第9話 相場

 俺は、館への道をとぼとぼ歩きながら能力について考えていた。

 もちろん、前の地球では持っていなかった二つの能力についてだ。一つは、詐欺スキャムそしてもう一つは、先ほど狼の様な獣を倒した銭投げスピンターンだ。


 詐欺スキャムは、俺が話す事柄を相手に信じさせる能力だ、特に仮想通貨に関する事柄を信じさせることができる。まあ、今のところ上手くいってるが、意思の強い相手には効かないかもな?


 銭投げスピンターンは、俺の口座内の仮想通貨を使って敵にダメージを与える能力だ。相手を倒した場合は、相手の総合値ステータスから換算した仮想通貨を受け取れる。


 館に着いた。ドアを開けようとしたときに、今まで黙っていたネコが口を開いた。


「ご主人、そう言えば森に剣を忘れてきたにゃー」


「おい、もっと前に言えよなあ。仕方ない明日取りに行って来るよ」


「竜様、それには及びませんわ。剣は既に回収しております」


 ネコさんが、後ろに浮く剣を示した。なんかさっきより力強さを感じるが、気のせいか?


「あと、これが届けられました」

「あ、俺のスマフォだ。ところで誰が届けてくれたんだ?」


 空中を滑って、スマートフォンが俺の手に収まった。


「可愛らしいお嬢さんが、女神さまから預かったのだと」


「そうか、ネコさん。ありがとう」


 俺は、部屋に入ると、スマフォの電源を入れ、指紋認証でログインした。


 うっ、メールもWEBサイトも閲覧できない。どういうことだ?たしか仮想通貨限定で通信、決済ができると・・・


 なんか知らないアイコンがあるな。金貨を右手に持つ女神っぽいアイコンか、これだなウィルスで無ければ。俺は、見知らぬアイコンをタップした。


 途端に、スマフォの画面を見ていたはずの俺は、多数の情報表示画面に囲まれた球体の中にいた。俺が興味を持った画面が正面に来て、お好み焼き二枚、一0000BSTだと?一万ビーストコインでお好み焼き二枚って、二枚で二千円だとしたら、一BSTは0.二円か?


 な、何があったんだ。またどこかの取引所がハッキングにあって、同時にクジラ(百億以上の大口投資家の通称)が投げ売ったのか?それとも、また、致命的な欠陥が露呈した?俺の資産がぁ!


 俺は、焦っていたのだろう。情報の日付がおかしいのにようやく気付いた。二0一0年の五月二二日、ああピザの日か。しかし、最新のニュースを見ても二0一0年の九月より新しいニュースがない。


 結論として、この世界と元の地球では八年程時間がずれているようだ。

 で、気になるBSTの価格だが九月現在、日本円で5円というところだ。


 そして、元の地球での俺の口座残高を確認してみると、四00万BST、日本円にして二000万円相当だ。ふう、相場の変動につじつまを合わせたように転移する前の口座残高と合致している。

 

 あ、焦った。もし残高が相場と調整されていなかったら、二0BST(百円)なんてことになったら目も当てられない。


 試しに一BSTを売ったら、口座残高のBSTの欄から1が減って、日本円の数字が5増えていた。よしっ、この世界からちゃんと取引もできるな。 


 よし、いろいろ情報を発信して価格を吊り上げるとするか。


 俺は、うろ覚えの知識でイーチャリウム(ECH)、ビロウ(XBL)などの第二、第三の仮想通貨の概念を発表し、有志を募って開発させることにしよう。


 あと時期を見てICO(新規仮想通貨公開)ブームを作れば、ECHの価格が上昇し大儲けが出来るはずだ。

 ICOは、仮想通貨の開発・運営元が資金調達するために取引所上場前に個人投資家や企業などに割安価格で発行する方法だ。

 このとき、ECHを元手にして新規の仮想通貨を発行するブームが到来したため、転移する前の世界ではECHの価格高騰が起きた。

 このブームを俺が主体的に誘導することで、確実に利益を確保するのが狙いだ。


 俺の真の目的のために、金はいくらあっても足らないくらいだ。俺に金を寄こせ!

 

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