グリサースト

04 水の守り神 グリフカーム 


 リリーは南に位置する守り神グリフカームがいる神殿を目指して空を飛んでいた。地上は砂が一面に広がっている。広場以外で飛ぶことがなかったので、なかなか上手く箒を使いこなさせていない。魔力が削られていく感じがもするし、今まで感じないほど額に汗が流れて暑かった。頭がフラフラする。あまりこんな暑さを感じ経験がなかった。


 『とりあえず、南に向かって進みなさい。人が何人も立てるような大きな岩が見えてきたら、その場所の近くに神殿はある』とモリンの声が頭の中で聞こえてきた。基本的に5つの神殿のうち、4つ神殿は海の側にあるらしい。もう1つは4つの神殿の中央にあると言われている。そこは最後に行くことになっている。

 南に進むしかない。目印は、大きな岩だが、それらしいものは見当たらない。一面が砂だらけで、本当に岩などあるのだろうかと不安はあるものの、進むしかなかった。


 遠くに岩らしいものが見えてきた。5人ほど立ってそうな大きな岩だった。だんだんと霧に包まれていく。霧が濃くなって、目の前がよく見えなくなっていく。心臓がふわりふわりと鼓動が高鳴って、体中に緊張が走っていていく。白くもやが続いてく。そして、霧が抜けた。そこに朽ち果てたような建物が見てきた。地上に下降して、建物の導くように石で出来ている道のようなものが建物に続いていた。そこに降りると、砂浜より1メートルほど、高く建てられていた。そこ以外はすべてが砂で覆われていた。

 神殿と思われる建物も近づくと、何層にも石が重なって枝が巻き付いている。水もないのに枝は緑に生い茂っている。、中に入って行った。奥に進んで行くと、小屋でモリンの魔法で見た映像のドレスの女性の石像が椅子に座っていた。


 その石像は、一番奥の中央にひっそりとたたずんでいて、周りに水が滝のように流れていた。神殿の外では、水の音など、一切してこなかった。どこから、この水はやって来ているのかも分からなかった。

 石像の大きさは人と同じような大きさだった。ショートヘアで両手を胸に交差して、椅子に座っている。アンガームと一緒で、目は閉じている。


リリーは呼吸を整えた。

でよ。グリフカーム」

 呪文を唱える。しばらくしても石像の様子が変わらない。それも微塵も動き出すことはなかった。もう一度、唱える。それでも動く気配はない。

 石像を見つめて、何か変わるんじゃないかと、もう一度、唱える。時間だけが過ぎていく。

『ねえ、今はダメだよ。お昼寝中だから』

 どこからか声が聞こえてきた。あたりを見渡すが、誰もいない。

「どういう意味ことですか?」

 リリーは周囲を伺いながら言う。返答がない。周囲には人影はなった。グリフカームを見る。

『さあ、どこでいう意味でしょうね』

 リリーはグリフカームと目は開けていないが、口元が微かに歪んできるのが分かった。

「欠片はどこにあるか、知ってますか?」

 もう一度、呼吸を整る。

『つまんないわ。リリーって名前。可愛いね。』

 石像のグリフカームの目がリリーの方をみた。なんで、リリーの名前を知っているのだろう。まあ、アンガームも知っていた。守り神には何か能力があるのかもしれない。

「欠片はどこですか?」

 話をそらしてはいけない。ペースを乱されてはいけない。

『ここって一面が砂漠でしょう。人があまり来ないのよね。私に人と話するのが大好きなの。』

「欠片は砂漠ってなんですか?」

『砂漠って、広いでしょう。迷うのよね。抜け出せなくて、亡くなった人間もいるのよ。』

 リリーは一瞬たじろいだ。

「お願いです。欠片のある場所を教えてください」

『こんな遠い所まで来るなんて大変だよね。』

 グリフカームは全く、聞く耳を持ってくれない。どうすればいいのだろう。

「欠片は砂漠にあるんですか?」

 それ以外の言葉が浮かんでこない。何度も言っても、効き目がないことが分かっていても、なんて聞けばいいのか、リリーの頭の中はパニックになっていた。

『砂漠って今、どこに自分が居るか、分からなくなったりしない。本当に困るよね。』

 グリフカームは、欠片の在り処を教えてくれそうにない。なんで、リリーは、ここに居るのだろう。

 欠片はどこにあるのだろうか。リリーの声はグリフカームには届いているのだろうか。どうすれば、欠片の場所を教えてもらえるのだろうか。頭が真っ白で何も言葉が浮かんでこない。


「迷うな。取り込まれるぞ。」

 後ろから声が聞こえてきた。振り返ってみると、目鼻立ちが整っていて、革のジャケットを着た男の子でが立っていた。


「グリフカーム、お会いできて光栄です。」

 リリーは男の子に頭を掴まれて、腰を曲げて頭を下させられた。

「挨拶しろ。どこから来たのか、名前のみでいい、最後によろしくお願いいたします。と言え」

 小声で男の子に言われた。

「東のアンイーストから、来ました。リリーと申します。よろしくお願いいたします。」

「では、これで失礼します」

 グリフカームの口元が歪んだようにみえた。

『そう、また、会いに来て。いつでも待ってるわ』

「では、失礼します」

 

