第15話 告白

 下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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「うまいですね」

 夕食担当の石原先生(ぶちょう)と夏美先輩。てっきり定番のカレーが出てくるかと思ったらステーキを中心とした串焼きや焼き鳥などの肉類。それにサラダとスープのセット。

 肉は炭焼きの良いところを凝縮したような出来栄え。サラダは恐ろしく美味しい。特にドレッシングが素晴らしい。更にじっくり煮込んだコンソメスープが肉の油をリセットして食を進ませ、飯盒(はんごう)で炊いたご飯が食欲をかきたてる。


「ふっふっふ。夏美と私の合作だ。うまいだろう」

「特にこのドレッシングが美味しいですね。彩衣のも美味しいけどこれも美味しい」

 フォークに刺したレタスにかかったドレッシングを食い入るように見つめる和奏。「人参をすりおろしたのかなー」など呟きながら味わっている。


「じゃあみんな。今日の成果を見せてくれ。一応合宿だからな。一つくらい作品を持って帰らんと校長もうるさいからな」

 涼島先生(せんせい)に言われるがまま絵を提出する。僕と彩衣先輩は滝の絵。茜さんと和奏は、遠くに見える山をバックに流れる小川。しかし描いてあるのは下書きのみ。

「中村はどうした。原田さんは提出義務はないがふたりで何をしてたんだ」

 

 ビクッとする中村。それを助けるように和奏が説明する。

「涼島先生、わたしたちはつい話に夢中になってしまって。茜ちゃん、和奏ちゃんの間で呼ぶまでになったんですよ」

「そういえば、和奏から来たメッセージに『茜ちゃん』と絵を描いてるって来てた」

「そうか。仲が良いのはいいが、ふたりともこの後は部屋に籠って色を塗っちゃいなさい。そうすれば明日は遊びたい放題だ」


 夏美の歓声が部屋の空気を明るくする。みんなが笑顔の中、茜だけは胸の前で両手を組んで遠くを見つめていた。



 ログハウスにある部屋は3つ

  ・小鳥遊彩衣、中村茜、原田和奏

  ・海野夏美、石原早紀

  ・涼島啓介


「せんせーい。それだと僕の部屋がないんですけど」

「すまんな花咲。さすがに女子部屋には入れられんし、俺はいびきがうるさい。それに一人じゃなければ寝られん。明日はみんなを安全に送り届けなきゃならんからしっかりと休んで車の運転に備えないとな」

 

「私は別にいいぞ、夏美が良ければな」

「石原部長(さっきん)、私もいいよー。椎弥(しいやん)と寝るなんて楽しそうじゃん」

「ちょ、ちょっと待って。僕はひとりで」

「石原、海野、そういうわけにはいかんだろ。学校で変な風に噂が広まったら椎弥が恨まれかねん。あ、あと小鳥遊たちの部屋もダメな」

 学校で人気のある、石原先輩、海野先輩と一緒に寝たことが知れたら学校中の生徒に敵認定されそうである。

 

 先生の指示に、和奏と茜さんもがっかりしていた。それを見てクスクス笑っている彩衣先輩たちのやりとりに僕は気づいていなかった。


「じゃあ花咲、せめて布団は俺が運んでやる。そっちの窓際な。そこならだれの邪魔にもならんだろ」

 言葉と共に涼島先生(せんせい)は、2階の部屋へと上がって行く。後を追うように各自が荷物を持って自分たちの部屋の入って行った。


 ひとりリビングに残された僕。考えようによってはこの広い部屋を独占できると考えればラッキーなのかもしれない。


 パタパタと布団を持って降りてくる涼島先生(せんせい)、窓際に布団を敷くと「じゃあ悪いな」と一言残しさっさと部屋に戻った。


 内容までは分からないが、各部屋から黄色い声が渇いた空気を伝わって微かに耳に入る。非日常の景色と夜に聞く事のない仲間たちの声が旅行という雰囲気を強め、より一層の高揚感を生み出す。


