第34話 弟想いの姉
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「謙介もバカねぇ。身体だけじゃなくて頭もしっかり鍛えないとダメよ」
扉から入ってきたのは心夏(こな)、謙介の姉だった。
「ねえちゃん。どうしたんだよ急に」
「どうしたもこうしたも、謙介が連れてきた友達の話し、和奏ちゃんや美陽ちゃん、夏美の言動を見れば一目瞭然じゃない。こんな所をライバルの夏美に見せたくなかったわ」
心夏は悲しみの表情に打ちひしがれるも、謙介に歩み寄って頭をペシリと叩く。
「心夏さん、どういうことですか」
茜が手の平を口元に当てる。
「いい。椎弥くんはね、野球の腕は一流。頭も一流よ。下手したら私も勉強は敵わないかもしれないわね」
「え、だって姉ちゃんは2年の特Sだろ。和奏さんや美陽さんも特Sって言ってたけど」
声が徐々に大きくなっていく謙介。
「謙介、あんたはちょっと黙って。そこの君、ここまで話を聞いてどう思うかな?」
心夏に話をフラれる恭二(きょうじ)、急な出来事にアタフタしている。
「え、あ。口でだけならなんとでも言える。和奏も椎弥も噂の後に成績が落ちたことを認めたじゃないか。野球だって裏で何をしたんだか……」
掌底を額につけて呆れる心夏。
「まだ分かんないのね。ほら、和奏ちゃん。もう言っちゃいなさいよ。話は終わらないし、いつまでもこんな茶番を続けることも無いわ」
「うーん。心夏先輩……。いや、先輩が言うなら信じるわ。恭二(たかばやし)くん。わたしね、彩光高校で学年1位になったの……」
「ああ、和奏は昔から頑張り屋だしカンニングするような椎弥とは比べ物にならない程できるからな」
恭二は目の前に作られたガッツポーズに力が入る。
「実はね、椎弥に勉強を教えてもらっているの。それからよ、学年1位をとれるようになったのは」
一気に青くなる恭二。ワナワナと震えている。
「あのね恭二(たかばやし)くん。あなたたちがね椎弥の悪い噂を広めたでしょ。それは怒ってないの。嫉妬が大きくなって仲間内で調子に乗っちゃったんでしょう。でもね、それが広がってしまった時にちゃんと謝らなかったのは良くないわね」
力強く握られた拳を振り払う、強く踏み込んだ足音が恭二の心を現してるように大きく響いた。
「和奏。君は椎弥に騙されているんだ。小学1年生から見てきたんだぞ」
「そうね。確かに小1から付き合いがあったわね。でもね、私、椎弥とは生まれた時からの付き合いなのよ」
ガックリくる恭二、墓穴を掘るように話を続ける。
「そうだ、野球……、野球だってきっと何か裏があるんだ!」
怒りに震える謙介。恭二に掴みかかる。
「お前、一生懸命練習してレギュラーになったんだろ。努力したんだろ。じゃあ分かるよな。結果を出すことがどれほど大変なことか。椎弥はな彩光高校の1軍野球部に投げ勝ってるんだよ。俺が彩光高校に転校できるのもあいつのおかげなんだよ。お前の言葉は薄っぺらいんだよ」
胸倉を掴んだまま怒りに震える謙介。謙介の手を叩いて恭二から離す心夏。
「謙介! あんたはね表面ばっかり見てすぐに影響されるんだから! 椎弥くんもいつまでも落ち込んでないでいい加減に顔を上げてみんなにお礼を言いなさい。恭二(きみ)は今日の所は帰りなさい。謙介の転校祝いをしてくれてありがとうね」
うつむいたまま部屋を出ていく恭二。僕は立ちあがってみんなを見回した。
「みんなゴメン。学力を隠していたこと、野球のことも知られるまで隠していたことを」
「椎弥。知らなかったのは俺と中村さんだけか……俺は全然気にしてないぞ。前に言ったろ、人には言いたくないことがあるって。本心をさらけだすなんて中々出来ない事だからな」
僕の肩を力強く叩いて握りしめる。そんな状況を見た茜が声をあげた。
「私は納得できないわ。じゃあこれまでの試験の勉強会はなんだったのよ。一生懸命教えていたのに心の中では笑っていたってわけ?」
うずくまる茜。小刻みに体が震えている。心夏が茜の元に近寄って立たせた。
「いい。君の気持ちは分かるわ。騙されたって思うわけね。君が椎弥くんにどんな理想像を重ねていたのか知らないけど、騙されてたんじゃなくて隠されていただけ。それを告白するほどに心の距離が近くなってないのよ。美陽ちゃんや夏美は椎弥くんの事に気付いたわ。それほど彼をちゃんと見てたってわけ。自分を曝け出さないで人のことだけ知ろうなんて虫がよすぎるわ」
うつむく茜。トレードマークのポニーテールが首でふたつに分かれて垂れる。何もしゃべれない。何も言い返せないのかその場で立ち尽くすのみだった。
茜に謝ろうと近寄る僕を止めて静かに首を振る心夏。そのまま茜は部屋を飛び出した。
追いかけようとする僕を抑え、心夏は謙介に顎で行けと合図した。
「謙介、ちゃんと慰めてやるんだよ。今日は帰ってこなくてもいいからな」
静まり返る室内。最初に声を発したのは彩衣だった。
「お姉さん。謙介くんのこと大切なんですね」
「君が心が分かる女の子か。怖いねぇ……心なんて読まれちゃったら何も考えられないじゃないか」
「ふふふ、私が分かるのはなんとなくですよ。お姉さんが謙介くんのためにわざとあんな伝え方をしたのかなくらいです。椎弥はきっとそれに利用されたんですね」
心夏は大きな声で笑った。
「すごいね君。椎弥くん、君の周りには凄い人が集まってるよ。さすが類は友を呼ぶか……。落ち込んでばかりいられないぞ。周りの人を恩返ししてあげないとな」
委縮していた心が広がっていく……。灰色に見えていた周りの景色に明かりが灯る。
「はい。本当に僕は周りの人に助けられてばかりで。感謝しかありません」
真っ直ぐ目を見て答えた。
「それにな、そう思ってるのは君だけじゃないんだよ。周りを見てみな」
和奏、彩衣、美陽、夏美。みんないい顔をしていた。
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好きだったが諦めた。
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。中村が好き。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、可愛らしい、元陸上部。
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。
篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女
西田心夏(にしだここな) ……2年:夏美の中学時代のライバル。謙介の姉
茂木源太(もぎげんた)……3年:野球部元キャプテン。椎弥と野球対決した。
その他
原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う
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