 そのまま、男の子に手を引っ張られて、神殿の外に引っ張れた。リリーは、唖然として抵抗もできなかった。



 神殿の外に出ると、リリーはムッとして、男の子の手を振り払った。

「ねえ、あなたは誰なの?」

 無礼な男の子に対して、若干の憤りを込めて言った。

「なんで、挨拶もしないで、欠片の居場所を聴いたの?」

 まるで、グリフカームと同じで、こちらの質問に答えてくれなかった。

「だって、欠片の居場所を知りたくて」

 リリーは息が詰まった。変な感じがした。そもそも、欠片の居場所なんて聞くつもりはなかった。なんで聞いてしまったのだろう。モリンにも守り神は欠片の居場所は知らないことを聞いた。

「グリフカームに、何で挨拶をしなかったんだ?」

 なんで、男の子に怒られないといけないのだろう。欠片のだけを聞いてしまって、悪いのは分かっている。でも赤の他人に怒られるのは不愉快だ。でも、リリーは挨拶をしていなかった。でも、怒られる理由が分からなかった。考えが、二転三転してまとまらない。


「グリフカームは怒っていたんだぞ」

「怒っていた? どこが?」

「ああ、あれは怒っているようなものだ。ネチネチと文句を言うように、話をしてくる。グリフカームは、哀しみの守り神だから。怒っているというより、哀しんでいるという表現の方が正しいだろうが、挨拶するまで、きちんと対話をしてくれないから、気を付けた方がいい。」

「気を付けろと言われても…」

「今回は、俺が代わりに挨拶を促してやったが、気を付けた方がいいぞ。」

 リリーの頭を掴んで、無理やり下げさせたのに、あれが挨拶をしたことになるのだろうか。だったら、最初から挨拶するように言ってくれたらよかったのに、失礼な人だ。それに無礼なと態度をとったのに、謝りもせず。自分が正しいことしたみたいな偉そうな態度を取ってくる。この男の子は本当に何者なのだろう。

「グリフカームは、欠片の場所を知らないぞ」

「そんなの...」

「お前って、本当に魔法使いの候補生か?あまりにも無知すぎるだろう」

 知らないのは当然だ。1カ月前に、魔法使いであることを知ったのだから、そんなに情報があるわけではない。

「グリフカームに挨拶をすることで、欠片が輝き始める。それ以外は、グリフカームは何もしてくれないし、出来ないのだ。」

「よく分からないけど」

「まあいい。あと、君のいた街は、怒りの神と言われるアンガームだろう。だから、怒鳴ったりして、ちゃんと伝えてくれるが、グリフカームは違う。相手を混乱させるくらい、ずっと話し続けてしまう。そして、呪い殺される」

「呪い殺されるって?」

 なんで、そんなことになるのだろう。呪い殺すって、そんな不謹慎なことあるだろうか。

「ここに、やって来る魔法使いの候補生は皆、欠片の場所を最初にみんな聞く。たぶん、それもグリフカームの魔力のせいだろう。」

「私以外もそうなんだ」

「ああ。みんな挨拶のみでいいと聞かされてるはずなのに、なぜか最初に欠片の場所を聞こうとするのだ。永遠に話すグリフカームに付き合って、生気を奪われ、呪い殺されてしまうという噂がある。」

「でも、それって、ただの噂でしょう」

「ああ、そうだが、あの神殿には昔、床に大量の骨があったと言われている。」

 なんで、そんな怖い話をするのだろう。この男の子もグリフカームと一緒で話にならない気がしてくる。

「で、あなたは、欠片の位置が分かるんですか?」

「そんなの知るわけないだろう」

「なにそれ…」

「欠片の居場所は君にしか分からなんだよ。ここには5カ所の大きな岩がある。その近くに欠片があるとされている。まあ、光っているのが見えるはずだ」

「光っている?どういうこと?」

「さあねえ、この地域を守る神に挨拶をすれば、欠片が光を放つと言われている。ちなみに、この地域は欠片は青だよ。頑張ってね」

「そうですか。青の欠片。あの、助けてくれて、ありがとうございました。じゃあ、これで」

  もうこれ以上は、頼ることは出来ないし、男の子と話の通じない感じがリリーは何だがしんどかった。

リリーはペンダントを握って、箒を出した。そして跨って、上空に飛び立った。


「君も、短気だね。」

  隣を見ると、さっきの男の子が箒に跨って飛んでいる。

「ああ、僕の名前はキルトだよ。リリー」

 誰も聞いていないのに、キルトと名乗る男の子。

「何で、名前知ってるの?」

「リリーって名前のこと?! グリフカームが言ってよね。間違ってないよね?」

 そう言えば、頭を下げさせられた時に、名乗っていた。

「なんで、ついてくるの?」

「気になるから。」

 リリーは、身体に悪寒が走ってきた。グリフカームから助けてくれた。それはありがたかった。それに、欠片のころなど、色々と情報を教えてくれた。でも、リリーからは何か1つ頼んだわけではない。キルトが何か見返りでも期待されていたら困る。リリーには何も持っていない。キルトは何を企んでいるのだろう。下を見ると一面が砂浜だ。どこにも逃げ場もない。


<続く>

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