06 紫の世界(ナナ編) 


 朝、ナナが目を覚ますと、部屋を2つに分けるカーテンの向こう側に、リリーはいない。何か、心の一部が居なくなったような気した。

 他の街に遊びに、何週間も出かけてる。でも、今回は親友のラーナが一緒でないみたいだった。1人旅なのだろうか、数日前、朝起きたら、リリーはすでに家を出て行った後だった。ママもパパもリリーの話を触れようとしないので、どこに出かけてるのナナは知らなかった。

 リリーは、いつも自由で、ナナのことなど気にもせず、いつも勉強もせず、外で遊び放題だった。ナナはそれが羨ましかった。

 どれだけ、ナナは成績が良くても、パパやママに褒めらえても嬉しくなかった。自由に生きるリリーには何をしても勝てない気がしていたからだ。14歳の誕生日、パパ達は異常に喜んでいた。でも、ナナはそんなに嬉しくなかった。リリーがその次の日から旅行に行くと知っていたから。やっぱり不愉快な気持ちでいっぱいになっていた。なんで、いつも遊んでばっかりなんだろう。

 でも、それがナナにはできなかった。何を見てもどこを見てもすべてが赤に染まっていた。いつもは吐きそうな気分で、過ごしていた。

 ママと子どもの頃に、何度も病院で医師のテイラ先生に相談してきた。でも、目には何の異常ないと言われ続けてきた。そこで、ママが魔法使いのモリンに、魔法でどうにかならないかと相談してくれた。

 4歳の頃から、半年間、モリンが作くってくれた薬を毎日、飲んだ そして、その後の半年に効果をあるかを待った。

 でも、何一つ効果が出ることはなく半年が過ぎて、ナナは視界は赤色のままだった。

 それでも、モリンに頼んで、毎年、違う薬を用意してもらった。それが10年間も続けた。でも、何の成果もでなかった。


 一度、8歳の時、もっと色んな薬を試したくて、ママに「6ヶ月も待たなくても、すぐに違う飲みたい」と言ったことがあった。でも、ママから「熱を出したり、手足がしびれるなどが起きる可能性があるから、次の半年間は飲んではいけないのよ」と副作用があるから飲まないように言われた。ただ、効果のないことに焦りは生まれてしまうだけだった。


 それでも、生まれてずっと14年間、何も変わらなかった。病院に行く度、成果のない答えを聞くのが嫌だった。テイラ先生に「いつかは、色のある世界が見えるわよ」と無責任で根拠のないことを言われて、苛立ったこともあった。どうせ、ナナが赤の世界しか見れなくても、誰も困ることないのだろう。

 だから、自分で薬学を学んで、色のある世界を見ようと、いくつもの資料を読み漁ってきた。でも、視力のことは書かれていても、色のことについては、どこにも書かれていなかった。

 それでもあきらめることができない。だから、薬学の学校に行こうと思った。家を出て、色のある世界を見てみたいと思った。でも、どれだけ努力しても、リリーの存在が邪魔をしてくる。リリーはずるい。色んな色が見る世界で生きているのだろう。双子なのにずるい。目ために、薬や治療に関することを調べつくしても、虚しさが襲ってくることがあった。


 本当にいつか赤以外の色が見えるときがくるのだろうか。先の見えない不安が、ずっと襲ってくる。もし、色のある世界が見えるようになっても、どうしてもリリーには勝てない気がした。


「ナナ、お昼ご飯ができたから、降りてきなさい」

 1階からママの声がした。

「うん、すぐ行く」

ダイニングに行くと、テーブルにはママとナナの料理が置かれていた。

 パパは漁に出かけていない。弟のコリーもいないようでだった。コリーはリリーとは話すが、ナナとは会話をしようとはしなかった。どこかコリーはナナを避けている気もして辛かった。


 やっぱり料理はすべて、赤のままだった。食べ物を詰め込む以外、味などよく分からなった。食べることはお腹を満たす行為でしかなった。


「ねえ、ナナ、本当にメディカリート学院に行くの?」

「行くけど、何で、なんか問題でもあるの?」

「ないわよ。でも1人で大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

 本当にママは心配性だと思う。ナナにはよく大丈夫なのとよく言ってくる。それは、リリーやコリーには言っているところを見たことがなかった。頭がだんだん、クラクラして来た。

