もうひとつの結末:第45話 4人は永遠に……

 このストーリーはバッドエンドです。一つの結末として遺しておきます。幸せだけを見たいと言う人は飛ばしていただくことを推奨します。書いている私も心がキューっとなりながら書いていますので……。


 45話の差し替えだと思ってお読みください。

 =====


「それを教えてあげるのにもう一つやって欲しいことがあるの」

 夏美なつみんは滝に目線を向けて寂しそうな顔をしている。僕は黙ってなつみんの言葉を待った。寂しげな表情が意を決したような顔へと変わる。


「キスして欲しいの、椎弥しいやんから私にね」


「えっ? さっき、あんなことを言ったのに? それにあんなことが無くても僕には出来ないよ」

 ビックリして目を見開いてしまう。そのままなつみんの方へと顔を向けた。

「ここを逃したらもう彩衣(あいりん)の心を読めるようになったわけ、彩衣との未来が閉ざされるつもりで決めてね。和奏(わかなん)との未来は残ってるから安心してちょうだい。制限時間は5分、私は前を向いているからほっぺにキスしなさい、もちろん目を瞑ってね」


 心の中に色々な感情が渦巻く。欲望のままなつみんと男女の関係になったら嫌われていた。彩衣のこと……、なつみんへのキス。裏切りになるのか……、でも彩衣との未来。何が正しいのか分からない。


 

 やはり僕には出来ない。彩衣を……そして和奏を裏切ることなんて……。


 強く目を閉じて力強く顔を右下に向ける。


「そう……。幸せな未来はここにはないのね」

 夏美は立ち上がるとその場から走り出した。慌てて追いかけるが夏美の速さに追いつけるわけもなく見失った。


 鬱蒼と茂る森の中で夏美を探し和奏にも連絡をとる。


 そこで驚愕の事実を知ることになった。


 夕食の準備をしている時、ログハウスに夏美が戻って彩衣を連れて行った、連れて行ったというより付いていったという方が正しい。心を読ませた夏美、青ざめる彩衣。その時に感じたいつもと違う雰囲気の夏美。


 夏美と彩衣が行方不明となった。捜索は警察に任せ夏合宿は中止。色々な事情聴取が夜までかかり、先生の運転で藍彩高校に戻った。


 和奏と共に自宅に戻る。お互いの心を察してか終始無言。言葉を交わすことはなかった。


「ねえ、彩衣の家に行ってみない?」

 電車の中でポツリと和奏が話す。その言葉に僕の心の中で渦巻いていたザワザワが溢れんばかりに広がった。


 


 大銀杏の葉が青々と茂っている。不思議な出来事に驚いてしまったが、今はそれよりも大事なことがある。

 和奏の手を握り彩衣の家に到着。カーテンは閉まっているが隙間から明かりが漏れている。帰っているのだろうか……なぜ逃げ出すように……。


 施錠されていない玄関をゆっくりと開ける。正面に飾られていた大銀杏の写真が消えていた。玄関に置かれた2足の靴が帰っていることを確信させた。


 無事を感じた心のザワザワがおさまりはじめる……和奏と共にゆっくりとリビングへ……




 横たわるふたり。手を握り大銀杏の写真を抱いて……


 写真に書かれた文字が全てを物語った。



『この世界で4人の幸せは実現できなかった。未来への道が次の世界をさしているの。先に行って待ってるね  彩衣 彩依』





=====

 書いてて胸がキューっとなりました。書かなければいいんじゃないかと思ったのですが、44話で何気なしに作った分岐点。ここで描かなければ、先々こんなことを考えたなぁって記憶は消えてしまうでしょう。一つの記録として書かせていただきました。



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