第32話 クリスマス会をやります!
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「ふぅ」
ひとり屋上でお弁当を食べていた。
目立たない僕が可愛らしい包みのお弁当を教室で開くことに抵抗を感じる。バレても良いが、彩衣に迷惑をかけるんじゃないかという心があった。
12月の寒空、冬の寒さが身に染みる。グラウンドや屋外に人影はなく、学校にいるのは自分ひとりではないかという錯覚に陥るほど静か。
自販機で買ったお茶が体を温め、彩衣のお弁当が心を温めてくれた。
大の字になって空を見上げるとうろこ雲が広がっている。ゆったりと動く雲を眺めていると、彩光高校野球部との試合が思い出される。
広がる青空、壮大な空の景色を眺めていると、ちっぽけな地球を包み込む巨大な世界を感じる。
僕の悩みは広い宇宙に比べたらちっぽけなのかもしれない。それでも僕にとっては重要な問題……夢に現れる彩衣。子供のころの彩衣、きっと不思議な力で僕や和奏とつながっているのだろう。
「どうだ美術部は……」
人が屋上に来たことを全く気付いていなかった。そのまま僕の隣に腰を下ろす。そこには遠くを見つめる石原先輩(ぶちょう)がいた。
「石原先輩(ぶちょう)……」
慌てて上体を起こして石原先輩の横顔を見つめる。
「ははは。もう部長じゃないだろ。何ひとりで黄昏てるんだ椎弥は」
「ちょっと一人でお弁当食べてただけですよ」
「恥ずかしくて屋上で食べてたのか。誰が作ってくれたんだ」
石原先輩に肘でズンズンと押される。目線を地面にゆっくりと落とし力強く答えた。
「彩衣ですよ。小鳥遊彩衣」
「いい顔だな。そこまでハッキリ言われるとは思わなかったけどな」
「言えるのは石原先輩(ぶちょう)だからですよ。クラスでだったら言えません」
寄りかかるように両手を地につけて空を見上げる。
「夏美の本当の顔を見たか」
唐突な石原先輩の言葉に素早く石原先輩を見つめる。僕の挙動を気にすることなく話を続ける石原。
「やっぱり見たのか。あいつはな、小鳥遊のことを昔から妙に気にしてたんだよ。いつからか本心を隠すように今の夏美になった」
「…………」
「小鳥遊から心を読まれないように演技しているんじゃないかと思ったよ」
「分かる気がします。何も考えていないような言動をすれば表面上は本心を隠せますからね」
「まあがんばれ。椎弥も思うところがあるだろう」
石原は立ち上がると僕の肩をポンポン叩いて校内に戻って行った。手を振る後ろ姿が寂しげだった。
* * *
「美術部でクリスマス会をやります!」
唐突になつみんが右手を挙げて声高に宣言した。その手には気合がこもった人差し指が伸びている。全員の視線がかざされた指に集中する。
「夏美先輩(ぶちょう)、唐突ですね。急にどうしたんですか」
「茜(あかねん)、やっぱり美術部の親睦を深めないとね。椎弥(しいやん)は和奏(わかなん)と謙介くんを連れてくること。彩衣(あいりん)も参加すること、美陽(みはるん)も参加するって」
「え、謙介も連れてくるんですか?」
夏美は挙げた手を振り下ろし僕に向ける。
「そうよ、謙介くんの転校パーティーも兼ねているからね。美術部と和奏(わかなん)、美陽(みはるん)が送り出したものじゃない……」
僕の傍によると右肩をポンポンと叩いて乗せる夏美。
「そうですね……じゃあ、連絡してみます。いつですか?」
「2学期の終業式の日かな。クリスマスだと予定がある人もいるかもしれないからねー」
スマートフォンを取り出してドコネを使って謙介にメッセージを送る。
[椎弥] 終業式の日、クリスマスパーティを美術部で開催するけど一緒にどうかな。謙介の彩光高校転校祝いも兼ねているみたい。
[謙介] 茜さんも来るんだろ! 是非行きたいところだけど友達とつるむ約束してたんだ。
[椎弥] ちょっと待ってて
「なつみん、謙介が友達と約束があるっていうけどどうする?」
「いいじゃんいいじゃん、そいつも誘っちゃいなよ。謙介くんの友達ならきっといいやつだ」
「分かりましたー」
[椎弥] 夏美先輩がその友達も誘っちゃえってさ。
[謙介] おっけー。俺の好きな人が参加するから付き合ってくれって頼んでみるよ。ちょっと待ってな。
[謙介] 同じ学校の仲間が祝ってくれるならそっちの方が良いからって、最初ちょこっと顔だして雰囲気をみてどうするか決めるってさ。大丈夫だよ、俺がフォローしてやるから。それで出来れば俺ん家で出来ないか?
「なつみん、謙介オッケーだって。出来たら謙介の家を会場にして欲しいって」
「オッケー。じゃあ、それでやろー! プレゼントはひとり1000円までねー」
[椎弥] 夏美先輩がやる気満々だよ。悪いな無理言って。プレゼント交換があるから予算1000円で適当に準備してもらっていいかな。
[謙介] オッケー。友達はひとりな。 ちなみに家の場所はここな
[謙介] <ドコネのマップ機能にピンが刺された地図が送信された>
謙介の家……凄い大きい。学校からはちょっと離れてるけど広い庭。航空写真に切り替えると広々とした芝が見える。芝を拡大するとトレーニングしている謙介が映っていたので思わず笑ってしまった。
* * *
地元の小さなショッピングモールに彩衣と和奏とクリスマスプレゼントを買いに来ていた。高校生のクリスマスプレゼントなんて何を買って良いのか分からない。
専門店街にある広い雑貨屋さんでウロウロしながら迷っていた。和奏はバスソルト、彩衣はアロマオイルセットと直ぐに決めたが僕はプレゼントの基準が全く分からなかった。
「椎弥、なんでもいいのよー。恋人にプレゼントする訳じゃないんだから。わたしと彩衣にプレゼントするならしっかり迷うのよ」
「ふふふ、椎弥。わたしのことは気にしなくて大丈夫ですよ」
最終的に決めたのはお菓子。ちょっとおしゃれなクッキーセット。残る物より消費する物にしたいと思っていた。形ある物だと処分にも困るだろうし。
「椎弥、そんなこと考えなくても大丈夫よ。パーティーのメンバーは椎弥からなら何をもらっても嬉しい人ばかりだと思うわ」
「なになにー。椎弥は何考えてたの?」
両手を後ろに組んで彩衣に顔を近づける和奏。
「形あるものだと邪魔になって悪いから食べ物にするって」
ニコニコしながら彩衣が答える。
「考え過ぎよー椎弥」
和奏は僕の肩を力強くたたいた。
後日、ふたりに渡すプレゼントを用意した。見た瞬間に一目ぼれしたアイテム。喜んでもらえるかは分からないが大満足のアイテムだった。
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好き。
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。中村が好き。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、言動が男を勘違いさせる。
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。
篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女
その他
原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う
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