第45話 驚きの連続

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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「それを教えてあげるのにもう一つやって欲しいことがあるの」

 夏美なつみんは滝に目線を向けて寂しそうな顔をしている。僕は黙ってなつみんの言葉を待った。寂しげな表情が意を決したような顔へと変わる。


「キスして欲しいの、椎弥しいやんから私にね」


「えっ? さっき、あんなことを言ったのに? それにあんなことが無くても僕には出来ないよ」

 ビックリして目を見開いてしまう。そのままなつみんへ顔を向けた。

「ここを逃したらもう彩衣あいりんの心を読めるようになったわけ、彩衣との未来が閉ざされるつもりで決めてね。でも和奏(わかなん)との未来は残ってるから安心してちょうだい。制限時間は5分、私は前を向いているからほっぺにキスしなさい、もちろん目を瞑ってね」


 心の中に色々な感情が渦巻く。欲望のままなつみんと男女の関係になったら嫌われていた。彩衣のこと……、なつみんへのキス。裏切りになるのか……、でも彩衣との未来。何が正しいのか分からない。


 いや、まてよ。今まで男女の関係で僕の人となりを計ってきたなつみんがほっぺにキス、体を重ねろとか唇にキスをしろとかいう条件じゃないのが気になる。

 一番は彩衣との未来を閉ざされては困る。何があっても彩衣との未来は守りたい、しっかり彩衣に説明して許してもらえるまでお詫びしよう。


 意を決した僕は目を瞑って夏美の頬にキスをした。


「ふふふ、ありがとう。そのまま目を開けて私の耳を見てもらって良いかな」


 頬にキスをしたままゆっくりと目を開いてなつみんの耳を見る。



!!!耳の穴にホクロがあった。僕はこのホクロを知っている。彩衣……彩衣も耳穴にホクロがある。しかも全く同じ場所、同じ大きさ。同じ形。頭の中が混乱する。まさかという思いとそんな訳ないという思い。


「なつみん…………耳の中にあるホクロ……彩衣と同じ……」


 なつみんは立ち上がって僕に抱き着くと耳元で囁いた。

「わたしは小鳥遊たかなし 彩依あえ、彩衣の妹よ。よろしくね私たちの彼氏さん」


 驚きすぎて座ってた石の後ろに滑り落ちてしまった。

彩依あえ……、君が彩衣の双子の妹の 彩依あえだっていうのか」

 なつみんは僕を椅子に起こすと隣に座った。

「そうよ、海野は預けられた先の伯母ははが再婚して変わった姓。夏美という名前は苗字と一緒に伯母ははが縁起が悪いって変えたのよ。だから美陽みはるんとは血のつながりはないの」

「…………」

 立ち上がると滝に向かって滝のエネルギーを全身で受け止めるように大の字に立つなつみん。

「ありがとうね椎弥しいやん、色々あったけど最高の結果につながったよ。わたしも椎弥しいやんのおかげで副作用なしに力が使えたよ」


 またもや座っている石から後ろに滑り落ちてしまった。

「なつみんも彩衣のような不思議な力があったっていうの?」

 

 隣に座る夏美。クスクスと笑っている。人差し指で僕の鼻をつつく。

「それは夏合宿から帰ってからね。でもやっぱり寂しいわね。夏合宿が終わったら美術部も卒業かー。彩衣あいりんのことが気になるからってサボっちゃだめよ、新部長さん。じゃー絵を描いちゃいましょう」


 その後は真面目に絵を描き上げた。去年、描き切れなかった茜さんと和奏は夜に仕上げに缶詰状態だったことを考えるとやっておかないと後が大変。


「でも、ログハウスに戻ったら彩衣に心が読まれちゃうから今日の事はバレちゃうだろうし、なんとか合宿中は動揺だけはさせないようにしたいな」

椎弥しいやんは何か勘違いしてないかな。彩衣あいりんは心が分かるのよ。記憶が読めるわけじゃないのよ。だから『今』しか分からないわけ。私がなんで演技していたのか考えれば分かるでしょ」

「そうか、いつも考えていることを読まれていたから全て分かるものだと勘違いしてたよ。ありがとうなつみん」

「でも、椎弥しいやんは単純だからバレるでしょうね。先に夏合宿が終わったらちゃんと話すから、最後の美術部のイベントを楽しもうって言っておけばいいじゃない。和奏わかなんにもね」

 僕は立ちあがって夏美の前に立って質問した。

「不思議な力を抜きにしてもなんでこんな回りくどいことをしたのかが分からないんだ。もっと早く名乗り出ることも出来ただろうし姉妹で分かりあえることも出来たと思うんだ」

 夏美は立ち上がって人差し指で僕の鼻をつつく。どうやら夏美の癖のようだ。

「わたしの事情もあるのよ、それも教えてあげるから夏合宿が終わるまで待ってね、亜紀ちゃんにも感謝しなくちゃね」

「そっか……。確か初詣を提案したのもなつみんだったよね。僕たちがあんな状況になる予想をして亜紀を……」

「ごめんね、喋り過ぎちゃった。もうこの話はお終いね。ちゃんと話すから良い子で待ってるのよ」

 演技の無い普通の女の子を夏美から感じていた。これが本当の姿であるような気がする。


 絵を描き終わった僕たちはログハウスへと戻った。途中で石原先輩グループと遭遇した。そこで若葉と彩恵は笑顔で作品を見せてくれた。石原先輩の指導によって心から絵の楽しさを知ったようだ。

 

 石原先輩の凄さを改めて感じた。

 


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前作までの登場人物:

藍彩高校

 2B:花咲椎弥(はなさきしいや):主人公。

 2B:中村茜(なかむらあかね) ……美術部、謙介の彼女

  (2B担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……美術部顧問。学園ドラマ好き

 1A:原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

 1A:春奈彩恵(はるなあえ)  ……若葉のクラスメート



 美術部

  3B:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が分かる。ニコニコしている。

  3B:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……2年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……2年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……2年:和奏、美陽と共に特Sクラス

   西田心夏(にしだここな) ……3年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉

   西田謙介(にしだけんすけ)  2年:藍彩高校から転校した。茜の彼氏

その他

   高野亜紀(たかのあき)  ……3年:椎弥・和奏の幼馴染。彩衣の従妹

   小鳥遊彩依(たかなしあえ)……3年:彩衣の双子の妹


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