「ナナ」

ママの叫ぶ声がした。そのままナナは意識がなくなってしまった。



 ナナが目を覚ました。目を開けると、部屋は暗かった。ただ病院のベットだとは分かった。起き上がると、窓の側にあるソファにママが横になっているのが見えた。もう夜遅いのだろう。それに、少し視界の感覚が変だった。いつもと何かが違う。頭がフラフラする。もう少し寝ようと思って、横になった。


「ナナは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫でしょう。たぶん、リリーが…」

 微かに会話が聞こえてきた。でも、この声はママとテイラ先生の声だった。2人は部屋を出て行くタイミングで会話をしたようで、最後のリリーがの後が聞こえなかった。それに、なんでリリーの話なのだろう。

 

 ナナは目を開けた。視界が変だった。赤とは違う色。別々に見えたり、重なって見えたり、また混ざっているところもあった。それはナナの知らない世界で、不思議な感覚に陥っていく。目をこすって、瞬きをする。もう一度、目をかけて周囲を見る。なんでだろう。急に色が増えた。


ガラっとドアが開く音がした。

「目を覚ましたの?」

 テイラ先生だ。

「はい」

 少し頭がボーとしていて、上手く話せない。

「今さっき、お母さんが帰ってしまったのよ。気分はどう?」

「なんか、変なんです。色が…」

「色?? あ、ちょっと、目を触るわね。」

 テイラ先生の冷たい手が目に触れた。


「異常はないみたいだけど、何が変なの?」

「色が増えてます」

「増えている?! それは何色かな?」

「分かりません。初めて見るので」

「そうよね。ごめんなさい。」

「何で謝るんですか?」

「そうよね。ごめんなさい。一旦、モリンに来てもらうわ。何色が見えてるかを調べてもらうわね」

「調べる...分かりました。」

 モリンが来たら、今見えているのが何色か分かるのだろう。

「それまで、もう少し休んでいてね」

 テイラ先生が部屋から出て行った。でも、先生はなんで2回も謝ってくれたのだろう。不思議だった。

 ナナは、また病室に1人になった。天井を見上げる。赤い。そもそも天井がすべて赤い色で出来ているのだろうか。

 今まで、赤しかなかったので、そんなに疑問に思っていなかった。でも何で色が増えたのだろう。意識が朦朧として、眠気が襲ってくる。



「ナナ、ごめんね」

 ママがナナの頭を撫でいた。いつの間に、ママは病室に入って来たのだろう。ずっと意識が朦朧としている感じがして、気持ち悪い。

「モリンがくるまで、しばらく待つか… 少し、ライナ先生と病室の外で話してくる」

パパの声だ。

「そう分かった。でも私も聞きに行くわ」

ドアの閉まる音がして、パパとママは病室を出て行ったようだった。


「失礼するよ」

 ドアが開いて、モリンが部屋に入って、ナナが寝ているベットに近づいて来た。

「では、調べてみよう。ナナ、少し身体を起き上がらせるか。」

「はい」

「ナナ、目を覚ましたのね。気分はどう?大丈夫?」

 ママが駆け寄って来た。ナナが身体を起き上がるのを手伝ってくれた。パパとライナ先生も、部屋に入ってきた。パパはナナの頭を撫でた。

「気分はどうだ?」

「大丈夫だよ」


「では、始めるとするか。」

 モリンの手がナナの目を覆うようにかざした。


『ナナの見ている世界を浮かび上がらせたまえ』


 病室の壁に、映像が流れていた。今ナナの見ている視界の映像だった。

「えっ、これは」

 パパの驚いたような声がナナに聞こえてきた。

「青だよね。パパ」

「そうだな。」

「よかったね、ナナ」

 ママが泣きながら、ハグをしてきた。

「気分はどうだ?? 」

 モリンの声だ。

「少し、頭がクラクラします。」

「そうか、まあ、この視界に徐々になれていくだろう。もう一日、病院で休みなさい」


「モリン、すぐに、目は慣れないものですか?」

 パパが言った。

「まあ、最初は慣れなくて、気分が悪くなることはあるだろうが、だんだんなれてくるだろう」

「そうですか…」

 ママが安堵するような声で言った。

「もう一日、様子を見たいので、今日も入院してもらいますね。」

 ライナ先生が言った。

「今日もですか?」

 ママは少し残念そうなに言った。

「はい、万が一のこともあるので」

「わかりました。」

 ママはナナをチラッと見た。


 変な気分だ。なんで急に視界の色が増えたのか、ナナには見当もつかない。でも、ママもパパも嬉しそうだった。ナナはそれが嬉しかった。


<続く>


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