第二十九話 虹の革命機・《アルクシエル》

 次々と事態が展開していき、イフ・イブセレスの頭はほぼパニック状態だった。

 イーグルたちが銃を持って私に向けている。そのことで彼女の頭のキャパシティは超えていたのだった。

 だが、ユーリを名乗るシルクハットの男にコンドが銃を向けた瞬間、何としても彼を撃たせてはならないと思った。

 姉につながる手がかりがなくなるというのもそうだが、コンドに、半年も学校生活を共にしてきた青年が遠くに行ってしまうのが怖くて、声を上げた。


「やめてええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」   


 だが、彼女が声を上げた時には弾丸は発射された後だった。

 手を伸ばす。

 間に合わないとわかりつつも、届けと願い手を伸ばした。

 イフは自分の腕がもっと大きく、長く、固かったら銃弾を掴めたのに……! あの空を飛んでいる赤い《MF》のような腕が欲しい……!

 そう、願った―――。


 ポーン………!


 頭の中で音が響いた。

 世界が、変わった。

 彼女の周囲のコンクリートが一瞬にして消え去った。

彼女を中心に抉り取られるように砂と化したコンクリートだった―――粒子が空を走り、形を成していく。


「何っ⁉」


 キィン……ッ! と金属音が響いた。

 鉄の壁が銃弾を弾いた。

 鉄の……壁?

 イーグルは目を細め、


「虹の腕輪が、発動した……」


 壁は巨大な鉄の腕だった。

 《MF》の右腕だけが空中に出現し、コンドが発射した弾丸を弾いたのだ。


「ど、どうして、こんなことが……」


 どうして突如としてこんな巨大なものが――――?

 イフの生み出した鉄の腕に守られたユーリ・ボイジャーもポカンとしている。


「そうか、そういうことか……」

「どうして……《MF》の右腕が……?」


 鉄の腕が―――粒子へと戻っていく。

 役目を終えた白い巨大な鉄の腕が霧散していく。

 こちらに銃を向け続けるイーグルたちを警戒しながら、ユーリがロウの方へと歩み寄る。


「イフ、虹の腕輪は【ナノマシン】を操る能力がある」

「【ナノマシン】を?」

「そうだ。このエデンを作り出した万能粒子―――【ナノマシン】。鉄を水に、砂を空気に換えられる超科学の産物。それを君が、君だけが操れる」


 ユーリの手がイフの虹の腕輪に添えられる。


「世界進化少女意味がようやくわかった! 君はこの世界を、エデンを思うがままに書き換えることができる。神に等しい力を得たんだ! だから、あいつらは君を狙っているんだ!」

「私が、この世界を……」


 興奮した様子でイフの手にある虹の腕輪を握り締めて、イーグルたちを指さすユーリ。

 いきなりの事で彼の言葉はにわかには信じがたい、それに……。


「これ……」


 なぜか足元に落ちている『ジェミニスター物語』を拾う。ユーリを名乗る彼の足元以外のコンクリートは白い《MF》の腕を形成するために使われ、削られたので、これもイフの真下に置かれていなかったら一緒に白い《MF》の一部となって消滅していただろう。

 どうして、わざわざユーリ・ボイジャーがこんなものを持ってきていたのだ。という当然の疑問が頭をよぎった。


「イフ。この状況を打破できるかもしれない……」


 ユーリを名乗る少年肩を掴む。

 この声、やはり聴き覚えがある。


「さっきの《MF》を出すんだ!」

「貴様、イフ様から離れろ!」


 イフに触れたことをきっかけに、イーグルたちがユーリの身柄を抑えようと走り寄ってくる。


「…………ッ!」


 この少年の正体を思案することをイフはやめ、現在の状況を切り抜けるための思考へとシフトする。


「さっきの腕だけの? 出し方が分からない」

「強く念じるんだ。自分を守る強い巨人を」

「…………出ない」


 目を閉じて念じてみたが、白い《MF》は出る気配がない。

「スイッチが必要か……なら、名前を付けるとか?」

「名前?」

「それを叫ぶことで、頭の中のイメージを具体的にするんだ」


 イーグルたちがすぐそこまで迫る。


「時間がない、やるしかない」

「……名前、名前……」


 イフたちの上空を空を戦闘中の《パッションコード》が横切った。

 ギュッと、ユーリがイフの手を握り締める。

 暖かい……。

 光が見えた。


「あれ、何て言ったっけ……」


 光は《パッションコード》の背面スラスターのジェット噴射だった。普段は赤色なのだが、限界まで使用していることで噴出口の金属を溶かして放射し、全く鮮やかな色を作り出していた。

 まるで虹のように――――。


「虹……」


 空を自在に飛ぶ、《パッションコード》は虹を帯びた鳥のように見えた。

 私もああなれれば―――。


「《アルク、シエル》――――‼」


 虹の腕輪が蒼い輝きを放った。

 埋まっている十二の宝石の内の一つ、青色の宝石が輝きだした瞬間だった―――。

 周囲のコンクリートが消滅し、大気がイフへ向かって―――そして、丁度校舎に接近していた《プシュケロス》も粒子の粒となって分解された。

 光の粒子が竜巻となってイフを包んでいく。

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