけど…」

 キルトは少し下を向いた。

「ああ、それでか。視覚…、…透視する…あるからな…」

 キルトはぼそぼそと言っているが、リリーにはよく聞こえてこなかった。

「で、どうすればいいの?」

「申し訳ないが、この続きは明日にしよう。」

「本当に、欠片は見つかるの?」

「ああ」

 本当に欠片はあるのか、疑い始めていた。どういうことだろうか。

「行くぞ」

 行くぞってどこにいくつもりなのだろう。ただ今はキルトについていくしかなった。

「どこに行くの?」

「焦りは禁物だよ。どうせ、泊るところ決まってないだろう」

 焦っているわけではなかった。ただ、どこに行くのか単純に聞いただけだった。焦っているのはキルトの方だと思う。そういえば、泊ることなど何も考えていなかった。そう言われると、だんだんリリーは焦りを始めてしまった。

「付いて、おいで」

 リリーは、そのままキルトの後を箒で追った。少し飛んでいくと、街があらわれた。キルトが降下して、降り立った。


「ここが、砂漠の街グリサーストだ。」

 キルトの後を歩いていくが、ほとんど、姿が見えない。

「何をキョロキョロしているの?」

「ここって、人が住んでるんでいるの?」

 閑散として、誰とも会わない。

「う~んと、住んではいるよ。少ないけど。まあ、ほとんど、魔法使いだけどね」

「魔法使いだけ?」

「住みづらいじゃない。それに、グルフカームにも問題はあるからな。」

「グルフカームにも問題って?」

「まあ、グルフカームは、あまり街を大切にしない守り神だからな。だから、人々はこの街を出て行ってしまうのだ。また、ここは砂漠に囲まれている、住むには向いていない場所でもある。」

 砂に囲まれて、この暑さの中で生活をするのは難しいのかもしれない。でも、イーストアンは、アンガームはきちんと、街を守っていたのだろうか。よく分からない話だ。それに守り神は、そんなに街に影響のあるものだろうか。グリフカームって、そんなに問題があるのだろうか。


