第37話 語られる過去
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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家に帰るとリビングで母親が待っていた。
「おかえり、ちょっとそこに座りなさい」
言われるがままこたつに足を入れて座る。
「どうしたんだい急に呼び出したりして」
「椎弥。あのね、男の子なんだから誰と交友を持とうが口出しはしないけど言っておきたいことがあってね」
難しそうな顔をする母親。腕組みをして言いにくそうにしている。
「珍しいね、母さんがそんな言い方するなんて」
「あのね。椎弥は小鳥遊さんの所に和奏ちゃんと良く出入りしてるでしょ」
「うん。さっきまで一緒にいたよ」
「わたしはね椎弥が自分で決めた人なら誰でも連れてきて良いと思ってる。だから小鳥遊さんの娘さんと付き合うのは構わない。でもね、彼女のことを知っていて欲しいの」
両手を強くテーブルに叩きつけて立ち膝になる。
「母さんは彩衣……小鳥遊のことを知ってるの?」
──ピンポーン
インターホンが鳴らされ、リビングに和奏が入ってくる。
「お邪魔しまーす。お母さんに椎弥の家に行けって言われてきました」
「いらっしゃい和奏ちゃん。椎弥と一緒に小鳥遊さんのことを聞いて欲しいの」
こたつに入るように促される和奏。
「おばさん、彩衣のことを知ってるんですか?」
和奏がこたつに入ったのを確認すると、両前腕をテーブルに置いて母は語り始めた。
「ふたりとも、亜紀ちゃんって覚えてる? 神社の近くに住んでた」
「もちろん覚えてるよ。確か小学校前に転校しちゃったんだよね」
「そうそう。椎弥と良く遊びに行ったよね」
「亜紀ちゃんと小鳥遊さんの家は親戚なのよ。お隣さんでしょ」
「「えーーー。 ……確かに敷地が隣り合ってる!」」
和奏と共に両手をテーブルについて声をあげてしまった。
腕組みをした母は静かに語る。
「
小鳥遊さんのお父さんと高野さん(亜紀ちゃんち)のお母さんは兄妹なの。同じ日に小鳥遊さんは彩衣(あい)、彩依(あえ)という双子が、高野家は亜紀(あき)ちゃんが生まれたの。
ふふふ。お互いに2人のお父さんとお母さんがいるようだったわ~。
でもね、小鳥遊家の母親は子供が4歳の時に病気で亡くなってしまったの。ショックから小鳥遊さんのお父さんは浴びるようにお酒を飲むようになったわ。それに酒癖が悪くてね~。
そうすると小鳥遊さんは子供を殴るようになり、なんとか高野さんが止めようといろいろ手を尽くしたんだけどダメでね。和奏ちゃんのママと私たちも止めに入ったけど『他人が口に出す問題じゃねぇ』って一蹴されてたわ。
そんな生活がしばらく続くと高野さんの夫婦関係が悪くなって離婚しちゃったのよ。元々、小鳥遊家の分地だったから高野さんのお父さんが出て行ったわけね。
そんなことがあって、見かねた亜紀ちゃんのお母さんが、彩衣ちゃんと彩依ちゃんを自分の子供にして亜紀ちゃんと3つ子として育てようと小鳥遊さんに交渉したの。一人なら連れてっていいぞと言われたみたい。せめて一人だけでもと思ったんでしょうね。彩依ちゃんだけ連れてどこかに引っ越していったわ。
その時のことは覚えてるわ。必死でお母さん置いていかないでって彩衣ちゃんがね……
」
「「そんなことが……」」
「ちょっと待っててね。お茶を入れるから。その後に続きを話しましょう」
キッチンに歩いていく母親。
「椎弥。彩衣は確かに虐待を受けていたって言ったわよね」
和奏の方を見ると右上の中空を見つめていた。その表情はとても真剣だった。
「確かにね……。夢の内容とも一致する」
和奏の見つめる先を見つめる。なんとなく僕の記憶と和奏の記憶を合わせるように夢の出来事を思い返した。
しかし出てきたのは疑問ばかりだった。
「亜紀ちゃん、それに彩衣の双子の彩依ちゃん。一体どこにいるんだろう」
キッチンから戻って来る母親。
「母さん、亜紀ちゃんと彩衣の双子という彩依ちゃんはどこに行ったのか分からないの?」
