第19話 原田家のひとびと
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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夏休みも終わりに近づき暇を持て余していたある日、ランニングコースに神社方面を加えた新たなコースにも慣れたころ。
道の端に休憩所として置かれている長方形の石がベンチ一休みする。彩衣の家は見えないが、大銀杏(おおいちょう)の上の方が屋根越しに見える場所で後ろに手を付いて眺めるのが日課になっていた。
大銀杏を眺めていると彩衣の家へと繋がる路地から和奏が歩いてきた。僕は手を振って和奏を呼ぶと僕の隣に座った。
「和奏、どうしたの?」
「昨日ね、彩衣の家にお泊りしたの。それで今帰る所」
「僕はいつものランニングだよ」
「椎弥、いつものランニングにしてはコースが違ってない? 何年もコースなんて変えてなかったのに」
「ハハハ、なんかあの大銀杏(おおいちょう)が気に入っちゃってね。いつもこの場所から眺めているんだ」
和奏は立ち上がり、振り返って上半身を傾けると顔を僕の目前に近づけた。
「茜ちゃんはどうするの?」
「どうもこうも謙介を応援するよ。僕は和奏や彩衣といる方が楽しいしこのままが一番良いな」
「あのね」再び隣に座る和奏「……椎弥に好きな人ができたらそれでもいいんだからね。例え私に近い人でも」
「なんだよそれぇ」
「夏合宿の日、茜ちゃんと絵を描きに行ったの覚えてる?」
大銀杏を眺める和奏。
「ああ。なんか茜さんが妙に積極的に和奏を誘ってたよな」
「そう。あの時ね実は茜ちゃんに、椎弥のこと相談されたの。好きだ、協力して欲しいって」
「そうか……。それで先生に課題の提出を求められたときに焦ってたんだね」
「それでね、わたし断ったの。椎弥を取られるなんて嫌だし……あ、でも勘違いしないでね。椎弥だけじゃない、彩衣だってとられたくない。私たちは3人1組。こんなに独占欲が強いとは自分でも思わなかったわ」
足をブラブラさせて空を見上げる和奏。
「僕も同じだよ。和奏だって彩衣だって大好きだ。それ以外は考えられない」
「そう。彩衣も言ってたけどその人の気持ちはその人しか変えられない。変えようとする努力は出来ても変えられないの。だから椎弥が茜ちゃんや夏美さんを好きになったら応援してあげましょうって」
「彩衣がそんなことを……。僕も同じようなことを言われたなぁ」
「でもね、私は嫌なの。3人が良いの。こればかりは曲げられない。ただ……椎弥が彩衣を好きだって言ったら許せてしまいそう」
「何言ってんだよ。3人で1組だろ」
立ち上がり手を差し伸べる。それに掴まる和奏。
「さあ朝も早いし帰ろう」
和奏の手を引いて立たせる。そのまま家に向かって歩き始めた。
「和奏、夏合宿で夢を見たんだ」
「ああ、彩衣のふとももをまさぐった時の話し?」
「え……あ……なんで和奏がそれを……」
「彩衣に聞いたに決まってるでしょ。大丈夫よわざとじゃないって分かってるから」
「ふぅ、筒抜けだな。まあいい。それでね、前に見た子供の夢、同じ夢だったけど女の子だった。それも髪の長い小さな女の子。それと最後倒れている女の子に雨が降りつけてた」
「そっか。でも少しづつ見えてきているって思えばきっといつかは夢の理由に辿りつけるかもね」
「そうだな、今度夢のことを彩衣にも聞いてみよう。もしかしたら同じ夢を見てるかもしれないし」
「そうね。椎弥、やるじゃない。……そうだ、ちょっと家に寄ってかない? お母さんに今度連れてきなさいって言われてるのよ」
「そうだな。おばさんにも挨拶しないとね」
和奏の家は僕の家から直線距離で200メートル程、畑越しに家が見える距離。良くあるアニメの幼馴染のように部屋が隣り合ったりはしていない。
「いらっしゃーい。椎弥ちゃん久しぶりね、和奏とは付き合ってるの?」
玄関を開けるや否や出てきた和奏母(おばさん)に声をかけられた。
「ちょっとおばさんいきなり直球ですね」
「椎弥ちゃんは変化球の方が良かったかしらね」
「もー、お母さんったら。やめてよね。まだ付き合ってないわよー」
「あら和奏、まだって今言ったわよね」
「言葉の綾よ、つまんない所聞いてるんだから」
「椎弥ちゃん、朝ご飯まだでしょ。たまには私の料理も食べて行ってね」
「はい、遠慮なくいただきます。和奏の家で遠慮なんて出来ませんからね」
2階からバタバタと駆ける音が聞こえる。
「椎弥にいちゃーん」
僕の胸に飛び込んでくる女の子。
「もしかして若葉(わかば)ちゃんか、大きくなったなぁ」
「椎弥にいちゃん勉強教えてよー。夏休みの宿題が終わってないんだ、おねがーい」
「若葉、今日はわたしと話しに来たのよ。自分の宿題はちゃんと自分でやりなさい」
「いいよ和奏。久しぶりだしおばさんのご飯をいただいたら宿題を手伝ってあげるよ」
「さっすがお兄ちゃん。だーいすき」
「こら若葉、年頃の女の子が軽はずみなこと口にしないの」
「だってお姉ちゃん、椎弥にいちゃん大変なことあったでしょ。私じゃ力になれないからじっと見てたの。お姉ちゃんみたいに出来なかったんだもん」
「ほらほら、和奏も若葉も落ち着いて。椎弥ちゃんが困ってるでしょ。朝ごはん食べましょ」
その後原田家で朝ご飯をいただいた。和奏との雑談、若葉の宿題の手伝いをしてお母さんと昔話で盛り上がる。結局家に帰ったのは夜だった。
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、椎弥が好き。
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。中村が好き。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問。学園ドラマ好き
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、言動が男を勘違いさせる。
3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、椎弥を紹介して欲しい
その他
原田若葉(はらだわかば) ……中3:和奏の妹
夏美が付けた仇名 椎弥ん(しいやん)、茜ん(あかねん)、彩衣(あいりん)、石原部長(さっきん)、和奏ん(わかなん)
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