第43話 恒例、夏合宿

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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 1学期も無事に終えた。

 若葉の件でトラブルがあったクラスメイトとは、若葉の前で良いところを見せようと調子に乗ってしまったことや、その場の雰囲気で迷惑をかけてしまったことについて謝罪された。

 「勉強を教えてあげる」という言葉を有言実行した茜の人気が一時的に急上昇したが、謙介と付き合っていることが広まると自然とおさまった。


 昨年、石原先輩の希望で初めて開催した夏合宿が恒例行事のように今年もなつみんを中心に話が進んでいた。

 涼島先生(せんせい)に昨年の夏合宿で高校教師を感じられたのがよほど嬉しかったのか、ふたつ返事で賛成し開催に協力してくれた。


 当日……


 インターホンが押され和奏と若葉が迎えに来る。そのまま彩衣の家に行ってバスに乗り電車で学校に向かう。気にしないようにはしているがバスで中学の同級生と会わないかドキドキしていたが、夏休みの真っただ中車内はガラガラだった。久しぶりのバスと楽しみな夏合宿の気持ちが折り重なってテンションが上がる。


 学校に到着すると既にみんなが集まっていた。話によると一番最初に到着していたのが涼島先生(せんせい)だったらしい。


 3年生のなつみん、彩衣。2年生の僕と茜。1年生の若葉と彩恵。そして和奏と石原先輩(もとぶちょう)、そして顧問の涼島先生(せんせい)。総勢9名の大所帯。


 涼島先生(せんせい)のキャンピングカーで現地に向かう。流れる背景を見ながら徐々に近づいてくる連なる山に向かって車は進む。


「そうなんですよー。謙介ったら」

 茜ののろけ話。

「お兄ちゃんと家族になるのが夢なのー」

 若葉の夢語り。


 なつみんや和奏も混じって大盛り上がりだった。みんなの話を頷きながら聞いてくれる石原先輩。ニコニコしながら聞いてくれる彩衣。話に入ろうとするが中々入れない彩恵とのろけ話をしたい茜。


 雑談を遮るように涼島先生(せんせい)が口を開いた。

椎弥(はなさき)、向こうについたら少し話があるんだがちょっといいか。原田さんも一緒に聞いてもらって良いかな」

「「「はい」」」

 僕と和奏、若葉が返事をする。


 昨年と同じ先生のセリフ、彩光高校の転校話が思い出される。

「あー、若葉さんは大丈夫だ。なーんてな、去年と同じことを言ったらビックリするかもと思ってな。俺が言いたいのは、椎弥にだ」


「なんでしょう」

 思わず前のめりになってしまう。

「誰と付き合ってても俺はとやかく言わんが、合宿中は清い交際を頼むぞ」


 思わず顔が赤くなってしまう。同じように赤くなる女性。チラリとそれを見て頷く先生。その様子から誰とどのあたりまで進んでいるか察しているようだった。相変わらず彩衣だけはニコニコしていた。


「さー到着したぞー。みんな荷物を運びこめー」

「おー!」

 なつみんと若葉は先生の掛け声にノリよく反応する。呆れたように後から荷物を抱えで突いていく石原先輩と茜。和奏は先生の運転を労い彩衣はマイペース。彩恵は後ろから付いてきた。


「それにしても先生、随分と今日はノリが良いですね」

 つい軽口をたたいてしまう。

「言うようになったな花咲。褒美に一番広い部屋を用意してやろう」

 先生は肩を組んで笑いながら話す。

「また去年と同じ1階じゃないんですか。最初からそのつもりですよね」

「流石は花咲だな。その通りだ、部屋割りは次期部長のお前に任せた。今年は女の子と一緒でもいいぞ」

 そう言い残すと背中を強くたたいてログハウスの方へと歩いていった。


 ログハウスの中は去年と何一つ変わっていない。たった2回目のこの風景が昔から知っているように懐かしい。美術部の想いが集約したように楽しい気持ちが沸き上がる。


「よーし、みんな揃ったな。今日のうちに絵を描いちゃえよ。部屋割りは花咲に頼んだからな、どんな部屋になっても恨みっこなしだ。女の子と一緒でも良いって言ってあるぞ」

 みんなの視線が一斉に集まる。なつみんからは「ふたりきりでもいいよー」という茶々が入ったり、若葉が「わたしとお姉ちゃんと一緒に寝ようよー」と言ったり野次が入る。


 僕が決断した部屋割り……

  1:石原先輩、なつみん

  2:彩衣、和奏、若葉、彩恵

  3:涼島先生(せんせい)

 僕は1階で一人で寝ることにした。


「ハッハッハ。やっぱり花咲は花咲だよな。本当に女の子と一緒の部屋にしたらどうしようかと思ったよ」

 大笑いする涼島先生(せんせい)。

「先生、その代わり布団は運んでくださいよ。逆でも良かったんですよ」

「花咲、了解した。今日の所はお前に従おう。夕食担当の割り振りは海野、お前がやれ」

 大きく手を挙げる夏美。指にはOKマークが作られている。


「夕飯は、彩衣(あいりん)と和奏(わかな)に任せたー。石原先輩(さっきー)は新入生の2人をよろしくー。わたしは椎弥(しいやん)と行ってくるね。茜(あかねん)は謙介くんのために料理を教えてもらってねー」

 挙げられている手の指がOKからピースに変わる。

「海野やるなぁ、欲望のままチーム分けするとは俺も参ったぞ」

 涼島先生(せんせい)が額をはたく。

「これはねぇ、みんなのためなのよー。絶対にみんなわたしに感謝するよー」

「まあいい、海野部長の最後の仕事だからみんな好きにさせてやれ」

 先生の指示によってみんながバラける。

「じゃあ椎弥(しいやん)行こー」

 僕の腕に手を絡めてログハウスから引っ張り出された。

「なつみんどうしたんだよ急に、最近妙にくっついてくるけど」


「いいのよ。この振り分けはみんなにとってプラスになるのよ。部長として最後の仕事だから真面目にやらないとね」

「あれ、あの夜のなつみん」

「ふふふ、ふたりきりの時くらいよいじゃない。演技をするのも疲れるのよ」

「なんで演技なんか」

「分かってるでしょ、なんで演技をするのか」


 無意識下に言葉を返した。

「彩衣に心を読まれない為……」

 



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前作までの登場人物:

藍彩高校

 2B:花咲椎弥(はなさきしいや):主人公。

 2B:中村茜(なかむらあかね) ……美術部、謙介の彼女

  (2B担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……美術部顧問。学園ドラマ好き

 1A:原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

 1A:春奈彩恵(はるなあえ)  ……若葉のクラスメート



 美術部

  3B:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が分かる。ニコニコしている。

  3B:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……2年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……2年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……2年:和奏、美陽と共に特Sクラス

   西田心夏(にしだここな) ……3年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉

   西田謙介(にしだけんすけ)  2年:藍彩高校から転校した。茜の彼氏

その他

   高野亜紀(たかのあき)  ……3年:椎弥・和奏の幼馴染。彩衣の従妹

   小鳥遊彩依(たかなしあえ)……3年:彩衣の双子の妹


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