第39話 初詣

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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[夏美] 美術部で初詣行こうよー


 こんなドコネのメッセージから始まった。もちろん美術部と言えば、和奏や謙介もセットであり美陽も同行することになっていた。


 地元から数駅離れた場所にある大きな神社。県内外を問わず多くの参拝客で賑わう神社の名物、大鳥居が待ち合わせ場所。


「久しぶりだなー、初詣なんて」

 混雑する電車に揺られる。能天気にみんなと会えることを楽しみにしていたが僕の配慮が足りなかったことに気付く。

 神社に繋がる公園駅に到着すると、彩衣は電車酔いを起こしていた。駅のベンチに座って回復を待った。


 沢山の乗客から渦巻く心が無意識に彩衣の中に入ってしまい気分が悪くなっていた。

「ごめん。僕の配慮が足りなくて……。きちんと考えれば分かる事なのに」

 ホームのベンチに横並びになって休んでいた。弱弱しい彩衣の声。

「わたしこそごめんなさい。こうなるって分かっていたけど、みんなと一緒に行きたかったの。我慢できると思ったけど駄目だったわね。わたしのことは良いからみんなの所に行ってあげて」

 ニコニコしている。顔は引きつり無理しているのが分かる。

「椎弥、私が彩衣のことをみてるから行っていいよ。このまま3人で帰るわけにはいかないでしょ」

 立ち上がった和奏はポンポンと僕の肩を叩く。


「じゃあ、せめて公園まで行こう。ここだと人の出入りが多いから気分が晴れるどころか悪くなっちゃうからね」

 座っている彩衣を背負う。多くの人の視線を浴びていたが彩衣の体調を早く良くしてあげたい一心で公園駅から300メートル程離れた神社公園内の池のほとりにある東屋まで運んだ。

「ありがとう椎弥。だいぶ楽になったわ。良くなったら和奏と追いかけるから先に言ってちょうだい」

 後ろ髪を引かれる。彩衣と和奏の傍にいたい心が神社に向かう心を止める。


「椎弥、私たちは本心で話す約束よ。彩衣がそう言ってるんだから行ってあげなさい。ここで迷ってる方が彩衣にとって心の負担が大きいと思うわ」

 バックから2本の『つぶつぶオレンジジュース』を取り出してふたりに渡す。

「じゃあこれ置いていくね。少しは気分が良くなると思うんだ」

「椎弥、こんな寒空の中に冷たいジュース? ……でもなんか嬉しいから良いわ」

「ふふふ、心が温かくなりますね」


 僕は近くの売店に行って温かいココアを買ってふたりに渡し、みんなの待つ大鳥居に向かった。

「椎弥(しいやー)、謙介君と茜ちゃんの仲をお祝いして上げるのよー」


 公園に散らばる枯れ葉を踏みしめると乾いた音が耳に入る。葉の乾き具合、形など違った音が幾重にも秋の音楽を奏でる。

 喧騒をバックに自然の音を感じながら池沿いを走る。神社へと分岐する道沿いの売店を横目に庭園方面へと向かう。庭園を越えると神社は直ぐの場所。


 多くの人で賑わい、出店(でみせ)が軒を連ねて設営されている。お好み焼きに焼きそば、たこ焼きなど定番のお店が多く、牛串やポテト、じゃがバターに焼き鳥……美味しそうな匂いが折り重なって鼻を刺激する。最近はめっきり見なくなった金魚すくいに集まる子供たちに懐かしさを覚えた。


「椎弥、椎弥」

 池に囲われた庭園に繋がる橋の先、扉の方から声をかけられた。呼ばれるまま庭園の中へと向かう。多くの人で賑わう神社や公園と違って、人の気配はまったく無かった。

 庭園を奥へ奥へと進む女性。同年代くらいだろうか知らない女の子だった。

「こっちよ~」と声をかけられ、言われるがまま後をついていく。彼女は庭園が見渡せる小高い場所に立てられた東屋に座った。

 