 しばらく布団に横になって窓越しに煌く星空を眺めながら聞いていたが、唐突に寂しさに襲われた。

 ログハウスを出てデッキに腰を下ろし『闇に映える森の景色』と『夏の空』を眺めながら楽しい夏合宿を思い返していた。


 ポケットからスマホを取り出してラジオアプリを起動し、いつもの放送局を流すとデッキに無造作に置いた。腰を下ろしたまま上体だけ横になって、夜の大自然のBGMを背景にラジオを聴きながら無数の星空を眺めているといつのまにか眠りについてしまった。



 ○。○。


「……さん。おかぁさん。私を置いていかないで」

 またあの夢だ。あの時の少女。長い髪の小さな女の子


「もう止めて、お願い、お願い」

 女の子が叩かれている。必死に頭を守るようにかばっている。


「もうダメだな。まだ小さいのに」

 そんなこと言わないで。雨? なにかが降ってくる……消える……待って、待って。


 ○。○。



 目を覚ますと僕の右手は空に向かって伸びていた。眼にはうっすら涙が溜まっている。寝てしまった事に気づいた僕は時間を確認しようとデッキに置いたスマホを手で探る。


 柔らかい感触を手に感じた。なんだろうとそのまま動かすとパシリと手の甲を叩かれる。慌てて起き上がると隣には彩衣先輩がニコニコしながら座っていた。


「彩衣先輩ごめんなさい」

 深々とお辞儀をする。ニコニコした顔が僕には怒っている様に映った。嫌われたらどうしようという焦燥感に包まれる。


「大丈夫よ怒ってないわ。わざとじゃないって分かるからね」

 立てた膝に両手を乗せ、広げた手の平に顔を乗せている彩衣先輩。

「どうしたんですか、こんなところで」

「ちょっとね椎弥くんと話しをしたいなと思ってね。それにいくら夏といってもそんな恰好で寝てたら風邪をひくわよ」

 気づかなかったがタオルケットが掛けられていた。彩衣先輩の優しさに心が温かくなる。

「話しておきたいこと……。一体なんですか」

 

「わたしね、あなたの心が分かるの」

「それは知ってますけど……」

 あたりまえすぎて「えっ?」という表情になってしまった。

「違うの、わたしが最初にあなたに言ったこと覚えてる?」

 美術室で絵が好きではないことをしてきたされた時のことを思い出す。

「…………なんとなく分かる」

「そう。なんとなくなの。和奏ちゃんにも話したけど、心の距離が近くなるほどハッキリ分かるの。無意識に人の心が入ってはこないんだけど、最近、椎弥くんの心もハッキリ分かるようになってきたの。だからこれ以上私と仲良くすると全部あなたの心が分かるようになっちゃうわ。こんなわたし、気持ち悪いでしょ」

 彩衣先輩はうつむいていた。微かに照らされた顔は悲しそうな表情。初めて見る顔だった。

「…………」

「……だからこれ以上私と仲良くしない方があなたのためよ」

 彩衣先輩の目に涙が溜まっているように見える。月が背景となって顔を影に覆われてしまい良く見えない。僕はハッキリと彩衣先輩に言葉を返した。

「……彩衣先輩。そんなことか、もう僕に近づかないでなんて言われたらどうしようかと思ったよ。その程度なら彩衣先輩と仲良く出来ない方が僕にとって辛いことだよ」

 彩衣先輩が視線を落とす。一筋の涙が頬を伝わってデッキを濡らすのが分かった。

「ありがとう。一応わたしも女の子だからね。ごめんね変なところ見せて」

 そう言うとログハウスの中に入って行った。


 僕はあまりの愛おしさにその場で暫く惚けていた。



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前作までの登場人物:

藍彩高校

 1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。

   中村茜(なかむらあかね) ……美術部、淡い気持ち

   西田謙介(にしだけんすけ)  ……サッカー部、モテる。

 (担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問


 美術部

  2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い

  2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、言動が男を勘違いさせる。

  3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切


彩光高校

   原田和奏(はらだわかな) ……幼馴染、料理が上手い。意地っ張り

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