第25話 文化祭②

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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「ふぅ、暇だ」

 クラスの出し物である喫茶店の番を謙介としていた。

「さっきの凄かったな美術室での美女たち」

 肩を組んで頬を突いてくる謙介。

「和奏も美陽も会ったことあるじゃないか」

「そうだけどよー、やっぱり制服を着てると違うよなぁ、こう品格があって……」

 ゆっくり右手を天に挙げて中空を見つめる謙介。

「彩光高校1年の特Sクラスだってよ」

 組んでいた肩をほどき後ずさる謙介。

「マジか、特S……原田さんも海野さんもそんなに頭が良かったのか」


「遊びに来たよー」

 美陽が入ってきた。続けて入ってくる茜。

「「いらっしゃーい」」

 僕と謙介の声がハモる。


 ガラガラな店内の窓際に座るふたり。

「椎弥くん、紅茶を2つお願い」

 茜の注文を受けて取りに行こうとすると、謙介が「俺が持って行くよ」と紅茶を取りに裏へ行った。


 一人になったのを見計らってか美陽が近づいて耳打ちしてきた。

「聞いたわよお姉ちゃんから。椎弥の学力……お姉ちゃんは天然だから分からないかも知れないけど、あなた頭いいでしょ。話していれば分かるわ。和奏に聞いても平均点くらいじゃない?って言ってたけど親友なんだもん嘘をついているのだって分かるわ」

 ニヤニヤしながら肘で僕の腹をつつく美陽。

「美陽ちゃん……。それは買いかぶり過ぎだよ。僕なんて大したことはないさ」

「まあいいわ。これは私なりのアピールよ。椎弥のことをちゃんと分かってるんだっていうね」


 紅茶を持ってくる謙介。それに合わせて席に戻る美陽。ふたりの席に『午前の紅茶』とカップが置かれた。紅茶をカップに注ぎながら笑顔で雑談している。微かに会話の中から野球という言葉が聞こえた。

 

「ふたりとも何の話をしているの?」

 野球という言葉に反応して話に入ってしまった。

「あら椎弥、女の子の話を盗み聞きするなんて良くないわねぇ」

 笑いながらカップを口に運ぶ美陽。

「椎弥くん、野球って言葉に反応したでしょ。美陽に彩光高校で投げた椎弥くんの話を聞いていたのよ。誰にも聞かれない場所を選んでここに来たからね」

 真面目な顔で僕に目を合わせる茜。2杯目の紅茶をコップに注ぐ。

「でも勿体ないわね。茂木先輩が美鈴に漏らしているみたいよ。才を持っている上に努力家、ブランクを感じさせない投球は並大抵のことではない。そんな人材を遊ばせておくのはもったいないって。それに勉強まで出来たら完璧よね」

 中空を見つめて目をつぶり回想するように語る美陽。

「ちょっと美陽。そんなこと言っても僕は勉強が苦手なんだ。中々完璧な人なんていないって」

「まあいいわ。盛大な自爆って面白いわね。大丈夫よ、野球のことは人に話さないから」

 不思議そうに僕と美陽のやりとりを見ている茜と謙介。

「ねえ美陽。全然意味が分からないんだけどどういうこと?」

 美陽をマジマジと見つける茜。

「そうね、わたしが椎弥をからかったって思ってもらっていいわ」


「へぇ~、なんか悔しいわね。美陽より長い時間接しているのに」

 腕を組んで思い返すように頷く茜。

「ほら、そこの謙介くん。あなたにも言いたいことがあるのよ」

 いきなりフラれて焦る謙介。

「あなたも彩光高校の野球部に呼ばれてるんでしょ、監督に」

 慌ててテーブルまで駆け寄る謙介。

「なんで美陽さんがそれを知ってるんだ」

 テーブルに座る茜と美陽。その場で静かに話を聞いている僕、謙介がテーブルの向かいに移動する。

「ホントは内緒なんだけどね。特Sは編入候補生も把握しているの。この学校だと陸上の夏美(おねえちゃん)もね。和奏も知ってるはずよ」

「謙介……それは本当なのか」

 謙介の肩に右手を乗せる。

「ああ、すまんな隠してて。親父に言われててな。俺も中学までは野球をやってたんだ。藍彩高校に入ったのだってサッカー部を選んだのだって、親父に対する反抗みたいなものだからな」

