第三十三話 正義の味方
《アルクシェル》は《パッションコード》に誘導されて《ノアビヨンド》の中へと入っていく。船体下部のハッチからドックへと入る。
ドック内に入るなり、ロウは目を見張った。
《パッションコード》以外にも《MF》が、《ノアビヨンド》内部には格納されていた。
巨大な砲塔がつけられた琥珀色の機体。
青い鎧を纏い、背中や腰に多数の剣を携えた機体。
様々だった。
あれがキティの言っていたほかの亜空機という《MF》なのだろうか―――。
《アルクシェル》がドック内に着地し、僕とシルバリオンを降ろす
「やあ、やあ、帰ってきましたよ」
シルバリオンが手を挙げてドック内の整備班へと近寄る。
彼らはシルバリオンへ手を挙げて返礼したが、ロウへ不信感のこもったまなざしを向けていた。そして何より、ロウの背後に立つ《アルクシェル》を警戒していた。
「……どうも」
とりあえず手を挙げて挨拶してみる。
シルクハットをかぶっている上、《アルクシェル》と共に来たので、ユーリ・ボイジャーがイフ・。イブセレスを連れてきたのだと思ってくれているだろうか……彼らの眼がユーリが思ったより若いと告げていた。
と、どうやって彼らの警戒を解こうと思案していると背後から光が漏れた。
「イフ⁉ 《アルクシェル》が崩壊してく……」
《アルクシェル》の胸が輝き、そこから広がるように《アルクシェル》の機体が消えていく。
中にいたイフがゆっくりと羽のように降りてくる。彼女の意識はないのか、目は深く閉じられている。
僕は彼女の体を抱きかかえた。
「イフ? 大丈夫か? イフ?」
彼女の体を揺らすが返事はない。
「気絶しているだけだ。初めて虹の腕輪を使って疲労したのだろう」
知らない女の人が立っていた。
白髪でコートをなびかせ、男性用のネクタイを締めた凛々しい女性だった。
「メイサ。イフを医務室に連れていってやってくれ」
もう一人、女の子いた。背の低い、少し明るい金髪をサイドに縛った少女だったが、軍服のようなきっちりした服に身を包み、真面目そうな表情を浮かべ、大人のような女の子だった。彼女は「了解」と短い返事をすると、僕の手からイフの体を取り上げ、運んでいく。
「あの、貴方は?」
イフが運ばれていくのを何が可笑しいのか、微笑を浮かべて眺めている白髪の女性へ問いかける。
「ヨルダ・ダリア。ようこそ、ノアビヨンドへ。ユーリ・ボイジャー。イフ・イブセレスを連れてきてくれてありがとう」
「ダリア?」
ロウへ向けて手を伸ばす白髪、もといヨルダ。
「……僕の名前はユーリ・ボイジャー。ご存じみたいだね、よろしく」
ヨルダの手を取る。
この微笑を浮かべて何を考えているのか全く読めない女が《ノアビヨンド》の艦長、そして『エリクシル』のリーダー……。
「会うのは初めてだがね。一緒に世界を変えるとしようか」
「世界を変える? イフと虹の腕輪は連れてきたが、これからどうするんだ?」
「そうだな。とりあえず、エデン中で起きている戦争を止める」
指をくるっと回しながら平然と答えた。
「何?」
思わず聞き返してしまった。
「各地で起きている戦闘行動を我々が止める。
全てだ。
『エリクシル』の戦力、そしてイフのアルクシェルがあれば可能だ。我々はこれ以上エデンで血が流れるのを良しとしない」
くるっと背を向けて歩き始めた。
「我々は正義の味方だからな」
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