第16話 世間は狭い
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「アスレチック行こうよー」
夏美が声を上げた、手には案内図が握られ説得している。
テニスにゴルフ……オリエンテーションに乗馬なんてものもある。プールが良かったようだが水着が無いのでアスレチックに目をつけたようだ。
「あの……わたしはここで絵を描いていていいですか。運動はあまり得意ではなくて」
彩衣が申し訳なさそうに謝る。
「彩衣がここにいるなら私も一緒にいるよ」
和奏が彩衣の手を握った。
「原田さん、君も一緒に行ってきなさい。小鳥遊は俺が見ているから大丈夫だ」
涼島先生(せんせい)の言葉に和奏は彩衣と一緒にいると言っていたが、押し出されるようにアスレチックに参加させられた。
大きな公園にある立派なアスレチックコース程度を想像していたら、アスレチックコースだけで1日遊べるほどの広さ。コースは6個、初心者コースから上級コース、さらには水上コースなんてものもある。
「もちろん上級コースだよね」
夏美先輩がさっさと上級コースと掲げられた看板の下を潜り行ってしまう。準備運動のような遊具から始まる。立てた丸太を落ちないように跳ねながら進むコース、寝かせた丸太を三角に組み上げ登るコースなど。
夏美先輩を先頭に、石原(ぶちょう)や茜さん、和奏がついていく。ぼくはみんなの後ろ姿を見ながらひとりであるいていた。
「石原先輩(ぶちょう)、夏美先輩、随分動きが良くないですか?」
「そうか、中村は知らなかったのか。あいつは中学まで陸上部だったそうだ。高校に入ってやめたみたいだな」
「へぇ~、意外ですね。椎弥みたいなもんですね」
「原田さん、椎弥は中学校でも美術部だったと聞いているが」
「そういえば椎弥くんに聞いたことがあります。野球部にいたけど色々あって美術部に入ったって。そのいろいろって和奏ちゃんは知ってるの?」
「え、ええ……まあ、でも茜ちゃんそれは私がいう事じゃないわ」
「そうだな。誰にでも言いたくないことはあるものな」
「キャー」
先頭をピョコピョコ進んでいた夏美先輩が倒れている。足首を抑え苦悶に満ちた顔をしている。慌ててみんなが駆け寄る」
「大丈夫か夏美」
「ごめーん、ちょっと滑って転んじゃった。足首捻っちゃったみたい」
石原(ぶちょう)が立たせようとするが痛みで立つことが出来ない。ぼくは慌てて夏美先輩の元に寄り片膝をついた。
「夏美先輩ごめんなさい。ちょっと触りますね」
捻った部位を触診して患部を探す。時折、夏美先輩から「いたっ」「うっ」と声をあがる。
「椎弥(しいやん)、いたいよー」
「夏美先輩、ただの打撲ですね。骨には異常はないですし腫れは直ぐに引くと思います。ただ、痛みは少し残るでしょうから無理はしないで下さいね」
「椎弥くん、すごいね、分かるの?」
茜が前のめりになって聞いた来た。
「前に野球やっていることがあるって言ったろ。やっぱりスポーツをやってると色々怪我するからね、その時に覚えたんだよ」
「夏美は立てないしみんなで抱えるか」
石原先輩(ぶちょう)の提案に考えていた。抱えて無理をさせて足に負担をかけると悪化しかねない……それだと方法はひとつしか……。こんなことをやっていいものなのだろうか……。でも、
「椎弥くん、どうしたの? みんなで夏美先輩を運びましょう」
決心した。
「石原先輩(ぶちょう)、茜さん、和奏、僕が運ぶよ」
首下から左手を回し肘窩(肘裏の曲がる部分)に頭を乗せて右手をひざ下に入れて持ち上げる。
「花咲、やるじゃないかお姫様抱っことは」
「すいません。女性相手に迷ったんですけど、無理に歩いて足首に負担をかけると悪化しちゃいますからね」
そのままログハウスに戻った。
「夏美先輩」
「なーに、茜(あかねん)?」
「中学校で陸上部にいたって言ってましたけど、椎弥くんみたいに応急処置とかやらなかったんですか」
「わたしはね。ケガをすると妹がいつも診てくれたんだよ。だから全然出来ないの。高校に入って陸上部やめたのも怪我をしたら診てくれる人がいなくなっちゃうからだからね」
「夏美先輩……陸上を止めた理由ってそれなんですか?」
「そうだよー。妹はまだ陸上やってるけどね。美陽(みはる)って言うんだ」
「ん? 夏美さん、確か苗字って海野でしたよね?」
「和奏(わかなん)、そうだよ」
和奏がなにやら考えている。
「夏美さん、もしかして海野美陽(うみのみはる)。彩光高校ですか?」
「そうだよー。陸上部の特待生で行ったんだー。わたしは断っちゃったけどね」
「美陽に聞いたことあります。お姉ちゃんが陸上で異常な強さを誇ってたけど高校であっさりやめちゃったって」
「和奏(わかなん)は美陽のお友達?」
「はい。同じクラスの親友です」
僕の腕の中で夏美先輩が周りと話しているが頭に全く入って来ない。腕に感じる柔らかい感触、女の子の匂い、目線を下げると大きな胸。僕は彩衣先輩がこの場にいない事だけを感謝していた。
「じゃあさ、美陽に紹介してくれって言われてるんだけど知ってるかなー。藍彩高校にいる野球の上手い男の子。ピッチャーって言ってたから野球部のピッチャーを写メで撮っていったらみんな違うって言われちゃってさ」
「夏美ぃ!。お前ぇぇ!、それでか! 野球部の連中が私の所に相談に来たんだぞ。お前に写真を撮られて勘違いした男たちがな」
「石原先輩(さっきん)ゴメーン。だって、親友がなかなか紹介してくれないって言うから」
目線の定まらない和奏。あきらかな挙動不審な表情と動き、誰がどうみても知っているとしか思えない仕草。
「原田さん、夏美の話しで随分動揺しているようだが話してもらってもいいかな。明らかに何か知っていそうだけど」
「椎弥(しいやん)、筋肉すごいんだね。この胸の中居心地いい」
お姫様抱っこされている夏美。僕の胸で抱き着くようにスヤスヤ寝てしまった。
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、淡い気持ち
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、言動が男を勘違いさせる。
3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……1年:幼馴染、料理が上手い。意地っ張り
海野美陽(うみのみはる) ……1年:海野夏美の妹
夏美が付けた仇名 椎弥ん(しいやん)、茜ん(あかねん)、彩衣(あいりん)、石原部長(さっきん)、和奏ん(わかなん)
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