第11話


◇ ◇ ◇ ◇


 柔らかな砂の感触が、さくさくと音を立てながら足に伝わる。波の音は相変わらず静かで、沈むことの無い夕陽は、僕と宮町弥生を赤く染めていた。

 気にならないくらいの微かな潮の匂いと重なり、宮町の石鹸の香りが鼻にかかる。

 宮町の隣に並んで、僕は歩調を合わせながら、皆のところに戻った。

 いくつかのグループに分かれて、皆はそれぞれ砂浜にばらばらに設置されたテーブルを囲んで話をしている。

 当時の仲の良いメンバー同士なのだろう、数年振りに会った人たちもいるだろうが、すでに溶け込み、仲良さげに笑い合っている。皆、学生の頃の姿のためか、笑い方がどこか幼い。

「皆、子供みたいだね。おじさんやおばさんになんて全然見えないわ」

 同じことを考えていたのか、宮町が呟く。そう言う本人だって、とても四十代のおばさんだなんて思えない。むしろ際立って若く見えるくらいだ。

「そうだな……」

「久しぶりに会って、こんな格好じゃあ、ハメをはずしたくなる気持ちもわからないではないわ」

 くすり、と宮町は笑った。

「おーい、日比野! こっち来いよ!」

 遠くでてっちゃんの声が響いた。見回すと、テーブルの向こうでてっちゃんが大きく手を振っていた。

「行ってきたら? 会うの、久しぶりなんでしょ?」

 軽く宮町が僕の肩を叩いた。

「あ、あぁ……」

 僕が振り返って頷くと、宮町は変わらぬ笑顔のまま小さく手を振る。

 宮町から離れる形で歩き出したとき、懐の手紙のことを思い出した。今、この場で離れたら、次に話す機会があるかどうか怪しい。

「み、宮町!」

 振り返り名を呼ぶと、宮町は首を傾げる。

「ん?」

「おーい! 日比野ー!」

 てっちゃんの声が背中越しに届く、声に押されて砂浜に足を取られそうになる。

 宮町の前に戻ると、宮町は苦笑いを浮かべる。

「早く、行ってあげたら?」

 振り返り、てっちゃんと宮町を見比べ、僕はため息を一つついた。

「あ、後で渡したいものがあるから……」

「渡したい……もの?」

「大切なものなんだ」

 宮町は少し首を傾げて、そして一つ頷いた。

「じゃあ、また後でね」

 ひらひらと宮町は手を振った。

「あ、あぁ、また後で」

 どこか胸がずきりと痛んだ。これを渡す瞬間が、きっとこのどこか現実味のない空間の終わりなんだと思った。

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