第14話 それぞれの想い
下部に前作までの簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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宿泊場所はログハウス。敷地の中に何棟ものログハウスが並び、バーベキューやアウトドア、テニスなどが出来るリゾート地。
「花咲、原田さんはちょっとここに残ってくれ。みんなは先にログハウスに行って荷物を置いてきなさい」
和奏とともにこの場に残される。涼島先生(せんせい)は一体何があって呼び出したのだろう。しかも和奏と一緒ということは何か車内でまずいことでも言ったのだろうか。
調子に乗り過ぎてしまったことを後悔した。和奏や彩衣先輩と一緒にいる時間が楽しくて抑える心を弱めていたのかもしれない。普段通りの涼島(せんせい)の顔が心なしか怒っているように感じた。
「花咲、原田さん。彩光高校の校長と野球部の監督が藍彩高校に来たんだ。そこで花咲、お前を彩光高校に転校させてもらえないかと校長が頼まれたそうだ。一体何があったんだ」
「先生。それは私が悪いんです。椎弥は悪くありません」
拳を胸の前に作って和奏が訴える。
「原田さん、それは誤解だ。悪いという話をしている訳じゃない。むしろ藍彩高校にとっては名誉なことなんだ。彩光高校に私たちが頭を下げに行くことはあっても、彩光高校が頭を下げにくることなんて学校始まって以来、初めてのことだからな」
笑いながら答える涼島。
「成り行きで彩光高校の野球部と試合をする事になったんです。結果は負けてしまったけど1軍に9回ツーアウトまでノーヒットに抑えました」
「花咲、それは本当か。彩光高校の1軍と言えば甲子園常連校だぞ。なんでお前が……。なぜ美術部なんかに」
「先生、椎弥は小学生の時に野球をやってたんです。中学校の途中で止めてしまいましたけど」
「和奏。僕から説明するよ。結論からいいますと僕は彩光高校へは行きません。藍彩高校の美術部で頑張ります」
「彩光高校に行けば甲子園出場……いや、プロ野球選手だって目指せるんだぞ」
「それでもです。僕は藍彩高校で色々と学びながら先のことを考えて行きたいのです」
「……そうか。まあ、お前の人生だ。口惜しいが俺が言えるのはここまでだ。気が変わったらいつでも言ってくれ。どうせなら藍彩高校の野球部でもいいぞ」
「はい。ありがとうございます。先生は分かってましたよね。僕が最初から彩光高校に行く意思がないことを」
「フン、お前は小鳥遊(たかなし)か。まあいい、校長先生には俺から言っておくよ」
* * *
「和奏さん、一緒に絵を描きに行きませんか」
中村(あかね)が積極的に和奏を誘っていた。
「じゃあ、椎弥と彩衣も呼んでくるね」
「いえ、和奏さんとふたりで絵を描きたいんです」
「そう、じゃあふたりに話してくるね」
「大丈夫、聞こえてたよ。行ってきな。ぼくは彩衣先輩と行ってくるよ」
「夏美は私と夕食の準備な」
「えー、石原部長(さっきん)。わたしもみんなと絵を描きに行きたいよー」
石原(ぶちょう)に腕を掴まれ夏美(せんぱい)はキッチンに引き込まれた。
「椎弥くん、石原先輩(ぶちょう)はみんなに気を利かせてくれたみたいね」
「じゃあ彩衣先輩。どこかいい場所を探しに行きましょう」
それぞれが分かれて絵を描くことになった。合宿という位だから一緒に行動するものと思っていたがそうではないようだ。それに、僕と和奏が先生から呼び出しを受けて話した内容について誰からも聞かれない。気にしていないのか……気を使ってくれているのか。
「それは気を使っているのよ。和奏ちゃんと椎弥くんが呼び出されたでしょ。生徒と部外者。それに幼馴染で男女ときたら良くないこと警戒して注意したんじゃないかと思っているみたいね」
「彩衣先輩は?」
「わたしは一緒に野球を見に行ったからね。監督も言ってたでしょ、今日の所は引き下がるって。だからそのことなのかなーってね」
「その通りです。彩衣先輩が言った通りです。誘いは断りました。僕はこの学校が好きだから、美術部や彩衣先輩が」
「ふふ、そういう言い方は良くないわね。知らない人が聞いたら勘違いしちゃうわよ。でも、今のあなたがわたしに抱(いだ)いている感情。それ以上は大きくしない方が良いわ。それよりも和奏ちゃんを大切にしてあげなさい。気づいているんでしょ和奏ちゃんの気持ち」
「和奏はいい子だ。僕になんてもったいない。彩光高校を卒業して自分の道を見つけて欲しい。藍彩に来た僕なんかが足を引っ張りたくないんだ」
「それでいいのよ。自分の思う通りにしたらいいわ。2年、3年となって今のあなたや和奏ちゃんの気持ちがどう変わるか分からないものね」
山道を歩きながら本音で話す。彩衣先輩には本音しか通用しない。人間不信だった僕がこうまで話せるようになったのは、和奏と彩衣先輩のおかげだ。
ブッゥ、ブッゥブッゥ
ドコネを通じてメッセージが入る。相手は和奏。
[和奏] 今、茜ちゃんと絵を描いてるよ。椎弥、ふたりきりだからって彩衣に手を出しちゃだめよ。
スマホの画面を彩衣先輩に見せるとクスリと笑い返してくれた。
「まったく、和奏も心を読めるんかい」
「ふふふ、大丈夫よ手は出されていないわ」
[椎弥] 大丈夫だ。彩衣先輩と絵を描く場所を探しているだけだ。
[彩衣] 大丈夫よ。お話はしているけど手は出されていないわ。
[和奏] うー。なんかふたり楽しそうでくやしー
近くで水が流れ落ち水しぶきが弾ける音が聞こえる。この音は滝だ。
[椎弥] 和奏すまん。いい場所が見つかりそうだ。また後で連絡する。
「彩衣先輩、滝を描きましょう。もやもやした感情を洗い流してくれる滝の音を聞きながら」
彩衣先輩の腕を掴みゆっくりと引いて滝に向かう。僕のドキドキしていた心は彩衣先輩には見透かされているだろう。
小さな滝、高い木々に囲まれた森の中、木々の隙間を縫って陽の光が滝を照らしているとても美しく神秘的な場所。
ここで絵を描けていわれているように置かれている大きな石。そこで肩を並べて絵を描き始める。
神秘的な空気、美しい景色の中、彩衣先輩から珍しく声をかけてきた。
「椎弥くん、わたしいつかね。ふたりに話しておきたいことがあるの。心が分かるようになった理由とこれからの私を」
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前作までの登場人物:
藍彩高校
1B花咲椎弥(はなさきしいや):人間不信。特定の人は慣れた。
中村茜(なかむらあかね) ……美術部、淡い気持ち
西田謙介(にしだけんすけ) ……サッカー部、モテる。
(担)涼島啓介(りょうしまけいすけ) ……担任、美術部顧問
美術部
2A:小鳥遊彩衣(たかなしあい) ……心が読める。気になる存在、料理旨い
2C:海野夏美(うみのなつみ) ……元気、言動が男を勘違いさせる。
3C:石原早希(いしはらさき) ……頭が良い。美術部が大切
彩光高校
原田和奏(はらだわかな) ……幼馴染、料理が上手い。意地っ張り
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