「あそこだ。魔法候補生が、よく泊まるホテルだよ。リリーもあそこに泊まるといいよ」

 そこは、この寂れた街にに使わないほど、綺麗な建物だった。そのまま、リリーはキルトに進められうように、ホテルの中に入って行った。

「おう、キルト。お帰り」

 カウンターに従業員らしきおじさんが立っていた。キルトに挨拶して、リリーの方を見た。

「おう、今回は助かったみたいだな」

「助かった?」

 キルトは罰が悪そうだった。

「前に、来た候補生が、グリフカームに取り込まれたんだよ」

 キルトではなく、おじさんが言った。

「なんで?」

 リリーはキルトの方を見た。

「さあな」

 キルトはどこか遠い目をしている。リリー、顔が引きつってしまった。

「で、お嬢ちゃんは、ここに泊るの?」

「ああ。」 

 リリーではなく、キルトが答えた。おじさんとキルトは口裏を合わせるように、グリフカームに取り込まれた話をすり替えてしまった。

「そう、じゃあ、お嬢ちゃん、ここにサインしてくれる」

「はい」

 カウンターの方に行って、紙にサインをした。

「では、お嬢ちゃんの部屋は2階の奥ね」

 おじさんからカギを渡された。

「じゃあ、今日はゆっくり休んだらいいよ。」

 キルトは、そう言って、またホテルから出て行った。

「ご飯は、このパンとスープしかないだけどいい?」

「はい、いただきます。」

「じゃあ、部屋に荷物を置いて、そこのテーブルで用意しておくよ」

「わかりました。じゃあ、荷物置いてきます。」

 リリーは2階に上がって行った。部屋に入ると、奥に窓があって、その下の方にベッドが置かれていた。そして右に机がおかれ、その隣にクローゼットがあった。

 荷物をクローゼットの中にドサッと置いた。はやく青い欠片を見つけて、この街を出たほうがいい気がした。


 下に降りると、テーブルに2つの黒糖のパンとコーンスープが置かれていた。座って、おじさんが近くに居たので、そちらを見た。

「僕に何か聞きたいことはあるのかい?」

 おじさんはカウンターの中から、話しかけてきた。

「あの、グリフカームが取り込まれるって、どいう意味なんですか? キルトは生気を吸い取るって言ってました。」

「ああ、そうだ。グルフカームは、話をするのが好きで、ずっと話し続けるだよ。それに、候補生の生気を吸い取るのが好きなのだよね。」

 好きって、悪趣味すぎるのではないのか。


「生気を奪って、どうするんですか?」

「石像を修復するためらしいよ。」

「修復?!」

「グリフカームと話が通じないことで、候補生が焦って石像に物を投げたり、切りつけたりなどして石像が傷ついてしまうんだよ。それでグリフカームが石像を修復させるために生気を奪うらしいよ。その結果、候補生は骨だけになってしまう。」

 骨だけになって、なんて恐ろしいことなのだろう。リリーもグリフカームにイライラするのはよく分かる。けど、生気を奪うのは、やっぱり違う気がした。

「生気を奪われた人は死んじゃうってことですよね?」

「ああ、そうだ」

 リリーは、もうあの神殿に行くのが怖くなった。

「でもな、グルフカームは可哀想な奴なんだよ。」

「そうなんですか?」

「だから、キルトはグリフカームを監視している」

 答えになっていない気がした。グリフカームが可哀想とキルトが監視は辻褄が合わない気がする。


「何で、監視しているのですか?」

「たぶん、グルフカームの石像が壊れないようにじゃないか。」

「そうなんですね。毎日ですか?」

「まあ、そうじゃないか。キルトはこのホテルの隣にコテージに住んでいる。君みたいなお客を連れて来てくれるから、僕は助かっているけどね。」

 まだ、半日しか一緒にいないので、キルトという人のことはよく分からなかった。

「キルトは、何の魔法使いなんでしょうか?」

「キルトは、確か、タッチの魔法使いじゃないか。触れることで、物を具現化させることや、物の移動させたりと、まあ、触れることに特化した魔法使いだな。」

「へえー」

「で、君は何の魔法使いなんだ」

「アイズです。」

「そうなんだ。じゃあ、土の中を透視とかできるのかい?」

「それはできないです。」

「まあ、そうか、まだ、候補生だよね。できない者もいるよね。」

 壁にかかった時計が、トーンと鳴った。おじさんは時計を見た。

「もうこんな時間だね。一旦、入口を閉めるけど、いいかい?」

「閉めるんですか?分かりました。」

「まあ、夜になったら魔物が動き出すんだよ。この街は、仕方ないんだよ。」

 魔物。おじさんはすでにホテルのドアを閉めに行ってしまった。しばらくして戻ってきた。

「魔物って、何なんですか?」

「う~んと、まあ、欠片を守るためにいるっていえば正しいかな」

「守るためですか?」

「そうだよ。気になるかい?」

「はい」

「そういえば、君はどこから来たんだっけ?」

「東の街であるイーストアンですけど」

「イーストアンは、平和な街だな。」

 この街に来て、イーストアンが本当に平和な街だなとは思っていた。それに、イーストアンには魔物の噂など聞いたことがなかった。

「そうですね。イーストアンには、魔物はいないので。」

「イーストアンには魔物はいると思うよ。アンガームは頭がいいから、一部だけを魔物を放っていると思う」

 その言葉を真に受けることなど、できなかった。

「イーストアンに魔物なんかいないと思います」

 あまり、信じられない話だ。聞いたことがない。おじさんの話は信じられるものではないかった。それに、どこに居るのか見当がつかない。

「ああ、そうなんだ。本当に恵まれた街だね。イーストアンは」

「はい。恵まれてます。」

「まあ、あの街は、水の街だから、水の中に居ると思うよ。」

「水の中...」

 おじさんは、イーストアンには魔物が居ることを決定づけているようだった。いないという選択肢などないみたいだった。

「まあ、君はあまり気にしない方がいい。欠片は魔法使い以外には、何の価値もない。魔法使い以外は触れないほうがいいものだ。」

「なんで、魔法使い以外は触れてはいけないですか?」

 リリーの脳裏にはパパの顔が浮かんできた。家で、欠片を見せられた時、パパが欠片を持っていた。リリーに欠片を渡すまで、持っていたことになる。何か罰でもあるのだろうか。