持ってきたお菓子を中央に置き、お茶を僕と和奏に置く。
「そうね。分からないのよ。そういう風にするとしか聞いてなかったから。
そういえば、彩衣ちゃんが頭をお団子にしたのはその頃だったわね。『これだったら叩かれても痛くないのー』って。必死に我慢して。
それからしばらく経ったある日に事件が起きたのよ」
「事件?」
思わず立ち上がってしまう。
「
そう、1日だけ彩衣ちゃんが行方不明になったの。次の日、大銀杏の前で倒れてたんだけどいくら呼びかけても反応がないからみんな死んだと思ったわ。諦めかけていたその時だった、大銀杏から大きな枝が落下したのは……その枝が小鳥遊さんのお父さんに直撃して亡くなってしまったのよ。その後直ぐに彩衣ちゃんが目覚めたのよ。
その後はおばあちゃんに引き取られたって聞いたけど、戻ってきたってことはおばあちゃんに何かあったのかもしれないわね
」
「ねえ母さん。彩衣と僕たちは会ったことあるの?」
「ええ。良くふたりが言ってたわよ。大銀杏の前で女の子が泣いてたって、なぐさめてやったんだって。そういえば、和奏ちゃんがね『大好きなつぶつぶオレンジジュースあげたんだ。冷たい飲み物なのに温かいって言うんだよー』って、『きっと心が温かくなったのね』って言ってもあの時は理解できなかったけど」
クスリと笑う母。
「そんなことが……。確かに今聞くと理解できますね」
「
あとね、こんなこと椎弥と和奏ちゃんが言ってたわ。
『いつまでも3人一緒にいるんだ。3人で結婚するんだ』ってね。
そんな話をすると『彩衣ちゃんがね、妹の彩依も一緒が良いなぁ』って言うんだって。ふふふ。それで椎弥が言うのよ『僕が大きくなったら3人とも面倒みてやる! 3人とも僕のお嫁さんだ』って
」
「ちょっと母さん、そんなこと全然覚えてないよー」
「そうね、言われて思ったけどあれだけ言ってたのに彩衣ちゃんが行方不明になった辺りから全く言わなくなったわね。それとね、思い出したけどひとつだけ不思議なことがあるのよ」
「おばさん、何かあったんですか?」
「亜紀ちゃんのママが彩依ちゃんを連れて行く前に、彩依ちゃんと話したことがあるの。その時にね『お父さんに木が落ちて死んじゃうよ』って言われたの。その時は夢でもみたのかなーって思ったけど、本当にその通りになったのよ」
お茶を一口飲む。既に冷めている。
「椎弥、私も全然覚えていないわ。小さな女の子がいたことは微かに覚えてるけど」
「そうだな。そんなことがあったら覚えていても良さそうなものだけど……。でも彩衣は『つぶつぶオレンジジュース』のことは覚えていたんだね」
「でも椎弥もやるわね。和奏ちゃんと彩衣ちゃんとも付き合って。私は良いわよ! 今の世の中、そんな愛の形があっても母さん良いと思うの。応援するわね」
もう少しだけ話は続く……
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好きだったが諦めた。
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。中村が好き。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。
篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女
西田心夏(にしだここな) ……2年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉
茂木源太(もぎげんた)……3年:野球部元キャプテン。椎弥と野球対決した。
その他
原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う
高野亜紀(たかのあき) ……2年:椎弥・和奏の幼馴染。彩衣の従妹
小鳥遊彩依(たかなしあえ)……2年:彩衣の双子の妹
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