4-15

そして、リフィリア王国の医療施設に運ばれたジュンとルイーザは、すぐに手術が行われた。

体の傷は治癒したものの、高熱が下がらず、体力も著しく衰弱している状態だった。しかし、幸いにも施設内にいた多くの治癒師たちの献身的な治療のおかげで、2人は最悪の事態を免れた。

それから2日が経ったある日のことだった。


「・・・う・・・ん・・・」

ジュンがうっすらと目を開けた。


生きている――最初に浮かんだのは、その安堵感だった。体に感じる鈍い痛みはあるが、致命的なものではなさそうだ。意識を取り戻したジュンは、自分がどこにいるのかを確認するように目を動かす。


「ここは・・・」


「ジュン! 気がついたのね! 本当に良かった・・・!」


隣にいたルイーザが、目に涙を浮かべながらジュンの無事を喜ぶ。彼女もほんの数時間前に目を覚ましたばかりだという。


「僕たち、生き延びたのか・・・。どうやって助かったんだ?」


「クルールが助けてくれたのよ。タワーの頂上から私たちを運んで、すぐにこの医療施設まで連れてきてくれたみたい」


「そうか・・・本当に感謝しないとな」


クルールは現在、ギルドに今回の事件の詳細を報告しに行っているらしい。彼に会ったら、改めてお礼を言おうとジュンは心に決めた。


その時、白衣を着た女性が部屋に入ってきた。


「おや、目が覚めたみたいね。無事に回復してくれて本当に良かった」


「あなたが僕たちを治療してくれたの?」


「ええ、そうよ。簡単に自己紹介しておくわね。私はウェンディ、フリーで医者をやっているの」


ウェンディは旅をしながら医療技術を磨いているそうで、今は資金稼ぎのためにこの施設で働いているのだという。


「とりあえず、傷は完全に治しておいたけど、体力はまだ完全じゃないわ。2~3日は大人しくしてなさいね」


「ありがとう、本当に助かったよ」


「私もここでしばらく働いているから、何かあったら気軽に相談に来なさい。それじゃあ、またね」


そう言うと、ウェンディは部屋を後にした。


しばらく休息を取った2人は、自分たちの体の状態を確認するために、医療施設の外にある広場へ向かう。

そこはリハビリ用の庭園のような場所で、中央は芝生が敷かれ、周囲には運動器具が設置されている。


「さて、体を動かしてみよう」


ジュンとルイーザは芝生の上で軽く動きを試してみた。腕を回し、足を伸ばし、ジャンプをしてみる――特に問題はなさそうだ。傷の痛みも消え、動きに制限は感じられない。


しかし、武器を手にした瞬間、異変が起きた。


ジュンが剣を構えようとしたが、その手が震え、力が入らず、武器を地面に落としてしまった。


「え・・・なんだこれ・・・?」


同じくルイーザも弓を手にしようとしたが、恐怖に似た感覚が込み上げ、手が武器を拒否するかのように動かなくなった。


「これ・・・どういうこと・・・?」


混乱する2人。ジュンは試しに盾を取り出してみたが、それもすぐに取り落としてしまう。手が震え、冷や汗が背中を伝う。


「この間まで普通に使えてたのに・・・なんでだ・・・」


体は動くのに、武器を手にすると全身が硬直し、恐怖で力が抜ける。それはまるで、命をかけたあの戦いの記憶が心に深い爪痕を残し、武器を持つことを拒絶しているようだった。


「ジュン・・・これって・・・私たち、もう冒険者を続けられないんじゃない・・・?」


ルイーザの声が震えている。彼女の中にも、恐怖が根を張っているのが伝わってきた。


「そんな・・・そんなこと・・・」


ジュンも答えを出せないまま、武器を拾おうとするが、再び手が震えて握ることができない。その場でうずくまる2人に、暗い影が覆いかぶさるような絶望感が漂い始めていた。

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