「君は一体誰? 僕のことを知ってる君は?」


 ニコリと笑う女性。少し悲しそうな顔をしている。

「忘れちゃった? 寂しいなぁ、あれだけ一緒に遊んだのに……。でも仕方がないわよね。亜紀よ、高野(たかの)亜紀(あき)」

 慌てて向かいの椅子に座って顔をジロジロとみてしまう。いくら見ても思い出せない。流石に幼少期の亜紀の顔までは覚えていない。

「僕が良く分かったね。亜紀のことは、名前と遊んだことしか覚えていないよ」


 信じられない。どこかで偶然会っても僕は亜紀に気づかないだろう。ピンポイントに僕を見つけて……まるでここを通ることを知っていたような行動。

「疑うのは分かるわ。わたしは頼まれたの。椎弥に伝えて欲しいって。まだ彩衣や椎弥、和奏の前に姿を現すことはできないって」

 人差し指を目の前にだして話す亜紀、立ち上がると僕の鼻をちょんとつつく。

「頼まれた? 彩衣や和奏、僕のことを知る人ってことだよね?」

 亜紀のつついた指を掴んで立ち上がった。

「ふふふ、どうかしらね。でもね、君が分かるように言うと彩依(あえ)にね。彩依は元気だよって椎弥に伝えて欲しいって頼まれたのよ」

 掴んだ指を更に引っ張る。思わず亜紀の指を強く握りしめていた。苦痛の声を上げる亜紀に気付いて慌てて指を離す。


「ごめん、つい興奮しちゃって……。亜紀は彩依のことを知ってるんだね。彩依は、彩衣の妹はどこに居るんだ」

 亜紀は振り返ると庭園の出口に向かって歩みだす。

「それはね、言えないの。彼女は彼女なりの考えがあるみたいだから。でもね、いつかきっと君たちの前に姿を現すと思うの。その時は、優しくしてあげてね。椎弥たちの前に出たい心を必死に抑えているの」

 亜紀は走り出した。慌てて追いかけるが、人混みの中に消えた亜紀を探す事は出来なかった。


 スマートフォンを取り出して時間を見ると11時30分。待ち合わせの時間を30分程過ぎていた。 


 * * *


 待ち合わせ場所の大鳥居に到着するとみんなが待ってくれていた。

「椎弥、大丈夫か? 何があったんだよ。連絡つかないから、茜に和奏さんに連絡をとってもらったら随分前にこっちに向かったって言ってたぞ」

「ごめん、来る途中で昔の知り合いに会っちゃって……。つい話し込んじゃった」

 深々とお辞儀をする。

「まぁーまぁー無事で良かったじゃない。椎弥(しいやん)、気にしないでお参りに行こー」

 力いっぱい右手を上げて笑顔になる夏美。

「お姉ちゃん、お参りで謙介くんと茜さんの幸せを願うんでしょ」

 

「そうよ、椎弥(しいやん)とわたしの幸せもねー」

「ちょっと椎弥、夏美先輩といつのまにそんな仲になったんだよ」

 肩を組んでくる謙介。

「そんな訳ないだろ。からかわれているだけだよ」

 必死に弁解する。


 お参りを済ませ、おみくじを引いて一足先に和奏と彩衣の元に戻った。体調が落ち着いた彩衣、そして和奏を連れて庭園で亜紀と会ったことを話した。


「亜紀の言う通り、いつか彩依が僕たちの前に現れる気がする」

 僕はそんな予感があった。

「そうね、彩衣と双子なくらいだから似てるのかなぁ」

 和奏が彩衣の頬を撫でて顔の造形を確かめる。

「もし会えたら渡したいわ、このネックレス」

 バックの中から取り出すイチョウの葉を模したハートのネックレス。


 彩依は一体何を考えて亜紀に伝言を託したのだろう、なぜ彩依は僕たちの前に姿を現さないのだろうか分からなかった。



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前作までの登場人物:

藍彩高校

 1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。

   中村茜(なかむらあかね) ……美術部、謙介と付き合う

   西田謙介(にしだけんすけ)  ……彩光高校へ転校する。茜と付き合う

 (担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き


 美術部

  2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い

  2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女

   西田心夏(にしだここな) ……2年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉

その他

   原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

   高野亜紀(たかのあき)  ……2年:椎弥・和奏の幼馴染。彩衣の従妹

   小鳥遊彩依(たかなしあえ)……2年:彩衣の双子の妹


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