第三十話 蒼き巨人
「発動した、ようだな……」
二十機目になる《プシュケロス》を落とし、《パッションコード》のコックピットカメラで屋上を確認していたキティはつぶやいた。
光の渦がやがて形を―――、人の型を形成する。
セイレンは頷きもせずに前を見ろ、と前方モニターを指さした。
「これが、虹の腕輪に収まっていた《MF》か……」
青色の翼の生えた巨人だった。
「……青いな」
「…………」
先ほどは腕だけだったが、何かフォルムと色が違うような気がした。
蒼いボディ、二本角が天に向かって伸びている。胸には大きな青い宝玉が収まり、手足は細くしなやかで、背面には鳥のような翼が伸びていた。確か先ほど見た時はかなりメカニカルな白い腕だったが、今、イフ・イブセレスが出現させた《MFの》色は青く、かなり生物的な印象を受ける。
それは背中の羽が蒼い体毛でおおわれたかなり生き物じみたものだったから……だけではない。
「あの頭……顔があるよな」
アルクシエルには顔があった。機械の巨人―――《マルチフレーム》だというのに、目と口があり、それがしっかりと閉じられていた。
しゃべるのかな……?
二十一機目を落としつつも、キティの目は地上から離せなかった。
〇
「これが……《アルクシェル》……?」
ロウは校庭に立つ青い巨人を、抉れたクレーターのある校舎の屋上から見上げていた。
今までどの本でも見た鉄の巨人のフォルムとも似ていない。
神々しい姿だった。
「……くそ、とりあえず、お前らだけでも拘束させてもらう、シルクハットと亜人、動くなよ!」
屋上にいたのはロウだけではない。銃を構えたイーグルたちと、手足を撃ち抜かれたシルバリオンもいる。
やばい、何とかシルバリオンを連れて脱出しなくては……だが、キティはいまだに戦闘中だし、頼れるのは《アルクシェル》に乗っているイフしかいない。
ロウは目を閉じたままの青い巨人に向かって声を飛ばした。
「イフ! 僕たちを連れ出してくれ!」
蒼い巨人の目が開く。
「――――――ッ!」
答えてくれた。
《アルクシェル》はロウたちへ向けて手を伸ばし、ロウとシルバリオンの体を鷲掴みにした。
硬く巨大な指が体に食い込んで少し痛い。
「痛たたたたっっ! 痛いです! もっと優しく!」
手足を負傷しているシルバリオンはロウよりももっと痛いようで抗議の声を上げていた。
「待て!」
ガァンッ!
僕を握る巨人の腕に銃弾が当たり、はじき返される。
「お前らは一体何者だ! どうして、虹の腕輪を持っていた⁉」
敵意を込めた目を向け、イーグルが問いかける。
《アルクシェル》に持ち上げられながらも、遠ざかる彼に向けてロウは不敵な笑みを向けた。
シルクハットを外す。
「僕らは世界進化機関『エリクシル』そして、僕はそのリーダー、ユーリ・ボイジャー。タイムトラベラーだ!」
「……ユーリ・ボイジャー? いや、貴様……その顔は……」
イーグルが怪訝に顔をしかめるのを見ながら、ロウの視界は高速でスライドした。
《アルクシェル》が翼をはためかせ、加速したのだ。
〇
足元の景色が矢のように過ぎていく。
《アルクシェル》の加速はすさまじかった。
「……る、らららららああああああああ!」
風を顔にまともに受けて、口がぶるぶると震える。まともに喋るどころか、顔の皮が捲れないように必死に抵抗する。
そして何より…………、
「さむ……さむむむむむいいいいいい!」
窓のないジェット機に乗っているようなもので、非常に寒い。寒いというか痛い。
乗り心地は最低の《アルクシェル》なのだが……、
「あ……」
すれ違っていく《プシュケロス》の機体が黄金の粒子へと変わっていく。
《アルクシェル》が通過すると、その傍にいた機体が分解され、ただの【ナノマシン】の粒子となって《アルクシェル》へ追随する。
大空に浮かぶ金の奔流。
「黄金の風……」
シグマデルタの上空には金色のオーロラのような旋風が吹いていた。
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