第48話 おかえりなさい

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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 大銀杏の下、なつみんと寄りかかって空を見上げていた。9月になると青々と葉が生い茂り迫力ある姿を人々に見せる時期。しかしこの大銀杏は葉が茂らず寂しく枝が四方八方に伸びている。


椎弥しいやん、大銀杏に葉は茂ってると思う?」

 なぜこんなことを聞いたのか分からなかった。もう何年も葉の茂る大銀杏を見ていない。

「なつみん──」僕の言葉をなつみんの人差し指が口をつついた。

「今日だけは彩依あえって呼んでもらっていいかな。やっぱりみんなに話すとなると緊張するなぁ。いつもの感じだったら楽なのに」

 立ち上がって僕の両肩を掴む夏美あえ

「なつ……彩依は色々と苦労してきたんだね。なんか今日という日まで凄く努力してきたのを感じるよ」

 ポロリと涙が頬を伝わり地面を濡らす。

「ありがとうね。ひとりで寂しかった。力のことは亜紀には話していないし時折愚痴を聞いてもらったなぁ」

「じゃあ行こうか」

 彩依の腕を掴み立ち上がらせる。微かに震える手、いくら強がっていても18歳の女の子なのだから。


 そのまま手を引いて彩衣の家にあるインターホンを鳴らす。ドタドタと玄関に走ってくる足音、躊躇なく扉が開かれる。


 一歩、一歩近づく彩衣。彩依の前まで行くとゆっくりとネックレスをかけた。


 不思議そうにネックレスの飾りを拾い上げるといろいろな角度からイチョウを模したハートのネックレスを覗き込む。

 僕、彩衣、和奏はかけられたネックレスを取り出して、”3つ葉”を形作ると彩依に笑顔を向けた。


 恐る恐るネックレスの飾りを近づけていく彩依…………ゆっくり……ゆっくりと。


 そして『4つ葉』が作られた。


「「「おかえり、彩依」」」


 涙を流す彩依を家屋に招きリビングの縁にそれぞれが座る。置かれた4本の『つぶつぶオレンジジュース』


 中央には彩衣のクッキーが置かれポットと共に紅茶も用意してある。どれほどの時間が経っただろう。彩依が語り始めるのをずっと待った。 そして……


「本当は名前で呼びたいけど、緊張するから今まで通り呼ばせてもらうね」

 夏美あえは立ち上がって「彩衣あいりん借りるね」と言いつつ玄関に向かった。玄関から持ってきたのは写真。

 テーブルに置いた額縁からゆっくりと写真を取り出す夏美あえ、大銀杏の絵に被せられた縦に伸びた楕円形の紙が”絵の主役は大銀杏だ”と言わんばかりに強調させている。

 楕円形に切り抜かれた紙をゆっくりと取り外すと大銀杏の全貌が現れた。太い幹に多く紅葉こうようした葉が茂る立派な木。その根元には4人の人物が写っていた。


「この4人、椎弥と和奏、そして彩衣あいりんと私よ」

 僕たち3人は前かがみになって写っている面々をまじまじと見つめる。


「彩衣と夏美さん可愛いー。ちっちゃーい、私たちもこんな時があったんだねー……髪型で分からなかったけど夏美さんもそっくり」

 驚嘆する和奏。夏美あえと彩衣の顔を交互に見比べている。

和奏わかなん、お願い、今日は彩依あえって呼んでくれる。それに『さん』はいらないわ」

 髪を持ち上げてお団子風にする夏美あえ

「すごい……彩衣とそっくり……、髪型で全然変わるもんなんだね」

 腕を組んでウンウンと頷いてしまう。

「そうよ、女の子は髪型で気持ちも変わるんだから、彩衣も今度変えてみない?」

 ニコニコする彩衣。

「わたしはいいわ、この髪型が落ち着くの。それにこの髪型が椎弥や和奏と繋いでくれたみたいで気に入ってるのよ」

 表情のニコニコの奥底にあるニコニコが見えた気がする。写真を見るとある事に気付いた。

夏美あえ、この絵っていつ書いたものなの? 葉っぱが沢山あるじゃない、いつからか葉がまったく茂らなくなったからね」

「そういえば前に椎弥と話したわよね。いつから葉が茂らなくなったんだっけってね」

 腕組みをする夏美あえ。顔を傾ける。

「(小声)そうか、やっぱり見えていないのね」

 微かに音として聞こえた夏美あえの言葉。

「え、何か言った?」

 ニコニコする夏美あえ

「いえ、何も……私はいつだったかちゃんと覚えているわよ。でもね、今は言えないの。それがこの物語の本質になるから」

 含みをもたせつつ話を続ける夏美あえ


 母が死ぬと父がお酒に溺れるようになったの。特に大人しかった彩衣が標的になっていたわ。わたしは幼心に父が怖くて逃げまわっていた、そんな自分が嫌いでいつもお姉ちゃんに謝ってた。

 お姉ちゃんはいつも私に言ってたわ。『彩依は隠れてなさい、お姉ちゃんに任せなさい』って。そんなお姉ちゃんが大好きで申し訳なくって……いつかは必ずお姉ちゃんと一緒に幸せになりたいとずっと思ってたの。今でもその気持ちは変わらないわ

 

「そんな時に夏美あえが亜紀の母親と共に出ていくことになった……」


「そう、そこから全てが始まったの」



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前作までの登場人物:

藍彩高校

 2B:花咲椎弥(はなさきしいや):主人公。

 2B:中村茜(なかむらあかね) ……美術部、謙介の彼女

  (2B担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……美術部顧問。学園ドラマ好き

 1A:原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

 1A:春奈彩恵(はるなあえ)  ……若葉のクラスメート



 美術部

  3B:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が分かる。ニコニコしている。

  3B:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。

    =小鳥遊彩依(たかなしあえ)……彩衣の双子の妹


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……2年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……2年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……2年:和奏、美陽と共に特Sクラス

   西田心夏(にしだここな) ……3年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉

   西田謙介(にしだけんすけ)  2年:藍彩高校から転校した。茜の彼氏

その他

   高野亜紀(たかのあき)  ……3年:椎弥・和奏の幼馴染。彩衣の従妹

   


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