第38話 唐揚げサンド

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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「椎弥! 何人お嫁さんをもらっても良いけど、それならちゃんと結果を残しなさい」

 母親が軽くテーブルを叩いた。

「結果? 結果ってどういうこと?」

「あのね。分からないと思ってたの? あれだけ勉強しているのに学校の成績が悪い訳ないでしょ。中学校の時に嫌な思いをしたのは分かる。でもね、お嫁さんを養うなら学校でキチンと結果を残しなさい。自分で将来の選択肢を縮めないこと。どうすればお嫁さんを守れるかキチンと考えなさい。ねぇ和奏ちゃん」


 いきなり母親が和奏を見つめる。真っ赤になる和奏。

「おばさん……。そんな……。わ、わたしも稼げば……」

 和奏は顔を真っ赤にしたままうつむいてしまう。

「分かったよ母さん。そうだよね。いつまでも中学校のことを引きづってたらダメだよね」

 思わず拳に力が入り、胸の前で握りしめていた。

「まあ、その位の覚悟でいろってことね。ダメだった時はお父さんに稼いでもらうから大丈夫。この後どうするかはみんなで決めるのよ。困ったときは言いいなさい、見捨てたりはしないから」


「ありがとう母さん」

 深々とお辞儀をする。つられるように和奏もお辞儀をしていた。

 


 * * *


「そんなことがあったんですか」

 驚く彩衣。和奏とふたりでそのまま彩衣の家に来て説明していた。

「話を聞いて思い出したことある?」

 一生懸命記憶を探る彩衣。


 和奏がテーブルに両肘をついて顔を乗せる。

「でも椎弥凄いじゃない。彩依ちゃんの分もネックレスを買うなんてさ。椎弥の脳のどこかに彩依ちゃんのことが眠ってるのかもしれないわね」

 

 右肘をテーブルに置き拳の上に顎を乗せる。

「そうだよな。あの時物凄い情報が頭に入ってきた感覚があったよ。残った記憶は4人分揃えた方が良いと思ったことだけ」

 腕組みをして中空を見つめる。

「受け取った彩衣も喜んでいたから、記憶のどこかには彩依ちゃんのことがあるのかもしれないわね」

 色々考える彩衣。何も思いつかなかったのかニコニコしている。

「思い出せません。でも私は双子の姉という事実は間違いないんでしょうね。それに姉妹のように育ったという亜紀さんという方のことも……」


 立ち上がって伸びをする。

「彩衣。僕、彩衣のクッキーが食べたいな。なんかいろんなことがあって疲れちゃった。とりあえず今は一歩も二歩も前に進めたってことで今日はここまでにしよう」

 立ち上がる和奏。そのまま彩衣を立たせる。

「彩衣、一緒にお昼ご飯を作りましょう」

 彩衣の腕を掴んでキッチンへと引っ張る和奏。少し驚くような顔をする彩衣。


「わたし、思い出したことがあるの。虐待されていたときのこと……。いつも頭を叩かれてたわ……少しでも痛みを和らげようと髪の毛をクッションにすることを学んだ。そして、顔色をうかがうようになって……考えてることが分かったらいいなぁって思ったこと、ニコニコしていれば叩かれる回数が減ったからニコニコするようになったこと……」


「そんなことがあったんだ」

 彩衣を力強く抱きしめる和奏。

「そうか……。今の彩衣はその時の影響を受けているのかもしれないね。そう考えると、考えることが分かったらいいなぁってところが、心が分かる能力のキッカケになるのかもしれないね」

 腕を組んで考える。このキッカケ……常識では考えられない能力が想いだけで成しえるとは考えられない。神の力なのか……でも神か……

 そんな常識はずれなことを考えた自分に呆れ、それでもその考えが捨てきれない自分に腹が立っていた。


「椎弥、そんなに考えないで。わたしは幸せよ。わたしのために考えてくれる椎弥と和奏がいる。気持ち悪いと蔑まれてきた私の人生を豊かにしてくれたんだもの」


 上体を倒して天井を見上げる。フワフワと流れる煙によっていい匂いが運ばれる。僕は思い立って立ち上がった。


「ちょっと出てくる。直ぐに戻って来るね」

 向かった先は潰れた駄菓子屋の前にある自販機。そこで『つぶつぶオレンジジュース』を4本買って戻った。


 家に着くと丁度食事が出来上がっていた。

「椎弥、どこに行ってきたの?」

 手に持った4本のつぶつぶオレンジジュースの缶を見せる。そしてそれぞれのテーブルの縁に1本ずつ置いた。

「折角だからみんなで飲もうと思ってね。彩依ちゃんが今、どこで何をしているか分からないけど、もし会えた時にこの味を知って欲しくってね」


 テーブルの中央にでかでかとしたお皿に盛られたサンドイッチ。ハムチーズやたまごサンドなど色とりどりで美味しそう。その中に唐揚げが挟まったものがあった。

「それね、和奏が椎弥は唐揚げが大好きだからってサンドイッチにしてみたのよ」

 唐揚げサンドを手に取って一口かぶりつく。

「うまい! 唐揚げの中から湧き出る肉汁。この衣の味付け……絶品だ。流石に彩衣だね」

「ふふふ、その唐揚げは和奏が作ったのよ。家で教えてもらってきたんだって。わたしはそれをパンに合うようにキャベツと味付けで調整をしただけよ」


「和奏、凄いじゃないか。おばさんの唐揚げも美味しいけどこれもすごくおいしいよ。今度作り方教えてよ」


「だめよ」

 腰に手を置いて顔を前に突き出して答える和奏。

「ふふふ、和奏はね、椎弥が好きな物を作ってあげたいのよ。教えちゃったら自分で作れちゃうでしょ。食べたい時にお願いされたいのよ」

 プイっとする和奏。頬を膨らませている。

「まったく彩衣ったらバラしちゃうんだから。……だって、彩衣にはクッキーっていうリクエストされるものがあるけど私にはないからね」

 頬を赤くする和奏。そんな和奏の手を引いてテーブルに座らせた。

「和奏、ありがとうな。食べたくなったら遠慮なく言わせてもらうよ」


「さあ、お昼ご飯にしましょう」


 玉子サンドやハムチーズも何故こんなにおいしく作れるのか不思議なほど。これもまた是非食べたい……けど、口に出しては言えなかった。そんな僕を見て彩衣はクスリとしていた。



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前作までの登場人物:

藍彩高校

 1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。

   中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好きだったが諦めた。

   西田謙介(にしだけんすけ)  ……サッカー部、モテる。中村が好き。

 (担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き


 美術部

  2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い

  2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女

   西田心夏(にしだここな) ……2年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉

   茂木源太(もぎげんた)……3年:野球部元キャプテン。椎弥と野球対決した。

その他

   原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

   高野亜紀(たかのあき)  ……2年:椎弥・和奏の幼馴染。彩衣の従妹

   小鳥遊彩依(たかなしあえ)……2年:彩衣の双子の妹


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