第26話 後夜『祭』
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「ごめんね椎弥」
文化祭が終わって自宅近くのいつもの場所で大銀杏を見上げながら和奏と話していた。
「いいよ。でも大変だね特Sって、あんなこともしなくちゃいけないんだ」
「そうなの、特Sメンバーと近しい受入れ候補者の打診もひとつの仕事ってわけ。本当に嫌だったわ。椎弥をダマすみたいで……。嫌われたらどうしようって悩んでたの」
がっくりとうなだれる和奏。
「確かにな、本来なら謙介をその気にさせるまでで良いんだもんな」
「でも、特Sの先輩たちがあそこまでやれってね。美陽ちゃんも随分と悩んだみたいよ。椎弥に嫌われたらどうしようって」
「あ、僕の学力のことを美陽に話したことある?」
「ないわよ。私たちが出てくるまでは上手くやるから任せてって言ってたの」
「そう考えると彩光高校って勉強にスポーツに力を入れているよね」
「Aクラス以上はかなり優遇されるからね。スポーツと学業それぞれのトップを目指すべく特Sが組織され生徒会を動かす。下手すると先生より発言力が上だからね」
「そんなところで特Sなんて凄いな和奏は」
「椎弥に彩衣に……ちゃんと自覚してほしいわ。わたしは2人のおかげで特Sにいられるのに」
* * *
文化祭は滞りなく終わり、後夜祭をサボって彩衣の家に来ていた。
「耳の調子はどう?」
「そうね、大丈夫よ。椎弥と和奏がいい距離感を作ってくれてるからね」
ニコニコしている彩衣。
「本当はもっと仲良くしたいんだけど、どうしても考えちゃって」
「ふふふ、私はふたりと仲良く出来ればそれでいいの。今のままでももっと深くなっても」
「ちょ……」
僕は赤くなってしまった。あの夜のことを思い出してしまう。
「椎弥、ありがとうね。こんな私を好きになってくれて。椎弥と和奏の前でだけ素直になれる。私だって女の子、あなたのようなことも考えるわ」
心を読まれた僕は赤くなってうつむいてしまう。
「あ、そうだ。昨日、和奏たちが学校に来たよ。彩光高校の友達を連れて。来週の土曜日に謙介の手伝いで野球やりに行くんだけど応援に来てくれない? やっぱり好きな人がいると頑張れるからね」
「もちろん良いわよ。和奏は可哀そうだったわね。昨日、相談を受けてたのよ。演技しなくちゃならないって。嫌われたら椎弥をよろしくとまで言われたわ」
僕の隣に座る彩衣。
「まったく和奏は考えすぎなんだよ。前もって僕に相談してくれれば良かったのに」
彩衣は顔を近づけて人差し指を僕の唇に当てた。
「椎弥は嘘がつけないでしょ。だから和奏が悩んでたのよ。私みたいに心が読めないからね。分かり合えてても心配なものよ」
「本当に人の心って分からないね。色々なことを考え、想いを巡らせて様々な色を発する。でもね、その色を見た人が同じ色として見てくれるかは分からないのよ」
唇を指している人差し指をゆっくりと下げて僕の心臓(ハート)を指す彩衣。
「だから不安になるのよ。わたしだってそう、怖くて人の心を遮断する時だってある。それに椎弥や和奏が目の前にいないと心は読めないから不安にもなるの」
彩衣の目に涙が溢れるのが分かる。
「大丈夫だよ。僕は彩衣が大好きだ」
「不安なの、次に会った時に心が変わってたらどうしよう。椎弥と和奏が私から離れていったらどうしようって、私からいつでも好きなようにしていいって言っておきながら」
溢れた涙が頬を伝わってこぼれおちる。僕は不安を解消するように彩衣の唇にキスをした。涙が止まるまで強く抱きしめた。そのまま体を重ねた。
「椎弥は帰らなくて大丈夫なの?」
「ああ、今日は彩衣と一緒にいたいんだ。友達の所に泊まるって家に連絡しておいた」
「ごめんね。私のような女に掴まっちゃって」
「なに言ってるんだい。僕は彩衣に会えて幸せだよ。和奏だってそうだ。心から愛せる人と出会えるなんてこれ以上の幸せはないよ」
布団の中で手を握り、天井を見ながら話をしていた。
「ふたりとも、なにをしているのよ」
「わ、和奏……これは」
「ふふふ、椎弥に慰めてもらっちゃった」
「私だって寂しかったのよー、椎弥に嫌われたらどうしようって」
制服のままベッドにジャンプして飛びついてくる。和奏が僕と彩衣の間に収まった。
そんな和奏を抱き寄せてキスをした。そのまま僕たちは夜を共にした。
* * *
「キャー大変!」
和奏がベッドから飛び起きた。時間は明朝4時半、和奏の叫び声と共に僕は目を覚ました。彩衣はスヤスヤと寝ている。疲れているだろう。起こさないようにそのまま横にしておく。
小声で和奏に話しかける。
「どうしたんだい和奏」
大声を出したことに気づいたのか、小声になる和奏。
「昨日、泊まるって親に電話してない!」
慌てる和奏、アワアワしている。
「とりあえず、電話。おばさんにちゃんと友達の所に泊まったって電話しないと」
「ちょっと行ってくるわ」
リビングに慌てて走り去った。和奏の声が微かに聞こえる。納得した声や驚きの声、照れたり焦ったり、いつの間にか僕は笑みをこぼしていた。
「あ、おはようございます。キャッ」
裸の彩衣は布団を体に巻き付ける。疲れてそのまま寝てしまっていた。
「おはよう、和奏が泊まるってことを家に連絡してなかったみたい。もしかしたら両親に怒られているかも」
電話が終わった和奏が戻ってくる。
「んもー、お母さんったら」
「どうした和奏」
「全然心配していなかったのよ。椎弥の家に電話したら友達の家に泊まってるって言ってたから一緒だと思ったみたい。椎弥と一緒なら安心だろうって」
「信頼してくれて嬉しいけど恥ずかしいな……」
天を仰ぐ僕、クスクス笑う彩衣。
「ふたりとも本当に仲がいいですね」
「そう思ってもらえるならいいか。家 (うち)は家族そろって椎弥が好きだからね。少しは男の人と一緒にいると思ったら心配しろってねぇ」
「そうだね。家も同じようなものさ。みんな和奏の大ファンだよ。って、おばさんが家に電話した……。ということはうちの両親も和奏と一緒にいたことを知ってるってことだよな」
……その日の夜、花咲家はお祝いだった。
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好き。
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。中村が好き。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、言動が男を勘違いさせる。
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。
篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女
茂木源太(もぎげんた)……3年:野球部元キャプテン。椎弥と野球対決した。
その他
原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う
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