「まあ、何かしらの魔力が影響すると噂もある。」

「じゃあ、パパとママに影響があるってこと...」

「なんで、パパとママって、君の両親のことかい?」

 リリーは頷いた。

「それはないと思うよ。僕が言っているのは、魔力を欲しがっている輩のことだから、悪用しない人には影響はないよ」

 少し安心した。

「魔力を欲しがる輩ってなんですか?」

「欠片は候補生自身の物なんだけどね。それでも欲しがるんだよ。それで魔力が得られると噂が流れるんだよ。」

「それで、魔力は得られるんですか?」

「今のところ、得た者は聞いたことないよ。さっきも言ったが、持ち主ではない者が欠片を持っていると、持ち主の所に戻ろうと魔力が発動して影響することもある。それを魔法が使えていると思って、勘違いする者がいる。まあ、君はあまり欠片を集めることを他人に言わない方がいい。その噂を信じる者が横取りされてしまう可能性もある」

「そうなことって…」

「でも、無理なんだけどね。何度も挑戦する者はいたが、候補生の元にきちんと戻って行く。」

「そうなんですか。」

「ごめんよ。要らぬ心配をさせてようだね。今日はもう疲れているようだから、寝た方がいいよ」

「はい、そうします。お話ありがとうございました。おやすみ」

「ああ、おやすみ。」

 リリーは部屋に戻って、シャワーを浴びて、眠りにつくことにした。



 トントンと、部屋にノックが聞こえた。

「起きてるかい?」

 キルトの声だ。

「今起きました」

「じゃあ、一階で待ってるから、降りて来て」

「うん、分かった」

 カーテンの向こうに日差しが差し込んでいた。カーテンを開けると、すでに日は登っていた。急いで、用意して、1階に降りた。もうすでにキルトが居た。


「準備できた?」

「うん。」

「じゃあ、出発するか。」

「じゃあ、また、会えるのを楽しみしてるね」

 おじさんに見送られて、昨日と同じように砂漠の方へと向かった。

「この奥にある。岩場にいこう」

  キルトの後を追うように、空を飛んでいく。そして、同じように、呪文を唱えて、一帯を燃やした。何も起きらなった。

「ここもダメか」

 そして、次の場所である岩場に向かうことになった。


「出でよ。火よ。この一帯を燃やしたまえ」

 それでも、何も起きることはなかった。次で最後だ。それで何もなかったら、欠片が集める目的が達成できない。ただ、暑さでへとへとになっている。


 ココが最後だと、降りた場所。他と同じで砂が一面だったが、太陽の光がすごく強くて暑かった。

「燃やしてくれ」

 キルトに言われて、リリーはペンダントと握りしめた。

「出でよ。火よ。この一帯を燃やしたまえ」 

『あっぁぁあぁ』

 何かが燃えて、悲鳴が聞こえた。でもその声は隣からだった。リリーは身震いがした。キルトが身体が透明になっていく。

「どういうことだーー-」

 キルトは叫んだ。そして青く光って、ピーーン ピー ピーーーンと妙な音が鳴らして、青い欠片になった。その欠片が、リリーの胸元のペンダントの一部が青に染まった。


「行ったか・・・」

 ホテルのおじさんが岩の端の方に立っていた。リリーがそちらを見た。

「なんで、ここに居るんですか?」

「キルトの魔法は解けたようだ。君のおかげで。まあ、これも俺の仕事だからね。よくやったよ。君も」

 よくやったとは何のことだろう。変な気分だ。欠片が手に入ったのに、変な複雑な気持ちになる。


「僕も、キルトを見張っていたんでね」

「見張っていた?」

「ああ、キルトが魔物の原型だったんだよ。」

「なんで、そうなるですか?」

「いままで、キルトは、何人もの候補生を犠牲にして、欠片を奪うとしていた。」

「どういことですか?」

「キルトはグリフカームの魔法によって、魔物にされたんだよ。その魔法を解くために、何人もの候補生から生気を奪えば、人間に戻れると信じていた。でも本当は違った。キルトは、欠片に変えられていたのだ。それを気づくことはなかった。」

 リリーに身体に悪寒が走った。


「キルトも開放されてよかったよ。まあ、この先の君の健闘を祈っているよ。じゃあね。」

 おじさんはそって言って、目の前から消えた。


<続く>

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