 机に両手を付く謙介。目線を下げて首を振る。

「そっか、謙介も色々あったんだな」

「ああ、でも今考えると悪い事をしたと思ってる。周りの友人から親の七光りで名門彩光高校に行けていいなぁとか言われてな。悪気はなかったんだろうが、反抗期の俺は親父のせいにしたんだな。今の俺だったら彩光高校行ってたよ」

「じゃあ謙介君、何も問題ないじゃない、彩光高校に転校しましょう。私がとりもってあげるわ。椎弥も手伝ってくれる?」

 いきなりこちらをむいて話題を振る美陽。


「えっ、謙介のためなら手伝うけど僕は転校しないよ」

「いいのよ。謙介くんの転校を確実にするために手を打つの。さっき謙介くんが言ってた親の七光りは彩光高校では通用しない。スポーツ特待生は実力ある者だけが入学を許される学校よ」

「ちょっと海野さん、俺のことに椎弥を巻き込んじゃあ悪いよ」

「いいわよね。私」自分の口を何回か指差す美陽「と椎弥で謙介くんを応援してあげましょう」 (*1)

「凄いな美陽は。そうこられたら断るわけにはいかないな」

「ふふふ、こういうやりとりは楽しいでしょ。あなたも彩光高校向きなのよ。少しは自覚しなさい」

 美陽と僕の会話を理解していない謙介と茜は顔を見合わせていた。

 

 教室に入ってくる和奏と美鈴そして夏美。


「和奏、美鈴。謙介くんオッケーだって、椎弥も手伝ってくれるってさ」

「ごめんね椎弥。ダマしたわけじゃないのよ。スカウトも特Sの仕事なのよ。こうでもしないと藍彩高校の文化祭で椎弥に会いに来れなかったんだもん」

「あら和奏。わたしは純粋に茂木(かれ)を導いてくれたお礼をしに来ただけですわ」

「和奏、私は椎弥にアピールもしたかったからね。椎弥、耳打ちした話は本当だからね。きっと和奏から奪うわよ」


「ちょっとみんな、何よそれだまし討ちみたいじゃない」

 茜が立ち上って大声をあげた。

「茜さんいいんだ。あんな言い方しているのは演技だよ。謙介が試験で落ちても精神的な負担を和らげるためのね。きっと謙介のポジションはキャッチャー。僕に投げさせたいんだろう」

「椎弥すげーな、何で俺がキャッチャーって分かったんだよ」


「まあそんなこと気にしちゃダメよ。彼は凄い人だから。期末テスト後に、彩光高校入学テストをしましょう。今日は和奏に椎弥を譲るわ」


 美陽と美鈴は帰って行った。喫茶店の番が終わった僕は、和奏と茜、謙介とともに文化祭を楽しんだ。


 あまり浮かない顔をしていた茜を謙介が一生懸命フォローしていた。

 

 

*1 美陽が椎弥の学力を学校に(口止め)バラさないという交換条件

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前作までの登場人物:

藍彩高校

 1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。

   中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好き。

   西田謙介(にすだけんすけ)  ……サッカー部、モテる。中村が好き。

 (担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き


 美術部

  2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い

  2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、言動が男を勘違いさせる。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り。

   海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

   篠原美鈴(しのはらみすず)……1年:3年生元野球部キャプテンの彼女

   茂木源太(もぎげんた)……3年:野球部元キャプテン。椎弥と野球対決した。

その他

   原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う


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