第20話 友達たちの想い

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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 夏休みが終わった。新学期が始まり美術部も再開したある金曜日、夏美ちゃんが唐突に言葉を発した。


「椎弥(しいやん)。明日デートしよ」

「あーそうですね。いいですね……え!?」

 みんなが一斉に立ち上がる。

「夏美先輩、デートなんて……椎弥くんもなに普通に受け入れてるのよ」

「ご、ゴメン。絵を描いていて、それ取って位の感覚だったからつい返事しちゃったよ」

「今更ダメよ。さっきオッケーって言ったもん。取り消しはできません」

「茜(あかねん)も来る? 大勢の方が楽しいもん。椎弥(しいやん)は友達連れてきてもいいよ」

「え、あ。はい。じゃあ謙介連れて行ってもいいですかね」

「どうぞ。やっぱり最初は大人数デートよねー。彩衣(あいりん)は来る?」

「夏美さん、わたしは止めておきますわ。みんなで楽しんできてください」

「部長は?」

「あー、私はいいよ。折角だし若いもので楽しんできな。というか今は夏美が部長だろ」

「なんで石原部長がいるんですか。夏休みで引退したはずじゃ」

「細かいこと気にするな椎弥。私は既に進路が決まっているからな。暇なんだよ」

「部長がいた方が部室の雰囲気も変わらなくていいですね。じゃあ、僕は謙介に伝えておきます」


 スマートフォンを取り出して、謙介にドコネを送る。『明日、美術部で遊びに行くんだけど謙介もどうだ。茜さんもくるぞ』


 30分程経つと部活の休憩中に謙介から直ぐ返事が入った。『絶対に行く! 雨が降ろうが槍が降ろうが部活を休んで先輩にしごかれようが絶対に行くからな』


「夏美ちゃん、謙介はオッケーだって」

「じゃあ、ショッピングモール駅に集合ね」


 * * * 


 デート当日。インターホンが鳴るところから1日が始まった。1階にいる母親から大声で呼ばれた。

「椎弥ー。和奏ちゃんが迎えにきてるわー」

「えっ、あっ、和奏?」

 そろそろ出発しようとしていた矢先に和奏が訪れた。


「椎弥、おはよう」

「和奏。今日はどうしたの?」

「デートでしょ、夏美さんたちとの」

「和奏も来るの?」

「その様子じゃ知らなかったようね。若葉も行きたいって言ってたけどさすがに置いてきたわ。他に誰が来るって聞いてる?」

「僕が誘った謙介と夏美ちゃん、茜さんかな」

「随分夏美ちゃんって呼ぶのも慣れたわね。彩衣は断ったって言ってたし……もう1人くると思うわよ」


 地元の駅からショッピングモール駅まで30分程度、和奏とは夏休みの話題やこの間遊びに行った原田家のことで盛り上がった。



「確か、駅からショッピングモールへの連絡通路を抜けるとドナッツ屋が……あった、あそこだ」

 休日の混雑したショッピングモールの喧騒の合間に既に見知った顔が集まっていた。その中で初めて見る女子がいた。


「はじめまして、夏美の妹で美陽(みはる)と言います。今日を楽しみにしてました」

「え、はじめまして。花咲椎弥です。ゴメンね、今日のメンバーを聞いてなかったからビックリしちゃって」

「ちょっと椎弥、そこは弁解しないの。もうちょっと気の利いたことを言わないと」

「いいのよ和奏。誠実そうな人で良かった」

「ちょっとみはりん、椎弥んは私が誘ったんだからねー」

「分かっているわよ。お姉ちゃんには感謝してます」



 ショッピングモールを歩いていると周りの視線が気になる。元気な海野姉妹、茜、和奏。学校で話題を独占しそうな(している)女子、同じく独占している謙介。特に目立たない僕。何か責められているような気持になってくる。


「みんなーお昼にしよー」

 休日のショッピングモールの混雑状況でお昼を食べるのは一苦労。僕が謙介と一緒に座席の確保を提案した。

「椎弥(しいやん)。ありがとう、大丈夫よ。和奏(わかなん)に連絡して作ってもらったから、あとね美陽(みはりん)にも頼んでおいたからね」

「じゃあ俺は飲み物買ってきますよ。貰ってばかりじゃ悪いっすからね」

 謙介が手を挙げた。このタイミングはチャンスだと思った。

「茜さん、僕は広場で場所探しするから謙介と一緒に行ってもらって良いかな」

「じゃあ椎弥さん、広場の場所探しは私と行きましょう」

 美陽に手を引かれるままショッピングモール脇にある広場に向かった。


「椎弥さん、同じ年だし私も椎弥って呼んで良いかな。私のことは美陽(みはる)って呼んで欲しいの。今日の和奏とのやり取りを見て分かったわ。ふたりのあいだに付け入る隙がないって。でも諦めた訳じゃないわよ。きっかけは野球だけど今はあなたの魅力に惹かれたの」

「美陽さん……」

「ほら、美陽って呼びなさい。あそこ空いているわ、場所を確保しちゃいましょう」

 美陽と雑談していると和奏と夏美ちゃんが合流、続けて謙介・茜が合流する。


「みんな、わたしね椎弥さんと名前で呼び合うことにしたからね」

 中村の顔つきが変わった。謙介は口をあけて驚いている。

「美陽(みはるん)名前が好きだねー。でもわたしの椎弥(しいやん)の方が可愛いよ」

「美陽、みんなが勘違いするでしょ。学校でもそうなのよ、名前で呼び合うのが好きみたいで周りにもそう言っているの。だから学校の男子も勘違いしちゃって」

「夏美に美陽。学校は違えど姉妹ってことだね」


 * * *


 楽しい時間もあっという間に終わり帰路についていた。海野姉妹はショッピングモールで別れ、謙介・茜は藍彩高校の最寄り駅、その先は和奏とふたり。


「謙介、茜さんとうまくやったかなー。うまくふたりにしたりとナイスフォローだったと思うけど」

「椎弥、好きな人から別の異性と一緒に行ってと言われると少し悲しくなるわ。私に興味が無いかもと思わせたかもね」

「そこまで考えてなかった。でも、そう思ってくれたほうが僕としては良いと思う。想いを寄せてくれても僕には応えられない。和奏と彩衣が好きだから」

「そのセリフはわたしに言うべきじゃないわね。『和奏と彩衣が好きだから』なんて言われたら一人に選びなさい!ってなるわよ。でも私にとってはそのセリフが嬉しい」

「言われてみればそうだよな。でも、謙介と茜さんには上手くいって欲しいなぁ」

「あ、関係ないけど今日、彩光高校の生徒と何回かすれ違ったわ。椎弥と謙介君が睨まれてたけど気を付けてね。美陽人気、予想以上に高いのよ。それに、藍彩高校の人もいたかもしれないわよ」

「ちょっと和奏、怖いこと言うなよ」

「いいじゃない、『和奏と彩衣が好きなんだ』に『夏美と美陽が好きなんだ』も追加したら」


 インターホンから始まった1日。和奏と一緒に家に着くまで楽しい時間であった。



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前作までの登場人物:

藍彩高校

 1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。

   中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好き。

   西田謙介(にしだけんすけ)  ……サッカー部、モテる。中村が好き。

 (担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き


 美術部

  2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い

  2C:海野夏美(うみのなつみ) ……美術部部長、言動が男を勘違いさせる。

  3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。部活引退した。


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り

   海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥に惹かれている。

その他

   原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹、椎弥をお兄ちゃんと慕う

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