4-14

風の渦が、ゆっくりとジュンとルイーザに迫る。逃げ場はない。


ジュンは魔法の盾を展開するが、風の渦は正面だけでは防ぎきれない。内部では羽の刃があらゆる方向から飛び交い、盾の意味がない。何とか突破口を探そうとするが、方法は見つからない。2人は覚悟を決め、身構えるしかなかった。


ついに渦に巻き込まれた。凄まじい風速で立つこともできず、羽の刃が次々と体に突き刺さる。痛みが全身を走り、視界が揺れる。盾は風に吹き飛ばされ、完全に無防備となった。傷は増え続け、血が流れる。意識が遠のき、死を覚悟する瞬間が訪れたその時――


「獣波動!」


クルールの声が響き、彼の繰り出した光弾が渦を包む羽の刃を一つ残らず破壊していく。渦の勢いも弱まり、風は消え去った。


「ジュン!ルイーザ!」


クルールは2人のもとに駆け寄る。彼らは傷だらけで、すでに意識を失っていた。呼吸はあるが、このままでは命が危ない。


「くそっ、早く手当てしなければ…!」


「逃すと思いますか?」


ローデンの冷たい声が背後から響く。クルールは振り返りながら、2人を抱え上げる。


「こいつらの命を助ける。それが俺のやるべきことだ。悪いが逃げさせてもらう。」


「どこへ逃げるつもりですか?出口は一つ、ここを通ることはできない。」


ローデンが自信満々に言い放つ。しかしクルールは、無言で窓際に向かうと、思い切り窓を突き破った。


「飛び降りるだと…!」


高さ200メートル近い舟堀タワー。その外壁を伝い、支柱や鉄骨を次々に足場にして降りていく。クルールの圧倒的な身体能力が成し得る離れ業だ。


「なるほど。さすが脳筋らしい発想ですね。」


ローデンは呆れたように呟くが、追うのは断念せざるを得なかった。彼の姿は瞬く間に見えなくなる。


クルールたちは逃したものの、ジュンとルイーザには致命傷を与えた。それだけで十分だ。彼らは恐怖を植え付けられ、二度と冒険者として立ち上がることはないだろう――ローデンはそう考えた。


しかし、任務の失敗は認めざるを得ない。さらに、外から足音が響いてきた。ギルドや兵士たちがタワーに迫っている。ローデンは撤退を決意し、ファランを抱えてその場を去った。


こうして、舟堀の街は解放された。しかし、ギルド長や住人たちの姿はどこにも見当たらない。彼らは一体どこへ消えたのか。


一方、リフィリア王国では、ジュンたちがレーザー砲を破壊したおかげで被害を免れた。しかし、致命傷を負ったジュンとルイーザの命は風前の灯火だ。


「持ちこたえろよ…絶対に助けてやる!」


クルールは2人を抱え、急ぎ医療施設へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る