第十話 元の世界への帰還

あれからどのくらいの時間が経っただろうか。

辺りが真っ暗、そして浮遊感はいまだに継続している。とても気持ち悪い。

こういう時って1分が10分ぐらいに感じたりするからあまり時間経っていないかも……


「流殿……流殿……」


「リュー……リュー」


狐ノ葉さんと薫の声が聞こえる。

耳からじゃない、頭の中で響くような感覚だ。

幻惑術から解放された直後の狐ノ葉さんの気持ちが少しだけ分かった気がする。


「雷でも流してみますか?」


これは白雷の…………ん?

え、今雷を流すって言った?

何に?


「それでは、いきます」


急に不安になってきた。

彼女は何に雷を流すつもりなんだ?

狐ノ葉さんと薫が俺を呼んでて、その後に白雷が雷を流すか聞いていた……


もしかして、俺に雷を流す?


「待っあばばばばばばばばばは!?!?」


制止の言葉は虚しく消され、俺の体に雷が流されてしまった。全身がビリビリと痺れ、震える。目蓋の裏で青い雷が見える程だ。いつも冬は静電気に悩まされていたが、これで静電気に怯えなくて大丈夫だな!

いや、そうじゃない。


「これくらいで」


白雷が雷を流すのを止めたのか、全身の震えが急に弱くなり、俺は目を覚ます事が出来た。まだ若干ボヤけてはいるものの、視界には薫、狐ノ葉さん、白雷が映っていた。


「おー起きた起きた。も〜びっくりさせないでよリュ〜死んじゃったかと思ったじゃん」


「たった今殺されかけてたの見てなかった?」


徐々に視界が鮮明になっていき、三人の顔がはっきりと見えるようになってきた。

…………女子、女性三人に顔を覗き込まれるこの状況、恥ずかしいけどちょっと嬉しい。


「今……何日だ?」


「数分の時しか流れておりません。空も吸い込まれる前とほぼ同じでしょう?」


木々の隙間から光が差し込み顔に当たる。

薫からも確認しているだろうし、白雷の言う通りだろう。

頭だけを上げてガラス玉を持っているか確認だけすると、腹にガラス玉が乗っていた。何とか持ってくる事が出来ようだ。


「狐ノ葉さん、この中にきっと楓ちゃんが……」


「あぁ……よくぞやってくれた、流殿」


狐ノ葉さんがガラス玉を持った瞬間、手に静電気が走ったような痛みがした。

金属には見えないし、多分白雷の雷のせいだろう。


「あの猩猩鬼とかいう奴は倒したのか?」


「いや、あの波動で無理矢理押し出されちゃったからね。トドメはさせなかったよ」


まだあの化け物は生きてるのか。

出来ればもう会いたくないのだが……


「薫殿、私は一度戻る。楓を外に出してやらねばな。報酬は後程」


「承知致しました。お気をつけて」


狐ノ葉さんは一礼すると、ガラス玉を持って行った。

これで一件落着か……酷い目に遭った。


「いや〜これにて依頼終了! 疲れたね〜」


あの異世界にいた時の雰囲気から一変、いつもの薫に元通りとなった。

コイツのアホさに呆れる事はあるが……いつもの薫を見ると少しだけホッとする。


「いつまで寝ているのですか。起きてください」


「いや……なんかまだビリビリして体動かせそうに無いんだが」


「大袈裟な。あの時私を助けた時のようなマナを持つならばこの程度は静電気にも劣るものですよ」


そうは言っても、本当に起き上がれない。

寧ろなんで皆普通に動けてるんだ?


「いや本当に痺れてるんだって……」


「えぇ〜リューったらしょうがないなぁ〜」


くねくねして何やら独り言を言っている薫。


「はぁ……全くもう」


白雷がため息をつくと、俺の肩を掴み、ゆっくりと起き上がらせてくれた。その様子を見ていた薫は固まり、光を失った目で俺を見る。


「ありがとうな白雷。よっ……あれ」


足に力を入れて立ち上がろうとするが、よろけて倒れてしまう。手に力を入れて立ち上がろうとするが、途中でよろけてまた倒れた。


「……まさか立てないとは、言いませんよね?」


「………………」


結局、白雷が俺のことを背負ってくれた。

恥ずかしいけど嬉しい、でも背後でとてつもない視線と冷気を感じるのは言うまでもないだろう……

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不可思議の万屋〜麒麟の姫と流れ神の伝説〜 くろべもち @kurobe1024

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