第17話 親友以上の親友
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「「「えーーー」」」
僕は彩光高校で野球部と試合したことを話した。驚きを隠せない石原部長、夏美先輩、そして茜。
「すいません。隠していたわけじゃないんですけど、中々言い出せなくて……。ここに来た時に涼島先生(せんせい)に呼び出されたのはこの事なんです。みんな気を使ってくれていたし中々言い出すきっかけが無くて」
「なんだ椎弥。てっきりお前と原田さんが不純異性交遊をしないように先生が釘を刺したものだと思ってたぞ」
「それで椎弥くんは彩光高校に編入するの?」
「それは断ったよ。僕は藍彩高校の美術部と……好きなんだ」
「椎弥(しいやん)、と?って何?」
「い、いや。間違えた。夏美先輩、細かいところはスルーしてくださいよー」
彩衣がクスリと笑った。
「椎弥(しいやん)、こんど家に遊びに来なよ。美陽(みはる)もいるしわたしも椎弥(しいやん)とお話ししたいなー」
和奏と茜が瞬間的に夏美の方を向く。心なしか目が厳しい。彩衣先輩はいつも通りニコニコして石原部長はやれやれといった感じ。
「夏美先輩、さすがにそれは止めておきます。そんなことが知れたら学校中から敵認定されちゃいますよ。僕にはそこまでの勇気はありません」
ホッとする和奏と茜。
「しょうがないなー。じゃあせめて私のことを『なつみん』って呼ぶか夏美ちゃんって呼んで」
再び圧を発する和奏と茜。
クスクスと笑う彩衣。騒がしい室内でかき消されたが僕は聞き逃さなかった。彩衣先輩がクスクス笑う前に発した噴き出す音を。
* * *
「夏美ちゃん、足大丈夫ですか」
結局、夏美先輩を夏美ちゃんと呼ばされていた。
帰りの車内、雑談に花が咲いていた。
「みなさん、野球のことは学校で内密にしてもらえませんか。僕は学校で目立ちたくないので……勝手なことを言っているのは分かっているけどお願いします」
静まる車内。
「おっけー」という夏美の一言に石原部長も茜も同調してくれた。
「でも椎弥くん」
「茜さんどうしたの?」
「この間、謙介くんたちと勉強会したって言ったでしょ」
「ああ。それがどうかしたの?」
「謙介くんが私にだけ言ったんだけど、お父さん、彩光高校野球部の監督って言ってたよ」
「え!?」
「あー!」大声を出して立ち上がる和奏「西田監督。前に椎弥が仲良くしている友達を『西田謙介』くんって言ってたよね」
「謙介……西田謙介。彩光高校で声をかけてきた監督。たしかに1軍監督の西田と言っていた。夏美先輩のことといい世間が狭すぎる」
「こら椎弥(しいやん)、夏美先輩じゃなくて『なつみん』か夏美ちゃんだよ」
「あっ、ごめんなさい」
思わず謝ってしまった。そんなことより僕にはやらなくてはいけないことがある。
ポケットからスマートフォンを取り出してドコネを開く。送信相手は謙介。
[椎弥] あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど明日時間とれないかな。藍彩高校あたりで
[謙介] タイミングいいな。ちょうどスマホをいじってた所だ。明日な、サッカー部の練習が夕方終わるからその後でいいか
[椎弥] オッケー。何時ころ終わりそう?
[謙介] そうだな、4時ごろ来てくれ。俺もお前に聞きたいことがあったんだ。
スマホの電源を落とし見回すと周りの視線を一手に浴びていた。
「ハハハ、明日、謙介とあって話してみるよ」
「お前たち良いじゃないか。それぞ高校生って感じだな。俺がご褒美やろう」
車を走らせる涼島先生(せんせい)が振り返ることもなく声をかけてきた。建物が流れるように高速道路を走っている。
暫く走るとウィンカーを出してパーキングエリアに入って行く。
「トイレ休憩だ。お前たちも行っとけよ。あとはこのまま藍彩高校に行くからな」
それぞれがバラけてトイレに向かう。トイレで用を足していると夏合宿のことが頭を巡りニヤニヤしてしまう。しかし、大きな不安も心の中にあった。
トイレを出ると丁度和奏と彩衣先輩がふたりでいるところに鉢合わせした。彩衣先輩がゆっくりと近づいてくる。
「椎弥くん、不安な心。分かるわ。一つだけ言わせて、その不安が良い方に転んでも悪い方に転んでも、わたしたちと椎弥くんの関係はかわらないわ」
「そうよ椎弥。彩衣の言う通りよ。それにね私なんか悔しいのよ。私たち3人って共同体みたいなものでしょ。それなのに、『椎弥くん、彩衣先輩』なんて呼び合ってるのが! 椎弥は夏美さんのことを夏美ちゃんって……。なんでそんなに親しげなのよ!」
クスクス笑う彩衣。どうしていいのか分からない僕。
「そんなこと言ったって成り行きで……」
「椎弥、責めているわけではないの。さすがにあそこまで言われたら仕方ないわね。だからこれを機に『椎弥、彩衣』って呼びなさい。それと彩衣はわたしにちゃん付けも禁止」
「え、和奏はいつでも変えられるけど……。それは椎弥くんにも和奏にも悪いわ」
珍しく困った表情をする彩衣先輩。
「そうだよ。さすがに先輩に呼び捨ては……」
「彩衣、私がそう呼んで欲しいの。悪くなんてないわ。それに椎弥もなんだかんだ言って嬉しそうな顔をしているし」
和奏の言葉に押されるまま名前で呼び合うことになった。
「あ、彩衣」
「は、はい椎弥」
なんとなくお互いに照れてしまう。すこし見えた彩衣の照れた表情が可愛かった。
「もー、ちゃんと呼んでよね。新婚みたいで私が恥ずかしくなっちゃうじゃない。でもいいわ。これでみんな本当の仲間になったみたいで私は嬉しい」
車に戻ると既にみんなが集まっており、先生が褒美と言っていた大量の飲み物やお菓子、スイーツが置かれていた。
目を輝かせている女性陣。彩衣はいつも通りのニコニコだが、一際目立った女性がいた。石原部長……、スイーツを前に未だかつて見たこと無い愛情たっぷりな顔をしていた。
「よーし、みんな出発するぞー。なんかいいなー。高校生の先生って感じがして」
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、淡い気持ち
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、言動が男を勘違いさせる。
3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹、和奏の親友
夏美が付けた仇名 椎弥ん(しいやん)、茜ん(あかねん)、彩衣(あいりん)、石原部長(さっきん)、和奏ん(わかなん)
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