第33話 クリスマスパーティー

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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「すごいね健介くんの家」

 中村が声をあげた。藍彩高校がある街の郊外。広い庭、大きな家。航空写真でも大きいと思ったが目前にすると驚嘆する。

 門扉にあるインターホンを押すと母親が歓迎してくれた。建物に向かって歩いていると謙介が中から走って出てくる。

「いらっしゃいっす。わざわざ家に来てくれて申し訳ないっす。椎弥のメッセージで姉さんが家にしなさいって」


 奥からひとりの女性が出てくる。軽く着飾ったミディアムボブの女性。

「いらっしゃい。謙介の姉、心夏(こな)よ。それに久しぶりの顔まであわね」

 夏美が一歩前に出ると大きく右手を挙げた。

「心夏(こなりん)。ひさしぶりだねー」

 一瞬後ずさり無表情になる心夏。

「なによその呼び方は、それにそのしゃべり方は。藍彩高校になんか行って。美陽(みはる)さんもなんとか言ってあげなさい」

「心夏先輩。夏美(おねーちゃん)は昔から意味があって行動するから何かあるんだと思います」

 美陽は目前の先輩に緊張しているのか大きな手ぶりで答える。


「花咲椎弥ですよろしくお願いします。心夏さんは彩光高校の陸上部ですか?。美陽の先輩で、夏美先輩と中学時代のライバルっぽい口ぶりですが」


「そうよ。私たちはいつも小中学校で全国大会の切符を賭けて争ってたわ。彩光高校でよきライバルとして競り合えると思ってたの」

 和奏の方をチラリと見てしまう。同じような台詞を昔聞いたことをふと思い出した。

「心夏姉さん、こんなところで足を止めさせちゃあ悪いだろ。友達も待たせてるんだし」

「そうね。謙介の言う通りね。花咲くん。今度ゆっくり話を聞かせてもらいたいわ」

 心夏は奥の部屋へと消えていった。謙介を先頭に部屋に案内された。長い廊下、いくつもの部屋が並び金持ち感満載の家である。


「すまんな椎弥。姉さんに野球のこと話しちまった。どうやら彩光高校ではお前の名前は伏せられてるんだな」

「そうよ謙介くん。彩光高校で花咲くんがやったことは知られているけど、名前を知っているのは、野球部と特Sくらいね」

 人差し指を立てて指先を前後に振って説明する美陽。

「美陽の先輩だもんね心夏先輩。本当なら部で一番の実力者だけどまとめるのが苦手だからって部長を断ったのよね」

「うちはスポーツ一家だからな。その上にもう一人姉さんがいるけどやっぱりスポーツをやってるよ」

 案内された部屋に到着する。立食なら20名程度でパーティーができそうな広さ。

 ドアを開けると謙介の友人がこちらに気づき、歩みながら挨拶する。

「はじめまして、謙介の友人で高林(たかばやし)恭二(きょうじ) と言います。あれ、そこのいるのは和奏。それに……椎弥」

 鼓動が早くなる手が小刻みに震える。回りのことが考えられなくなる。そんなことはお構い無しに和奏に近づいて肩に手を乗せる。

「恭二お前、和奏さんと椎弥を知っているのか。って、そういえばお前も南中学校か」

「ああ、ふたりともよーく知ってるよ。小学校時代からな」

 高林の強い視線を感じる。頭が働かず体も動かない。


「ほら椎弥、座ろう」

 高林の手を振りほどく和奏。僕の手を握り引かれるまま椅子に座らされる。

 和奏が動いたのを皮切りに、面々は続くように部屋の奥へと入っていく。部屋の広さや内装に感嘆の声が上がっていたが僕の耳には入らなかった。


 和奏は僕の隣に彩衣を座らせるとその反対側に座った。

「和奏(わかなん)ずるいよー。私も椎弥(しいやん)の隣に座りたいよー」

「夏美(おねーちゃん)落ち着いて。和奏、私も後で変わってもらうからね」


「全く、美術部のクリスマス会と謙介のお祝いでしょ全く」

 腕を組んで頬を膨らませている茜。一人ドア前に残された高林を尻目に盛り上がり始めた。


「椎弥、落ちぶれたな。野球に勉強にトップを走っていたお前が藍彩高校とは。やっぱり好成績はカンニングだったようだな」

「恭二、一体どうしたんだよ。いきなりそんなことを言うなんて」

 慌てて謙介が止めに入る。

「謙介、俺は和奏を助けたいんだ。椎弥は中2の夏休みまでずっと成績がトップだったんだ。和奏より上だったと言えば分かり易いだろう。噂はあったんだ……その成績はカンニングだったとな。それが広まった途端にアイツの成績は下がった。それに今は藍彩高校だろ。ずっと和奏をだましているんだ。俺の元に来い和奏」

 大きなジェスチャーを交えて必死に説明する恭二。


 驚いているのは茜と謙介だけだった。

「椎弥……確かにお前の成績は俺とどっこいどっこいだもんな。なあ和奏さん、恭二の話は本当なのか」


 人差し指を顎に当てて和奏が答える。

「確かに、言っていることは正しいわね。椎弥は中2の夏休み後から一気に成績が下がったものね」

 力強く右拳を振り下ろす高林。そのまま力説する。

「ほら見ろ、やっぱりカンニングじゃないか。和奏が言うんだから間違いないだろう。俺は和奏に釣り合う男になろうと必死に勉強して上加茂(うえかも)高校に入ったんだ。それに野球だって謙介の行く彩光高校には及ばないが1年生で正選手(レギュラー)になったんだ」


「椎弥、恭二の話は本当なのか。お前の口から聞かせてくれ」

 頭の中は真っ白。聞こえていたのは、中2の夏休み後から成績が落ちた。恭二が野球を頑張っていたというポイントしか頭の中に入って無かった。

 抑圧された心が弱弱しい言葉となって表出する。

「ああ。確かに僕は中2の夏休みの後に成績が落ちた。それに恭二が一生懸命野球に打ち込んでいたのも知ってるよ」


 彩衣はニコニコ、和奏は恭二に呆れている。美陽と夏美も僕が学力を隠していることを知っている。知らないのは茜と謙介。


「じゃあ椎弥くん…… カンニングしたのも……」

 茜が両手を上下させながら強い口調で問いただす。長いポニーテールも言葉にハモるように上下に揺れる。

「なんとか言ったらどうなんだ」

 謙介も茜と同様、強い口調だった。


 その間に割って入る夏美。

「はーい。茶番はそこまでねー。椎弥(しいやん)、本当のこと言って良い? 和奏(わかなん)も彩衣(あいりん)も美陽(みはるん)だって分かってるよ」

 

「そうよ。お姉ちゃんの言う通りよ。そこの恭二(おとこ)、あんた大したことないわね。人を見る目が無さ過ぎよ。椎弥もいい加減にそんなトラウマ忘れちゃいなさい。せっかくなら私が忘れさせてあげても良いわよ」

 夏美に腕を絡ませる美陽。

「美陽(みはるん)ずるいぞ、さりげなさすぎるぞ!」

 絡まれ腕をほどき、叩く真似をする夏美。


 謙介と茜の周りにはハテナが飛び回っていた。恭二はいきなり話を持って行かれて呆気にとらわれている。


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前作までの登場人物:

藍彩高校

 1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。

   中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好き。

   西田謙介(にしだけんすけ)  ……サッカー部、モテる。中村が好き。

 (担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き


 美術部

  2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い

  2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、言動が男を勘違いさせる。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女

その他

   原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

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