4-3

舟堀の街の壁に再びやってきた。相変わらず見張りが立っているが、近づいても特に何かされるわけではない。余裕を見せているのだろうか。それとも、どんな対策をされても破られないという自信があるのかもしれない。

改めて観察してみると、まず目を引くのは壁の大きさだった。


ルイーザがリフィリア王国から旅立った時、この壁は存在しなかった。それがたった数日でこれほどのものを築き上げたというのだから、建築技術は相当なものだろう。だが、それが敵の手に渡っていると考えると厄介だ。

壁を登って侵入することはできるだろうか。崖ならまだしも、この壁には掴める場所が全くない。どうやら、登るという手段は難しそうだ。


「こうなったら、壁を壊すしかないんじゃない?」

ルイーザが唐突に言う。


「いや、それは本当に最後の手段だから!」

ジュンは慌てて否定した。放っておくと、彼女なら本当にワッフルを使って突撃しそうだ。


とはいえ、壁を叩いてみると、ところどころに作りの甘さが見受けられる。どうやらスピード重視で建てたせいで、耐久性が犠牲になったらしい。もし、この壁が崩れるとしたら――。


「いや、ダメだ。崩したら、近くの家も巻き添えになるかもしれないな」

ジュンは頭を振った。敵の狙いがそこにあるとしたら、ただの壁ではなく罠だ。もし攻撃を仕掛ければ、住民を巻き込む危険性がある。


街の東側にも回り込んでみたが、こちらはさらに厳重で入り口すらない。遠くにそびえる舟堀タワーが目に入った。窓越しに、タワー内部に武器のようなものが見える。どうやら、相手はジュンの世界で使われるような銃器を扱えるらしい。


次に北側へ移動した。ここにも入り口があり、見張りが2人立っている。川の向こうには、お城のような建物がうっすらと見える。


「あれがリフィリア王国よ。あの街から川を渡る橋が伸びているわ。橋を使えば王国まですぐに行けるけど、街に入れないとなると遠回りするしかないわね」

ルイーザが指差して説明する。


「でも、こんな状況で放っておくわけにはいかないな。リフィリア王国にも影響が出るだろうし」

ジュンは悩んだ。このままでは、街を不法占拠した敵の思うがままだ。


そのとき、ふとジュンの脳裏にある可能性が浮かんだ。この街には地下鉄の駅があったはずだ。もし、この街がジュンの世界ごと異界に取り込まれたのだとすれば、地下鉄の入口はどこかと繋がっているのではないだろうか? ひょっとすると、水江の街から行けるのでは――。


「なあ、ルイーザ。水江の街にいた時、地下に降りる建物があったの覚えてる?」


「ええ、確か『駅』とか呼ばれる建物でしょ。降りたことあるわ」


「その時、暗い通路が奥に続いているのを見たことない?」


「ああ、あったわね。確かクルールが調査してるって話を聞いたことあるけど、忙しくてほとんど進んでないらしいわ」


つまり、その道は未調査のままだということだ。ジュンはそこに突破口があると感じた。


「ルイーザ、もしかしたら街に入る方法があるかもしれない」


「え?本当?」


「まずは作戦タイムだ。宿に戻ろう」

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